チンクエチェントの原点に惹きつけられて始まった夫婦でのスローカーライフ

  • クラシックカーヘリテイジカーミーティングTTCM2023で愛車取材したFIAT500

    FIAT500

世界中の自動車が“電動化"へとシフトするなか、もし『歴代エンジン車の殿堂』を残すとしたら、どんなクルマを思い浮かべるだろう? 小型の大衆車として1930年代から活躍し続けるFIAT500(チンクエチェント)も、その有力候補として多くの票を集めるのではないだろうか。
90年近くにわたって愛されてきた歴代チンクはどれも魅力的だが、やはりそのルーツは“オールドチンク”にあると言っていい。
ちなみに、一般的に“古いFIAT500"と聞いて多くのひとが思い浮かべる姿は2代目で、初代は戦前から存在した『トポリーノ』。これに対して、大ヒットとなった有名な2代目の丸っこいFIAT500は、イタリア語で“NEW"を意味する『ヌオーヴァ』と呼ばれて区別されている。このヌオーヴァはデビューした1957年から1975年まで長きに渡って367万台以上が生産されたという伝説の小型車だ。
あらためて説明するまでもなく、現代のFIAT500、そして電気自動車のFIAT500eにもそのデザインアイデンティティが引き継がれているのは間違いない。

さて前置きが長くなったが、そんな超ロングセラーの『ヌオーヴァ500』(※以下、FIAT500と表記)には、ワゴンがあったり、アバルトのチューニングカーがあったりとさまざまな派生モデルが存在し、幾度にもおよぶモデルチェンジの歴史がある。
その紹介はキリがないので割愛させてもらうが、栃木県で開催された『クラシックカーヘリテイジカーミーティングTTCM2023』で出会ったT.YさんのFIAT500は、ヌオーヴァのモデル末期にあった『Rタイプ』と呼ばれるモデル。
基本的な部分はスタンダードなFタイプに準ずるのだが、エンジンが600ccに変更されており、当然500ccよりも走りにゆとりあるのが特徴だ。

そもそも、このクルマを手に入れる前からツインエアエンジン搭載の現代版FIAT500を所有していたというT.Yさん。
徐々にチンクエチェントのルーツに興味が湧いてきて「機会があれば乗ってみたい」と思うようになった頃に、たまたまいつも通る道沿いのクルマ屋さんにポツンと置かれていたFIAT500が気になり始めたという。
「一体あのチンクは売り物なのか、飾ってあるだけなのか。はたまた預かり物なのか?」
いつまで経ってもいなくなる気配はないし、もしかして販売用なのかもしれない。見かけるようになって1年ほどが過ぎた頃、ついに声をかけてみると売ってくれるということで、晴れてオーナーになったそうだ。

なんといっても惹かれたのが、ブリティッシュグリーンとでも呼びたくなるような鮮やかなボディカラー。
「どこかのメーカー純正色なのか? このグリーンの正体は不明ですが、元々は白いボディだったみたいです。何しろ、この飽きることがないデザインは最高ですよ! ビュンビュン飛ばせるようなクルマじゃないし、ノンシンクロのミッションなので、ダブルクラッチを使うとか、完全に止まってからじゃないとローギアに入れられないとか、操作や取り扱いは面倒ですが、それ以上の歓びがありますよ」と目を細めるT.Yさん。

某作家さんが前オーナーだったという車両は、幸いにして見た目だけではなく機関系も程度が良かったそうで、これまでにデストリビュータを交換したくらいで大きなトラブルもなく付き合うことができているという。
ただし、バッテリーだけは予防整備としてたまに充電を心がけているそうで「今朝も一発でエンジン始動でした」という笑顔からは、大事なFIAT500をいたわる気持ちも垣間見えてくる。

このFIAT500は普段使いせずイベント参加などが主な使用用途ということだが、最長では新潟県の小千谷まで70km/h走行でのんびりクラシックカーのイベントへと遠征した経験も。ちなみにその時はエンジンレベルゲージが抜けてしまいエンジンルームから白煙が出て「エンジンがブローしてしまったのか!?」と焦ったそうだが、大事には至らずほっと胸を撫で下ろしたそうだ。

もっぱら運転するのはT.Yさんで奥様は「私では扱えないです」と話すが、夫婦揃ってFIAT500は大好き。奥様はSNSを通じて自然とチンク界隈の仲間が増えているご様子で、FIAT500に乗るようになってからは飲むワインにこだわったりするなどイタリア文化や食にも興味が出てきたという
また、お二人が座ってくつろいでいた小型テーブルと2脚のチェアも奥様が自らアレンジしたものだそうで、気になったのは愛車にそっくりなグリーンボディのチンクがあしらわれた生地。
「実はたまたま友人が見つけてきてくれたもので『あなたのウチのクルマにそっくりじゃない?』と教えてくれたんです。インターネットショッピングで普通に買えるんですが、すっかり生地を全部使いきってしまったので、リピートで欲しいなと思っています」とのこと。
愛車とは本当にさまざまな楽しみ方を与えてくれるものだと、改めて感心させられる。

今回T.Yさんと出会った『クラシックカーヘリテイジカーミーティングTTCM2023』は、多肉植物をテーマにしたワークショップイベント『トハメルカド』との併催ということもあり、女性やファミリーも多く、お手製のぬいぐるみやクッションなどでハロウィン仕様に室内外を仮装したチンクを見て「可愛い〜」と通りすがりにスナップを撮影していく来場者の姿も多く見られた。
乗る人だけでなく、見る人まで笑顔にさせてくれるこの可愛らしさもまた、FIAT500の魅力といえるだろう。

「フロントにエンジンがないので回頭性が良くて、ヒョイっと曲がるので面白いクルマですね。快適装備はヒーターもラジオもないし、さすがに夏場は厳しいんですが、その代わりに幌が開閉できる。たまに開けて走ることもありますが、気持ちいいですよ」と楽しそうに語るT.Yさん。
イベントが終わり、荷物を片付けてお二人でのんびりと走り去っていく姿に、なんだかほっこりと癒されてしまった。

取材協力:クラシックカーヘリテイジカーミーティングTTCM2023
(⽂:TOKYO CIAO MEDIA / 撮影:岩島浩樹)
[GAZOO編集部]

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