大震災を機に福島へと移住したオーナーとマーチカブリオレの物語り
日産を代表するコンパクトカーのマーチ。1992年に発売された2代目のK11型は、初代のK10型と比べて少し丸みを帯びたキュートなフォルムが特徴だ。当時の日産は欧州市場を重視し、K11型マーチを含む多くの車種を日欧で併売していたため、体格に優る欧州の人々からも不満の出ないパッケージングが追求されていた。
その性能は世界中で高く評価され、日本カー・オブ・ザ・イヤーを獲得しただけでなく、日本車として初めて欧州カー・オブ・ザ・イヤーも射止める快挙を成し遂げている。それに値するだけの“良さ”が随所に散りばめられているのが、マーチ(K11型)の特徴と言っても良いだろう。
ボディタイプはハッチバックが基本となるが、実は電動で開閉する幌を備えたカブリオレも設定されていた。そんな希少なマーチカブリオレを愛車に持つのが『サニー』さん。
以前所有していたサニートラックでも、この愛車広場にご参加いただいたことがあるオーナーさんである。
「残念ながらサニトラはミッションがブローして手放すことになってしまいました。その後しばらくはプレオに乗っていたんですが、4人で乗れるオープンカーが欲しくなりまして、2023年の3月にこの“マーカブ”を買ったんです。たまたま中古車情報誌で、それほど遠くないお店を見つけたんです。走行距離の割には比較的手頃な価格で売られていたので、ラッキーだったと思いましたね(笑)」
K11型マーチカブリオレに設定されたエンジンは、1.3リットルの直列4気筒DOHC。トランスミッションは5速MTとCVTの設定があり、サニーさんは本当は5速MT車が希望だったのだが、出会った個体はCVTだった。
「今となっては、もしCVTが壊れたらMTに載せ替えて乗り続ければいいかな、と思うくらい気に入っています」とサニーさん。「いまだに同じクルマに出会ったことがありません」というほどの希少性と、その特別感にすっかり魅了されているという。
もともと小さくてかわいいクルマが好きなのだそうだが、サニーさん自身はなかなか立派な体格。それでも大きなクルマに乗りたいという気はまったくしないそうで「マーカブなんて家族とか親戚を乗せて4人フル乗車だと、もう車高もベタベタですよ(笑)」と明るく笑い飛ばしてしまう。
「自分は人と同じことがしたくない性格ですし、目立ちたがり屋でもあります(笑)。そういった趣向もありまして、過去のクルマもなるべく個性を重視して選んできました。マーチカブリオレは、そういった意味でも理想的なクルマと言えますね」
そう言って満足げな笑顔を浮かべるサニーさんは、実は2024年の6月に福島県へと移住してきたばかりである。それまでは夏の厳しい暑さで全国的にも知られる埼玉県の熊谷市に住んでいたそうだが、福島に移住するキッカケとなったのが2011年3月11日に起こった東日本大震災の復興支援だったという。
「私の住んでいた地域に、被災された双葉町の町民の方々が移り住んで来られたんです。私の通っていた母校の高校が避難先になっていて、そこで縁あって交流を持つ機会が生まれたのがキッカケでした」
その後、福島の力になりたいと一念発起し、県内の復興支援ボランティアに参加するようになったサニーさん。さまざまな現場に顔を出し、さまざまな声を聞く中で、福島県広野町の復興支援課と縁が生まれ、移住することを決意したのだそうだ。
「そういった経緯もあって、マーカブを買ってからはまだ福島の本格的な冬は経験していないんです。けれど、“過酷な環境下”といった点では、毎度40℃を超える熊谷の夏の暑さに比べたら、きっとなんでも平気ですよ(笑)。今住んでいる家はエアコンをつけずに過ごせていますから、本当に天国のようですね。今はむしろ冬が来るのが楽しみなくらい。マーカブの屋根を開けてヒーターを全開にして走れば、きっとお風呂に入っているみたいにヌクヌクして気持ちいいでしょ!」
サニーさんのお仕事は整体師。移住した福島県でも自身の整体院を経営し、患者さんの自宅にマーチカブリオレで往診に行くこともあるそうだ。その時は屋根を開けて、リヤシートに折りたたみ式の施術台を収納するという。
「この後ろの空間が意外と使い勝手がいいんですよね。仕事以外でも、ここに折りたたみのマウンテンバイクを積んで出掛けていって、現地の駐車場にクルマを止めてサイクリングを楽しむこともあるんですよ」
運転席にはサニトラで使っていたバケットシートを備えるほか、今では懐かしいMDデッキも現役で使用している。ご機嫌な音楽と、満天の空を感じながらの開放的なドライビング環境は、さぞ至福の時間を演出してくれることだろう。
オイル交換などの基本整備くらいは自分でやってしまうサニーさん。マフラーはニスモ製に交換され、純正よりも元気で活発なエキゾーストノートを聞きながらのドライブもお気に入り。さらに、通称でんでん虫と呼ばれるクラクションはサニトラの純正を移植するなど、オリジナルでのカスタマイズも楽しまれているご様子だ。
電動ソフトトップは年式なりのヤレは感じられるものの、今現在はいたってスムーズに稼働しているとのこと。そして、ルーフを閉じた時の後方視界をしっかり確保できる熱線入りのリヤガラスも備わっており、雨漏りもしていない。万事OKといった快適マシンである。
「さすがに真夏は屋根を閉じて走りますけど、それ以外はオープンにして気持ちのいい風を浴びながら走っています」
これからは福島の四季折々をマーチカブリオレとともに肌で感じていくことになるサニーさん。目立ちたがり屋の外見に秘めた、誰よりも優しくて人情味に溢れる心をいつまでも。新境地である福島での第二の人生を、存分に楽しんでいっていただきたい。
(文: 小林秀雄 / 撮影: 中村レオ)
許可を得て取材を行っています
取材場所: 四季の里(福島県福島市荒井字上鷺西1-1)
[GAZOO編集部]
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