“青いトミマキ仕様”の三菱・ランサーに家族を乗せて。
「父がシルバーのランサーに乗っていたんですが、よく家族5人全員でそのクルマに乗ってドライブに連れて行ってもらった記憶があって、その思い出が強くてどうしてもランサーに乗りたいと思って探していました」
それまでも移動手段として何台かのクルマに乗っていたものの、5年前に就職してはじめて自分で愛車を購入することになった際に、どうしても乗りたいクルマがあったと振り返ってくれた青木さん。
そのクルマは三菱・ランサーのなかでもスポーツグレードとして特化した存在であった“エボリューション”だったという。しかし、このとき青木さんが探していたのは父親とおなじ『V』であり、現在乗っている愛車は『VI』である。しかも『黄色か赤か黒』がよかったというボディカラーも『青色』なのだ。
「その頃も今も三菱のディーラーで働いているんですが、中古車部門にたまたま“CP9A”が入ってきたという情報があって、軽い気持ちで見に行ったんです。そしたら、欲しかったモデルでもボディカラーでもなかったんですけど、ナンバーが当時の『秋田33』だったんですよ。同じ秋田の管轄でそのまま引き継ぐことができるとわかり、このナンバーはお金じゃ買えないと思って、妻の許可も得てそのクルマを買うことにしたんです」
三菱自動車がWRC(世界ラリー選手権)で戦うために、ランサーのスポーツグレードとしてラインアップしていた『エボリューション』シリーズ。なかでも青木さんが欲しかった『VI』と、実際に手に入れた『V』はおなじCP9Aという型式のクルマだ。
もう少し詳しく説明するなら、ランサー1800GSRをベースにギャランVR-4の4G63エンジンを搭載した初代のCD9A型が『I』、その問題点を踏まえて大幅改良が施されたCP9A型の『II』、さらにエンジンの改良などが施されたCP9A型の『III』までを第一世代と呼ばれ、CN9A型の『IV』とCP9A型の『V』『VI』までが第二世代、その後『VII』から『IX』までが第三世代、『X』が第四世代と分類されている。
「このVIは『ランサー』という名前の最後のモデルなんです。このあとから車名が『ランサーエボリューション』という独立したモデルになってしまうため、WRCに参戦するためにグループAのホモロゲーションを取得した最後のクルマっていうのが、今となっては自分の気持ちの面でこだわりのひとつですね。あと、ランサーのグレードは非常に多いんですけど、上位の2つにGSRとRSとあって、RSは競技向けで、GSRはエアコンやパワーウィンドウがついている乗用車向けのグレードなんです。ちなみにこれはGSRで…」
間欠泉が噴き出すようにランサーに関する解説が次々と溢れてくる様子から、出会った時は“これじゃなかったクルマ”はすでに“語り尽くせない思いが詰まった愛車”になっているのだということを悟る。
青木さんがこの1999年式の三菱・ランサーGSRエボリューションVI(CP9A)を大切にするようになったのは、当時ナンバーであること以外にも理由があるという。
「いちど、もらい事故で廃車になってもおかしくないくらいのダメージを負ったことがあって、どうしようか悩みましたが修理することにしました。やっぱり理由はこの当時ナンバーから変わってしまうのが嫌だったし、気持ちを切り替えて部品があるうちにできるだけしっかりと修理しようって決めたんです」
修理の際にオールペンやフロントバンパーの変更なども実施したという青木さん。このときに購入前の希望色に塗り替えることもできたのでは?と思い伺ってみると…
「最初は『えー、ソリッドの青?』って思っていたのに、今となっては光の当たり方でぜんぜん見え方が違うので面白いし、他にあまりないので気に入っています。オールペンのタイミングでは既にこのボディカラー以外は考えられないくらいになっていましたね。それから、フロントバンパーはこのクルマのあとに発売された『トミ・マキネン・エディション』のものを鈑金屋さんにお願いして苦労して取り付けてもらって、ボディサイドのスペシャルパッケージ限定ストライプも鈑金屋さんに『シール貼れる?』ってお願いしました(笑)。Bピラーも本来は黒なんですけど、トミマキ仕様と同じように同色で塗ってもらいましたね」
