「オープン×VTEC」を叶えてくれたS2000。乗るたびに増えていく宝物
ホンダ・S2000が、2009年に生産を終えて20年近くが経ちます。
2020年には、発売20周年を記念した純正アクセサリーが販売されました。現在も多くのショップでデモカーに起用され、若い世代のオーナーも増えています。オーナーが主体となってイベントが開催されるなど、“旧車”となったS2000への熱量はむしろ高まっているように感じられます。
今回の主人公「えびちゃん」も、そうした若手S2000オーナーのひとり。乗り始めて6年。先日、現住所へ愛車を移し、いつでも一緒にいられる環境が整ったそうです。そんなえびちゃんとS2000のカーライフを詳しく伺いました。
――とてもキレイなS2000ですね!
1999年式の前期型(AP1)です。
実際にお会いした人や、メカニックの方からも「ノーマルのS2000でこんなにきれいな状態のものはないから、できるだけこの状態を維持して大切に乗ってくださいね」と言われることも多いです。
――愛車の気に入っている点は?
F20C型エンジンの真っ赤なヘッドカバーですね。僕のS2000は、エンジンの結晶塗装が比較的キレイだったので、赤い塗装が際立ってカッコイイなと思います。“心臓”という感じがしてずっと見ていたくなります。
フロントのフェンダーラインも好きですね。なだらかに盛り上がっていて美しく、洗練されているなと思います。
S2000の発売20周年記念で、モデューロから発売されたパーツも気に入っています。フロントエアロバンパー、フロアマット、オーディオリッド(オーディオカバー)を装着しました。フロアマットは、黒内装にアクセントを入れたくて赤を選びました。
――素敵なこだわりです。では、えびちゃんがクルマに興味を持ったきっかけを教えてください。
中学生のころ、友達が遊んでいたPSP(プレイステーション・ポータブル)のゲーム『首都高バトル』に影響を受けました。ゲームにスカイラインGT-R(R34)が登場していてとてもカッコよかったんですよね。
クルマのゲームで遊んでいたのに、S2000の存在はまったく知りませんでした(笑)。当時は、性能や歴史のことは全然知らなくて、クルマはルックスやデザインなど、見た目を眺めるだけのものでした。でも、憧れはずっと持っていたと思います。
高校生になると「社会人になったらスポーツカーが買えるかもしれない」と少し希望を抱いて、中古車サイトを見るようにもなっていました。
――社会人になってから、カーライフは変化しましたか?
憧れだったスカイラインGT-Rはすでに、正直手が出せるようなクルマではなくなっていました。当時の自分に「今憧れているクルマ、将来は簡単に買えなくなるぞ」と教えてあげたい気持ちになります(笑)。
運転免許を取ったことで「スポーツカーっていろいろあるんだな」と興味が広がっていきました。さまざまな車種があるなかで「自分はどんな楽しみ方をしたいんだろう」と考えるようになったのは、このころだったと思います。
――当時の愛車候補だったクルマを教えてください。
S660(ホンダ)、シビック タイプR(FD2:ホンダ)、BRZ(スバル)ですが「VTECエンジン」の存在を知ったことは大きかったですね。エンジン音がとにかくカッコイイ! 当時、FD2は自分のなかでVTECの象徴的存在だったんです。
高回転まで回したときのサウンドも最高ですが、回さないと見えない世界があるというエモさがあります。自分がまだ幼かったときに、こんなエンジンが本気でつくられていたという事実。現役だった時代をリアルタイムで知らないからこそ、ロマンを感じます。
――社会人になったばかりのころは、運転はされていたんですか?
