中古車屋さんでもないのに、同じ型の三菱・ギャランシグマを5台も所有する理由とは?
鈴鹿サーキットに立てられる看板などを描いていたという看板職人の父親に連れられて、軽トラに看板を積んでサーキットコースを走ったり、ピットを特別に見せてもらった記憶があるとニッコリしながら教えてくれた冨澤さん。
「F1で使った廃タイヤをもらってきて、その上にガラスを敷いてテーブルにしたり、珍しいエルフ柄の100ℓドラム缶を持ってきたりとか、今思ったらすごいことをしとったんやな~って思います」
そんなお父様がかつて乗っていた三菱・ギャランΣ(以降ギャランシグマ)を、気付けば5台も集めてしまったという冨澤さん。何故このクルマばかり5台も? と伺ってみても「いつの間にか……という感じです」と答えてくれた。しかし、懐かしそうな声でお父様との思い出話をする声は、切っても切れない親子の絆を感じさせた。
「親父はお酒を飲むのが好きな人で、花を育てたり、秋田犬やらラブラドールやらをずっと飼っとって、よう連れて歩いとったわ。メーターの所に置いてある梅ガムがあるでしょ? クルマに乗るときはいつもあそこに置いて食べとったんですよ」
そんな環境で育ったため、クルマはとても身近な存在で、ごくごく自然に好きになっていったという冨澤さん。クルマ屋さんなどではないにも関わらず、現在はギャラン以外にも1990式のトヨタ・クラウンや1996年式の日産・シーマなど13台を所有しているという。
年式が1番新しいものでも2004年式のスズキ・ワゴンRだそうで、周りから「古いから大変そう」と言われることもあるそうだが、「新型車の方がよっぽど手強い。最近のクルマにはついていけないよ。自動ブレーキとかアイドリングストップとかは付いてないけど、走る・止まるがしっかりしていてエアコンもバッチリやったらクルマは充分やと思ってるから」と笑った。
そんな冨澤さんが、1台目のギャランシグマを手に入れたのは29才の時。マニュアル車を運転してみたいと思ってインターネットオークションで探していたところ、グレードこそ違うものの、お父様がかつて乗っていたギャランシグマが目に止まったそうだ。
「4MTでボディカラーも一緒やったんですよ。懐かしいな~と思って乗りたくなってしまったんですよね」
3代目にあたる「ギャランシグマ」は1976年5月に発売され、技術の“集大成”を注いだセダンの意味を込めて「Σ(シグマ)」のサブネームが与えられたモデル。
ちなみに、冨澤さんが所有する5台は、1台目が前期型1850GL、2台目が後期型2000スーパーサルーン、3台目が後期型1600SLスーパー、4台目と5台目が後期型2000スーパーエステートとバラエティに富んでいる。乗り味もそれぞれで、それがまた面白いのだそうだ。
例えばサターン80エンジンを搭載している後期型1600SLスーパーは3000~5000回転くらいで軽快な走りを見せ、アストロン80エンジンを搭載している後期型2000スーパーエステートは2000~3500回転くらいで気持ちよくトルクある走りを見せてくれるという。
前期型1850GLは、アストロン80エンジンのトルク感と、サターン80エンジンの軽快さが半分ずつといったところらしい。
「中古車なので個体差もあると思いますけどね。後期型はサイレントシャフトとジェットバルブが装着され、三元触媒も付いたことによって高回転には不向きなエンジンになったんです。排出ガス規制前の前期型1850GLはレッドゾーン手前まで使って気持ち良く走れますよ」
昭和53年度排出ガス規制を境に排出ガス処理方式が変わり、そこでも走りに差が出てくるのだと、泉のごとくわき出るギャランについての知識を披露してくれた。
「4台目の後期型2000スーパーエステートは、現代のハイスピードレンジに合わせようとすると若干の物足りなさを感じたので、吸気の高効率化を図るためにウェーバー製キャブレターに交換して、タコ足も交換したりと少し手を加えています。加速もスムーズで、よりトルクのある走りができるようになりました。
今日乗ってきている5台目もまったく同じグレードなんですけど、こっちはフルノーマルなので走りは全然違いますね」
そして、お父様が乗っていたギャランとまったくおなじだという3台目の後期型1600SLスーパーは、本当はフルノーマルで乗りたかったのに『カスタムせざるを得なかった』のだという。
「出品地が隣の滋賀県で、サビもなく程度が良かったから『これはええぞ!』と喜んで購入したんです。なにより父親が乗っていたのとおなじモデルやったから即決でした。けどね…エンジンはかかるんやけど、なぜかまったく走らへんかったんです」
結果的にはキャブレターの配管が間違っていたことが原因だったものの、修理することが難しかったため潔くソレックス製キャブレターに入れ替えることでリスタートを切ったと話してくれた。
「思わぬアクシデントにより出鼻をくじかれたけど、いいんですよ! 走りも良くなったんやし」と、吹っ切れた清々しい顔で笑ったのが印象的だった。
良くも悪くもこういうアクシデントは初めてというわけではなく、ある程度のことは慣れっ子になっているのだそうだ。
「何気なく乗り始めたギャランなんやけど、ここまでくると“種の保存”という感じかもしれません。なぜそうしたいかと言うと、産まれた時にギャランがいて親父がそのクルマに乗っていたからというだけなんですよ。それがクラウンやったらクラウンやし、ブルーバードやったらブルーバードやったと思うんです。
でも、クルマ屋のおっちゃんが『いろんなクルマに乗ってるけどギャランが1番似合うなー』って言ってくれるので、自分にしっくりくるクルマなのかもしれないです」
ちなみにギャランのナンバープレートはすべて当時お父様が乗っていたものとおなじ数字に合わせているそうで、クルマ屋さんに預けるたびに「今回はどのギャランを持ってきたんや」と困惑させてしまうんだとか。
それでもこのナンバーを付けていたいのは、懐かしい思い出を忘れたくないからではないだろうか。
取材協力:ジャストマイテイストミーティング
(文:矢田部明子 / 撮影:平野 陽)
[GAZOO 編集部]
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