友人の遺志を継ぎ公道復帰を遂げた、世界に3台の『フライングペガサス』
スポーツカーらしいロングノーズ&ショートデッキのスタイルが特徴的なこのクルマ。旧型の国産車にも見えるし、どこかアメリカンな顔立ちのような気もするが、見慣れたメーカー名や車名のエンブレムは見当たらない。
それもそのはず、この『フライングペガサス』は世界に3台しかないという特別なクルマなのだ。
8年前に、天国へと旅立った友人の持ち物だったこのクルマを譲り受けたという長岡さん。亡き友人から引き継いだその理由は、決して希少価値があったからというわけではなく、「いつかこのクルマを走らせたい」と語っていた友人の思いを知っていたからだという。
「彼との出会いは、ホンダのエス(S600&S800)がきっかけやったんです。当時の僕は、そのクルマたちにぞっこんでね。ちゃんと修理してくれるショップを探していたところ、辿り着いたのがフライングペガサスの元オーナーさんとこのガレージやったんです」
しばらくは“お客さん”と“ガレージの店長”という関係性だったそうだが、ガレージが長岡さんのご自宅の近くに移転し、引越の手伝いをしたり、フラッと遊びに行くようになるうちに親しくなっていったそうだ。
口癖は「このクルマは世界に3台しかないねんで。修理して公道を走らせたいんや」だったと話してくれた。
「僕からしたら、どこがカッコええの? エスの方がカッコええやん、みたいな感じでした(笑)。そんなんやったんやけど、元オーナーさんが亡くなってしまって、引き取り手も見つからないし、ほかす(処分する)か…という話が出たとき『ほかすくらいやったら僕に譲ってください』と申し出たんです」
ボディはサビで朽ちていてボロボロだったが、眺めているとフライングペガサスのことが大好きだった元オーナーの顔が浮かび、何とか自分が公道を走らせよう!! と決心したという。
ところが、そうは決めたものの、ここからが大変だったという長岡さん。何しろ世界に3台しかないという希少車のため、部品の有無どころか、このクルマを修理することが可能なショップも限られていたからだ。
みなさんは、この「フライングペガサス」のことをご存じだろうか。
このクルマは、1970年にモービル石油のCMイメージカーとして製作されたナンバー付きカスタムカーだ。
今でこそ、ガソリンスタンドで入れることができる“ハイオク”は一般的だが、発売された当初は商品の認知度をあげるために、フライングペガサスで全国のスタンドをまわりながら、世にその名前を広めるためのキャンペーン活動がおこなわれたのだという。
「撮影のスケジュールや動画を時系列で見ていたら、替えのクルマが何台かあることに気付いたんです。仮面ライダーアマゾンの主役が乗ったり、プレイガールというテレビドラマに出たりもしていたんですよ」と、自分のことのように話しながら喜びをほほに浮かべた。
長岡さん曰く『どこがカッコええねん』と思っていたクルマの歴史や誕生秘話を知るうちに、いつの間にかその魅力にハマっていったという。
いっぽうで、このクルマを再び走らせるためのレストアにはかなり手を焼いたそうだ。
フライングペガサスは、東京の八王子にあった『カロッツェリア渡辺』というカスタムショップがホンダのS600クーペをベースに製作したクルマで、車検登録は『ホンダS600改』となっている。ところが、S600とは見た目も何もかもが違い、どこから手を付けて良いのか悩んだという。
「“改”という1文字が付くだけで、ここまでちゃうんかい!って突っ込みたくなりましたよ(笑)。でもね、よくよく考えたら、このクルマって“純正”というのがあってないようなもんなんですよ。ぜんぶ手作りやから、協力してくれるショップさえ見つかれば、なんとかなる、走らそう、動かそう思ったら、いけるんやないかと思ったんです」
