元整備士だったフォレスターのオーナーが、若者にクルマいじりの楽しさを伝えたくて自動車整備専門学校の教員に転職した想い
実家が空調設備に関わる仕事をしていたため、小さい頃から工具が身近にあったという『くに@SG5』さん。少年時代はそれらの工具を使い、見よう見まねで夢中になって機械いじりをしていたと記憶を辿るように話してくれた。
いつしかその少年は大人になり、クルマという存在に心を奪われ、現在は自動車整備専門学校の教員を務めているという。これからの自動車業界を引っ張っていく若者達に、自分が今まで習得した技術を伝えるということに、やり甲斐を感じているそうだ。
そして、プライベートでは愛車たちを自分なりにカスタムすることを楽しみ、その方法をブログにもアップしているという。
「小学生の頃の僕は西武警察という刑事ドラマの影響で、ニューマン・スカイラインと呼ばれる6代目スカイラインに夢中でした。赤と黒のツートンのやつが出ていてね、いつかそれに乗ってやる!と思っていました」
もともとクルマに興味はあったそうだが、劇中で繰り広げられる合成なしの激しいカーチェイスに夢中になり「カッコいい」から「乗りたい」へと意識が変わっていったという。ただし、その段階では当然ながらまだ運転免許を取得することはできず、その欲求を満たしてくれたのがラジコンのカスタムだったそうだ。
「当時、友人の間でラジコンが流行していたので自分もはじめたんですが、実際にやってみるとすごく面白くて、いろいろイジりまくっていましたね」
何がそんなにも夢中にさせたのかというと、イジると目に見えてタイムが上がっていったことだという。上手くコントロールできるように腕を磨くというのはもちろんのこと、部品そのものを耐久性のあるものに交換したり、衝撃に強い構造にしたりすることで、ラジコン自体の性能が向上するというのが楽しかったのだそうだ。
そして、くに@SG5さんはいつしか「実車をイジってみたい」と思うようになり、ディーラーで整備士として働くというカタチでその夢を見事に叶えたという。
初めて自分のお金で購入したのは日産の180SXだったと、宝物を自慢するかのように大切にその車種の名前を教えてくれた。その後「残念ながらスカイラインじゃなかったんだけどね!」とイタズラそうに笑う。
「今もですけど、当時もスカイラインはかなり人気のクルマでね〜。懐事情的に、買うことができなかったんですよ。そこで購入したのが180SXでした。S13型のシルビアとどちらにしようか悩んだのですが、当時は街がシルビアだらけというくらい人気で、他人とは少しだけ違いを出したくて180SXを選びました。でも、結局は180SXの後にS13も2台乗っちゃいましたけどね(笑)」
そのあとにも後継モデルであるS14型のシルビアを2台乗り継いだというくに@SG5さん。
「気に入ったクルマだから何台も乗るというよりは、部品を移し換えて乗っているだけなんです。180SXからS13に乗り換えたのは、この2台が基本的な構造が一緒で、部品を流用できるからだったんですよ。その後、S13からS14に乗り換えたのも同じ理由ですね。不具合が起こるたびに新しい車種に乗り換えていたら、それこそ破産しちゃいますから(笑)。当時の僕はサーキットで走っていたから、トラブルも多かったですしね」
同僚に誘われて走ってみた阿讃サーキットは、誰の目も気にしないでスピードを出せる爽快感が最高だったという。もっと速く走りたいと腕を磨くのと同時に、エアロパーツを装着したり足まわりをイジったりと性能アップを図っていったそうだ。すると、タイムもそれに比例して縮んでいき、結果がダイレクトに分かるのが嬉しかったとニヤッとした。
「ラジコンと一緒だったんですよ。正しいカスタムや整備をすれば、ちゃんと結果がついてくる、クルマは必ず答えてくれるんです」
本格的に走り始めたのは、180SXのDNAを移植したS13からだとのこと。走行13万kmのAT車をベースに、180SXのエンジンとミッションを載せ換え、足まわりのブッシュ類を強化品に交換し、ロールケージを組み込んで2シーターで公認を取得するなど、完全なサーキット仕様にしていたという。
そして、数々ほどこしたカスタムの中でも特筆すべきはS14純正タービンを流用したことだそうだ。S14型が発表された直後にタイミング良く(?)タービンブローを起こしたのをキッカケに、どうせなら最新型のタービンに交換してみようと閃いたのだとか。
「『もしかしたらこの車種のアレが流用できるかも?』って予想するのが楽しいんですよ。それで性能アップしたら、さらに万々歳といいますか(笑)。バラバラだったパズルのピースが次々とはまっていく、あの感覚に近いですね」
ちなみに現在の愛車であるスバル・フォレスター クロススポーツ(SG5)も、その前に乗っていたSF5型フォレスターから“箱替え”で購入したという。そして、足まわりやエンジン周辺パーツなどはインプレッサの部品を流用して性能アップを図っているそうだ。
シルビアとおなじくハイパワーなターボ車で、その他はシルビアとは対照的に家族4人がゆったりと快適に乗れて、路面を選ばず荷物もたくさん積めるのがフォレスターの魅力であり、選んだ理由だという。
「大きな変更点でいうとGRB型インプレッサ用のインタークーラーを流用して装着しています。装着してしばらく走ったらエンジンルームからカタカタ音がしだして、大変ではあったんですけどね(笑)」
なんでも、インタークーラーを流用したあとに時間が経つに従って異音がしだしたというのだ。最初は異音の原因がわからず足まわりの異常などを疑ったそうだが、結果的にはインタークーラーの固定方法に問題があったそうで、あちこち干渉する箇所をあの手この手で対策してなんとか完成させたのだと武勇伝を語ってくれた。
お話を伺っていると、切ったり曲げたり嵩上げしたりと途方もない作業のように感じるが、くに@SG5さんにとってはインターネットや雑誌に載っていない流用方法やパーツを見つけることができると楽しいし「これをやったのは僕が初めてなんじゃないかな?」というネタを完成させたときには嬉しさも倍増するというわけだ。
そんなくに@SG5さんが整備士から自動車整備専門学校の教員へと転職したのは、この楽しさを若い世代に教えるためだという。
「ディーラーで整備士として働いてきた中で、ここ数年は『クルマが好きだから整備士になった』という子が少なくってきていると感じたんです。新卒で採用されても興味がないから全然スキルが上がらなかったり、そもそも学校で真剣に勉強してこなかったり…そりゃその通りで、好きでもないことを勉強するって苦痛じゃないですか。だから、就職しても困らないように技術を教え、そしてクルマが好きになるようなキッカケを作ってあげたいと思っているんです」と、決意したような顔つきで、優しい声で話してくれた。
それぞれの年代のクルマに、また違った面白さや魅力があるというくに@SG5さんは、今日もまた教壇に立っている。自分がキッカケでクルマ好きになったとまではいかなくても、小さくてもその要素になりたいのだそうだ。
「だって、クルマはこんなにも魅力があるんですよ? もっと知って欲しいじゃないですか」
あと数年で免許を取得する年齢になるという息子さんの横で満面の笑みを浮かべるその表情を見ると、思わずこちら側もつられて笑ってしまう。きっと、生徒達にもその想いは伝わるはずだ。
取材協力:高知工科大学 香美キャンパス(高知県香美市土佐山田町宮ノ口185)
(⽂:矢田部明子 / 撮影:西野キヨシ / 編集:GAZOO編集部)
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