上京してから友人に勧められ、カーシェアリングを利用するようになりました。MT車を運転する機会がほとんどなく、このままだと感覚を忘れそうだなと思って借りたのがマツダ・ロードスターだったんです。
オープンカーってすごいですよね。「クルマ」というプライベートな空間ではあるんですけど、屋根が開いているので音や風、匂いといった情報がダイレクトに入ってきます。
普段歩いていけない場所を、空気を感じながら走っているという感覚が新鮮でした。例えば、トンネルの中の温度や音を肌で感じることってないじゃないですか。
――オープンドライブって、まさに“体験”ですよね
はい、一気にやられました(笑)。
そこで、VTECとオープンドライブの体験が結びついて「じゃあ、VTECでオープンスポーツって何があるんだろう」と調べて、初めてS2000を知りました。エンジンがすごい・音がいい・デザインがカッコイイ・屋根が開く。しかもホンダの記念車らしい。どんどん好きになっていきました。
オーナーさんのSNSや自動車メディアの記事も、かなりの数を読みました。今回、まさかこんなかたちで記事にしていただけるとは思っていなかったので、S2000のおかげでこんな経験までできているんだなと感じています。
――こちらこそです。では、いよいよ愛車との出合いですね。
社会人4年目を過ぎ、生活も落ち着いてきたので、S2000を探していました。条件は事故歴がないこと、フルノーマルに近いこと。そして予算との兼ね合いですね。
そうしていると、名古屋のショップに置いてある個体を見つけました。その個体には「半レストアレベルで整備されている」という説明がついていました。車検あり、全塗装、ヘッドライトも綺麗。ダッシュボードは新品に交換されていて、シートの状態もとても良く見えました。
13万キロ走っていましたが、大切に乗られていてしっかり整備されていたら大丈夫かなと思っていたので、気になりませんでした。正直「これはいい意味でやばいぞ……!」と、すぐに現車確認の予約を入れました。
――実際に見ていかがでしたか?
もう契約するつもりでした。本当はもっと比較して判断するべきだったかもしれませんが、実車を前にするとそんな余裕はあまりなかったですね(笑)。
運転席に座り、エンジンをかけさせてもらったんです。最初にキーをアクセサリまで回すと、メーターが一回転するじゃないですか。それがすごく“やる気”にさせてくれました。
エンジンも少し吹かせてもらったんです。音を聞いた瞬間、完全にノックアウトされました。携帯に当時の動画も残っているんですが、今見ると子どもみたいなリアクションで照れます(笑)。でも、それくらいの感動だったんです。
そのままハンコを押しました。2019年9月20日、Googleカレンダーに登録して記念日にしています。
そういえば、契約後に思わず「初めてのクルマで、いきなりS2000でも大丈夫でしょうか?」とお店の方にきいてしまったんですよね。「いちばん好きなクルマを買ってもらうほうがうれしいですよ」と言ってもらえたことが、心に残っています。
――晴れてオーナーに! 実際に乗ってみて感じたことを教えてください。
運転席に座ったとき、ペダルの配置が自然で、とても運転しやすかったです。クラッチは意外と軽めで、反発もそこまで強くないのが意外でした。
運転席からは車体の先端まで見えていて、距離感がつかみやすいなとも感じました。ただ、信号の停止線で止まったとき、信号機が運転席から見えないことがあるんです。前かがみになって確認しなければならず、最初は慣れるのに苦労しました。
――最初は戸惑うこともありますね。走らせてみて気づいたことは?
エンジンもすごいですが、アクセルレスポンスが良くて驚きました。「僕はこういうクルマなんだよ!」と、はっきり主張してくるクルマだなと感じます。
運転がとても楽しいです。まるでゴーカートに乗っているような感覚があって、ハンドルを切ると、イメージ通りにクルマが動いてくれるような一体感がありますね。
シフトフィールは思っていた以上にショートストロークでした。操作が気持ちよくて、ギヤの噛み合う音が、いかにもメカを動かしている感じで好きですね。ただ、あまりにストロークが短いので、たまにどのギヤに入っているのか分からなくなることもあります…。
――変速のフィーリングが好きなS2000オーナーの方、多いですよね。
いっぽうで「運転にも厳しいクルマ」だと感じました。雑な操作をするとダイレクトに挙動に出て「叱られている」ような気がします。でも、気持ちよく走れたときはまるで「褒められている」と感じられます。
あとは、まっすぐに駐車するのが難しいですね……。まっすぐだと思っても少し斜めになっていたり。精進します(笑)。
――クルマに鍛えられてる感がありますね。使い勝手はいかがですか?
トランクルームって意外と広いんですね。トランクルームのくぼみにピッタリはまる100円均一ショップのボックスを見つけて、小物整理に重宝しています。
――実用性もあるんですね。ご家族の反応はいかがですか?