こうしてできあがったのが『トミ・マキネン・エディションのフロントバンパーとWRCストライプをまとったランスブルーのランエボVI』というわけだ。
ちなみにトミマキのイメージカラーは赤色だが「青色バージョンも作ってみよう」ということで、内装もブルーを差し色としてコーディネイトしているという。
こうして進化を遂げた愛車とともに、SNSなどをキッカケに知り合ったランサーの集まりやオーナーズクラブなどにも参加するようになり、ランエボやトミマキ仕様の情報交換なども欠かさないという青木さん。
もともと群馬県の出身で、秋田の大学に入学してからそのまま住むようになったという彼にとって、こうしたクルマを通じた新しい土地での繋がりは、カーライフだけでなく生活を豊かに彩ってくれるもののひとつだという。
そして、新潟県の出身だという奥様の地元でも、ドライブや帰省を重ねるうちに「縁もゆかりもなかったのに、クルマ好きな知り合いが増えたので、けっこう頻繁に行くようになりましたね」と笑う。
お気に入りポイントだという限定サイズのホイールやマフラーも、そういった繋がりのなかで譲り受けたものだという。
じつは青木さんがランサーを購入しようと思ったのは、父親とおなじようにこのランサーをファミリーカーとして使いたいと考えていたからだそうで、現在は2脚のチャイルドシートを搭載している。
「2人とも男の子で、今年5歳になる上の子は、セリオンにクルマが集まっているのを知っているので『セリオンに行きたい』ってよく言いますね。ミーティングを横目に息子もキャッキャしています。あとは、下の子の寝かしつけに使ったりとか。ドライブにいくとすぐ寝てくれるんですよ(笑)」
そんなファミリーカーの乗り心地はさぞかし快適なのかと思いきや…
「乗り心地はあんまりよくないですね。クルマとして褒めるポイントってあんまりなくて、でも“ラリーで勝つために造られた”というこのクルマが誕生する過程とか、当時のグループAで走っている姿とかが好きで、家にビデオなんかも結構あったりして、好きだから乗っているってだけです」
青木さんに大きな影響を与えているであろうお父様について伺うと「もうランサーは乗っていないんですけど、そのあともカプチーノとかGT-Rとかに乗り換えたりしていて僕がランサーに乗っていることに関して『アホだなー。血って怖いな』って言ってます(笑)。母もミニに乗っているし、羨ましいことに末の妹はランエボVに乗っているんですよ。父も妹のランサーはたまに乗っているみたいですね」と、かつてランエボに家族みんなで乗っていた頃と変わらない楽しいクルマ好き家族の雰囲気が伝わってくる。
「このランエボは5年で5割の完成度といったかんじです。最近バックギアの入りが悪いのはミッションマウントの劣化かなと思っているので交換したいし、その他の部分も部品があるうちにしっかりリフレッシュしたいです。それから、エンジンをMIVEC付きの新しいものや2.2リッター仕様に載せ換えたり、追加メーターをつけたり、内装を補修したりと、まだまだやりたいことはあるんですよね。見た目はこんなにノーマル然としているのに、実は中身はすごいイジってます!みたいなのを、ゆくゆくはやりたいなと。羊の皮を被った狼みたいな」
「今はまだ羊ですけど」と笑う青木さんの愛車ライフは、まだまだ続いていくに違いない。
取材協力:道の駅 あきた港 ポートタワーセリオン イベント広場(秋田県秋田市土崎港西1-9-1)
(⽂: 西本尚恵 撮影: 平野 陽)
[GAZOO編集部]
GAZOO愛車広場 出張取材会in秋田
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