実際、フライングペガサスが再始動するにあたって、ボディ補修と塗装を担当したMファクトリーの富山さん、 シャーシや配線などの修理を施した吉良自動車の吉良さんに出会えたことはとても重要なポイントで「今後、故障したとしても、2人がいれば一生乗り続けられると思います」とのこと。
もし2人との出会いがなければ、この夢は叶わなかったという。
「この2人とも話していたんですけど、フライングペガサスの何がすごいって、センスが面白いんですよ。ここ来て見てみ!!」と手招きし、誰かに自慢したくてウズウズしていたように話し出した長岡さん。
「ライトはいすゞ・ベレットのBタイプ、テールは日産サニークーペ、ウインカーはトヨタ・パブリカ。ホンダ色がまったくないでしょ(笑)? いちばん笑ったんは、クラウンのインナーハンドルをドアハンドルに使ってることです。フライングペガサスを作ったカロッツェリア渡辺は流用が上手いというか、なんというか。匠の技やろ?」と言いながら、クスクス笑う。
塗り分けでAピラー風にしているだけで、よく見るとAピラーはないこと。
手動だったリトラクタブルヘッドライトは、少しでも快適性を向上させるために電動に変えたところ。
新たに『Flying Pegasus』のエンブレムを作ってボディに貼ったところ、Mobilのステッカーを貼ってシェルのガソリンスタンド行ったら「シェルに来てもうてるやんか」と突っ込まれたこと。
…とにかくすべてが愛おしいという。
ユニークな流用やカスタムが施されたそれぞれの箇所には、思い出やストーリーがたくさん詰まっているのだ。
なかでも特に気に入っているのは、Mガレージ富山さんに再現してもらったテールの造形だそうだ。
「フライングペガサスは、CM撮影後に“グリフォン”という名前で売りに出されたんやけど、その時にテールエンドにフィンを付けて少し見た目を変えてから売ったんです。
やけど、僕のは違うでしょ?これはね、再塗装する時に、どうせイチから作るんやったらとオリジナルの形状に戻したんです。オリジナルのお尻は“コーダトロンカ”という手法で、ボディの流れをお尻のところでスパッと切った形になってるんです。イタリアのレースカーなどに当時良く使われた手法なんですよ」
現存している3台のうち、オリジナルテールの造形は長岡さんのクルマだけだという。3台はよく見ると微妙な違いがあり、各々の良さがあるという。
「3人のオーナーは大阪、静岡、東京と住んでいる場所は離れてますけど『ここの部分の修理ってどないしてる?』とか、連絡は密に取り合っています。世界に3台しかないから、2人に聞くしかないんですよ(笑)」
「僕のフライングペガサスは、フロントガラス以外はアクリル製なんですけどね、欲を言えばガラスにしたかったんです。やけど、ガラスを自分で作ろうと思ったら型から作らなあかんから費用もかかるので流石に…。
それでもフロントガラスは飛び石で割れたらお終いやなと思って『お金を3人で出し合ってガラス作りませんか?』と声を掛けたことがあったんです。そしたら2人とも『いらんなぁ~』って言うてましたわ(笑)。やけど、いつか気が変わって作ると言い出さへんかなと待ってます」
このクルマを公道で走らせるにあたって、フライングペガサスをデザインした人、所有していた人、フライングペガサスのファンだったという人など、語り尽くせないほどの出会いがあったという。
そういう人たちと会って話をすると、フライングペガサスがいかに多くの人と関わってきたか、影響を与えてきたかということを実感できるのだと話してくれた。
「フライングペガサスに乗って、何度か元オーナーさんのお墓参りに行ったんですが、その時にはいつも『なんとか形にしましたよ。これで良かったかな?少しは夢のお手伝いできましたか?』って伝えています」
長岡さんはきっと今年もまた、亡き友人の墓参り行くのだろう。蘇ったフライングペガサスに乗って。
取材協力:大蔵海岸公園
(⽂: 矢田部明子/ 撮影: 平野 陽)
[GAZOO編集部]
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