当時は実家の近くに駐車場を借りていたので、納車されたあとも実際に乗れるのは帰省したときのみだったんですよね。年に数回くらい。
帰省すると、祖父をS2000に乗せて温泉に連れていくのが恒例になっていました。淡路島まで足を延ばして、温泉めぐりをしましたね。
祖父はもともとドライブ好きな人で、運転していたころは祖母とよく出かけていたそうです。
乗り降りしにくくて、乗り心地も硬いS2000に乗ってもらうのを心配していましたが、そこは理解してもらいつつ喜んでもらっていたようでした。
「かっこいいクルマやな」と言ってくれて、クルマを趣味にしていることを褒めてくれた、大好きなおじいちゃんでした。
――かけがえのない時間でしたね。その後、カーライフに変化はありましたか?
SNSで知り合ったオーナーさんとの交流が増えました。一緒にツーリングに参加することもあります。
特に思い出に残っているのが、2023年11月19日に鈴鹿サーキットで開催された「ホンダリアン×VTEC OFFLINE MEETING」に参加したことですね。大規模なクルマのミーティングに参加するのが初めてだったので、正直かなり興奮していました。
――どんな雰囲気だったんですか?
会場にはいろいろなホンダ車が集まっていて、オーナーさん同士で話をしたり、情報交換をしたりできました。クルマの話を同じ熱量でできる空間がとても新鮮でしたね。
NA2型NSX-Rのオーナーさんが参加されていて、その方と、クルマを並べて写真を撮らせてもらえたこともうれしかったです。貴重なNSX-Rの横に、自分のS2000が並んでいる光景に感動しました!
イベント後にSNSへ投稿した写真の中で、僕のS2000とNSX-Rが並んでいるカットを、公式アカウントがピックアップして掲載してくれたんです。まさか自分のクルマが、そんな形で紹介されるとは思っていなかったので、とてもうれしかったですね。
――ここまで、大きなトラブルや修理はありましたか?
ほぼないです。少し滑り気味だったクラッチ一式とマスターシリンダーの交換、クラッチストッパーの交換。予防整備としてスプールバルブを交換してもらったくらいです。
いっぽうでこれはやってしまったな……という苦い思い出があります。冬の日にオープンにしようとしたら、幌のビニールスクリーンが「バキッ!」って音を立てて割れてしまったんです。寒い時期に幌を温めずに開けるのはご法度なんだと、身をもって学びました(笑)。
その後、社外製のガラス幌に交換しています。
――旧車ならではの不安はありませんか?
純正部品が出なくなってきていることが気になっています。最近発表になった「ホンダ ヘリテージワークス」の部品復刻リクエストに、EPS(電動パワーステアリング)ユニットをリクエストしました。パーツが出るうちに、リフレッシュできるところは少しずつ手を入れていきたいと思っています。
――今後、S2000とどんな付き合い方をしていきたいですか?
ちょうど昨春に、S2000を実家から持ってくることができたので、これからは関東圏のドライブも楽しみたいですね。ホンダコレクションホールで愛車の写真を撮ったり、ビーナスラインをオープンドライブしてみたり。機会があれば走行会にも挑戦してみたいです。
基本的には、オリジナルを大切にしつつ予防整備を進めたいですが、マフラーとシートは気に入ったものが見つかれば交換したいと思っています。
付き合い方としては、S2000に合った接し方やメンテナンスを心がけていきたいです。F20C型エンジンは、オイル管理を丁寧にしつつ回すバランスを大切にしたいですね。
ドアの開け閉めやペダル操作は、いつも丁寧に。手汗が多い方なので、シフトノブやハンドルを汚さないようにドライビンググローブを着け、労りながら相棒として長く一緒にいたいです。
このクルマをきっかけに友人もできたので、今後も出会いを大切にしつつ、人生の中での大切な相棒として仲良くしていきたいです!
えびちゃんがS2000とのカーライフで得たものは、クルマの性能がもたらす喜びだけではありません。お祖父様との思い出やクルマを介したつながりという、かけがえのない時間でした。
S2000は、乗って何かを与えてくれるというよりも、向き合い続けることで何かが残っていくスポーツカーだと感じます。これからも愛車と過ごす時間やクルマを通じた出会いが、えびちゃんの宝物でありますように!
【X】
えびちゃん
(文:野鶴美和 写真:えびちゃん提供)
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