電動SUV全盛時代に、僕は純ガソリンハッチバックのMAZDA3で釣りに行く
ひと昔前、いやふた昔ぐらい前までは「若者」に「ハッチバック車」は付き物だったように思う。
比較的安価に買えて、軽快に走れるハッチバック。小ぶりなボディゆえに荷物はあまり載らないが、若者には“荷物”などという無粋なモノより、もっと大切なものやコトがたくさんあった。どうしてもたくさんの荷物を載せる必要があるときには、小さなハッチバックにギュウギュウ詰めさえすれば、それで良かった。
だが、いつしか若者はハッチバックの代わりにミニバンやSUVを選ぶようになった。さらには「純ガソリンエンジン車」も、彼ら・彼女らにとっては過去の遺物に見え始めてきたのかもしれない。
いやもっと言ってしまえば、車を所有するという概念自体を過去の遺物ととらえている若衆もいるだろう。「シェアでいいじゃん」「なんなら公共交通機関で十分でしょ」というニュアンスで。
しかし「でも、なんだかんだで純ガソリンエンジンのハッチバックを自己所有することこそが、若い世代にとってはベストな選択であるというか、少なくとも自分にとってはベストだと思ってるんですよね」と言う人もいる。
2年前に人生初の愛車としてMAZDA 3ファストバックの15Sツーリングを選んだ颯さんだ。
子どもの頃から車は大好きだった。両親と一緒にドリフトの「D1グランプリ」を観に行ったり、『頭文字D』のアニメに熱中したり。「18歳になって運転免許を取ったら“イニD”に出てくるようなスポーツカーを買う!」と心に決めていた。
だが実際は、なかなかそうもいかなかった。
大学を卒業してレコード会社に就職したが、雇用形態はいわゆる契約社員。決して高収入というわけではなかった。息をして、ご飯を食べて、時おり若者らしい余暇を楽しめば、「車を買ったり、月極駐車場代や保険料を支払ったり」というお金はほとんど残らなかった。
しかし今から2年前、転職して正社員になった。もちろん依然として超高給取りというわけではないが、「何らかの車を買う」ぐらいの目処は立ってきた。
「そうなったときはもう迷わなかったですね。『純ガソリンエンジンの、ハッチバック車を買う』ということを」
周囲の友人で車を持っている者は皆ハイブリッド車を選んでいたが、颯さんは「車に詳しいわけでは全然ないのですが、あの無機質な感じというか、スムーズすぎる感じがどうも好きになれない」と感じていた。実家で親が使っているハイブリッド車に乗るたびに「……何か違う。これじゃない」と思った。
印象に残っていたのは、大学生時代にたまたまレンタカーとして借りたマツダ デミオだった。
「車名がMAZDA 2に変わる直前のやつか、その前の世代だったかも実は覚えてないのですが、純ガソリンエンジン車ならではのビート感と、デミオという車のキビキビとした走り、後席を倒せば荷物もけっこう載せられること。そして何より『安い!』ということが、強烈な印象として残ってるんです」
神奈川県内の自宅から伊豆半島まで赴いての“釣り”を趣味としている颯さんにとって、「ベストな釣り車」はもしかしたら、ハイブリッドシステムを採用するステーションワゴンあるいはSUVなのかもしれない。ガソリンエンジン車よりも燃料代を抑えることができ、なおかつロッド(釣り竿)なども積載しやすいからだ。
「それもわかりますが、でも端的に言って高いじゃないですか? ハイブリッドのステーションワゴンとかSUVって。『ハイブリッドは好きじゃない』というのもありますが、そもそも今の僕にはステーションワゴンやSUVは予算的に合わないんです。でも『純ガソリンエンジンのハッチバック』なら、今の僕の収入でも意外とイケるんですよ」
何車種かの「純ガソリンエンジンを搭載するハッチバック」を検討したが、結果としてMAZDA 3ファストバック 15Sツーリングに決めた。ディーラーで試乗した際に感じた走行フィールとインテリアデザインの良さが決め手だったが、それと同時に決め手となったのは「比較的安価である」ということだった。
「MAZDA 3ファストバックでもハイブリッド車やディーゼル車の上級グレードだと、車両価格は300万円近くとか、300万円以上したりします。でも僕が選んだガソリンエンジンの15Sツーリングなら、車両価格は230万円ぐらいで済むんですよね」
颯さんが言う「230万円ぐらい」というのは約2年前の話で、直近のMAZDA 3ファストバック 15Sツーリングは車両本体価格249万8100円に変わっている。が、「純ガソリンエンジンのハッチバック車は(相対的に)安価である」という本質自体は、今も変わっていない。
「小さめなハッチバックでも、ちょっと工夫すればタックル(釣り道具)は普通に積めますし、1.5Lだからそんなにパワフルではないけど、よく回る気持ちの良いエンジンで、伊豆のワインディングなんかも相当気持ちよく走れます。まぁ燃費はハイブリッド車のほうがいいのかもしれませんが、そもそもの車両価格差を考えれば、個人的には『シンプルなガソリンエンジン車のほうがむしろ経済的なんじゃね?』とも思うんですよね」
車というのは、場合によってはディーラーの展示車を眺めるだけでも楽しかったりするものだが、基本的には「自分のモノとして入手し、そのうえで実際に使い倒す」ことで初めて、その真の威力というか魅力を発揮するものだ。
その意味で「シンプルなガソリンエンジンを搭載する、比較的安価なハッチバック」というジャンルは今もなお、若い世代にとってはきわめて重要なポジションを保持し続けているはず。「とりあえず買える」ということが、実は何よりも重要なのだ。それがないことには、すべては絵に描いた餅になってしまう。
そして、その「買える車」がもしもMAZDA 3ファストバックのように美しく、Feel so goodな走りを体感できる一台であったなら――言うことなしである。
(文=伊達軍曹/撮影=阿部昌也/編集=vehiclenaviMAGAZINE編集部)
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