探検好きが高じて新車購入したホンダ・グレイスと共に、5年間で32万kmを走破!!
「お前、クルマの免許どうする?」
「免許があったら身分証明書にもなるし、春休みは予定もないから俺は一応取っておこうかな〜」
という会話が、高校卒業間近の教室からはよく聞こえたという。生粋のクルマ好きはクラスに何人かいたが数えるほどで、ほとんどは『一応取っておくか』が主だったとのこと。事実、現在も同級生でクルマを持っているのは1割くらいで、東京出身のあきらさんも、公共交通機関を使えばどこへでも行けるし、駐車場は安くても月に1万6000円、さらにその他諸々の経費がかかるとなると、マイカーを持つ意味はないと感じていたそうだ。
しかし、5年前にホンダ・グレイス HYBRIDE LX・Honda SENSING(GM4)を新車で購入し、走行距離が32.8万kmを記録した今、その考えは綺麗さっぱり消え去ったと豪快に笑った。ちなみに、5年間で32.8万kmという数字を見て、筆者はコンマの位置を間違えていないか一応確認した。
「それ、よく言われるんです(笑)。それこそ、つい先月もディーラーで同じようなことがありました。月に6000km以上は走るから、毎月オイル交換とタイヤのローテーションをするんですけど、新しい担当さんだったから『先月も来てますよ? 距離を間違えていませんか?』と言われちゃって。きっと、週末しか乗らないと話していたから、その必要はないと思ったんでしょうね。『距離と頻度、間違っていませんか?』は、結構あるあるネタなんです」
当然筆者もそのうちの1人なわけだが、フロントグリルやボンネットを見て“32.8万km”に納得した。無数の飛び石の痕が付き、白い塗装が剥がれて黒飛沫のようになっていたからだ。ボディーカラー的にかなり目立つが、敢えて塗装をせずにそのままにしているのは、この印が“47都道府県をグレイスと共に走り回ったという勲章だから”だそうだ。人差し指で凹凸を確かめるようになぞるその表情は、実に満足気に見える。なぜ47都道府県を旅したのかを尋ねると、ほとんど記憶のない幼少期からその素質が表れていたのではないかという。
「僕がまだ1歳の時に祖父母と訪れた伊豆高原で、駅から旅館までの坂道を抱っこ無しで歩き切ったというエピソードがあるんですけど、タクシーを呼ばなかったのは僕が興味津々で歩いていたからだそうなんです」
「その話を聞いていたから、数十年後に再度伊豆高原へ訪れた時に、僕はその理由が分かりました。きっと、お土産と書かれた目立つ看板や少し細めの曲がり角、山の緑と空の青。すべてが新鮮で僕をワクワクさせてくれていたんですよ。おそらく、幼いながらにも未知なる世界を見たいという気持ちが芽生えていたのではないかと思います」
伊豆高原までは電車で3時間くらいと、遥か遠方まで来たというワケでもないのに、歩き進めるごとに感じる街の匂いや雰囲気は、自宅周辺とはまったくの別物。それを感じる度にドーパミンが溢れ出るのが分かったそうだ。もっと見たい、知りたい! と無我夢中で歩いていると、すぐに目的地に到着してしまったと話してくれた。
「あの感覚を味わってからというもの、知らない場所に何があるのかを自分で見たいと思うようになりました。それまでの僕は、遠くに行かなくても近場で必要なものが手に入る環境にいたから、移動するルートはパターン化されていたんです。だから、子供の頃は車窓からの風景を眺めて、あの看板の先には何があるんだろう? と想像を膨らませるのが好きだった、そんな子でしたね」
時は過ぎ、高校生になったあきらさんは、友人と自転車で東京から富士山まで旅行に行くようになる。なんでも「富士山にチャリで行ったんだぜ!」なんて、冬休み明けの教室で言えたら、すごくカッコいいよねという話になったのだそうだ。
夕方にホテルにチェックインと決めて早朝に出発したものの、途中で寄り道をしてしまい、富士山周辺に到着した頃にはすっかり夜も更けていたらしい。理由は、下道にはご当地キャラクターやその土地の名物、見たことのないチェーン店など新たなる発見や誘惑が沢山あって、ルートを変えざるを得なかったからだと苦笑いしていた。
その日は温泉にゆったり浸かり、早朝に名前も知らない湖畔でとりあえず記念写真を撮り、急いで帰路に着いたのだとか。何一つ予定通りにはいかなかったそうだが、その時の景色は心のフィルムにしっかりと刻まれたと穏やかに笑った。
さて、そこから時は流れて大学1年生の冬。せっかく免許を取ったのだからとトヨタレンタカーでアクアを借り、友人達を誘って環七通りを走ったことをキッカケに、あきらさんは車中泊旅行にどハマりしてしまう。
「自分でエンジンをかけてハンドルを握り、手と足でクルマを動かして何処かへ行くということが意外にも楽しかったんですよ。まぁ、環七通りを走っただけだったんですけどね(笑)。ただ、この数km、ほんのチョットの移動だけでも、幼少期の伊豆公園駅のことや、富士山へのチャリ旅行と通ずるワクワクを感じたんです。だから、もう少し遠くの景色をクルマで見に行きたいと思うようになったんです」
そうなってくると居ても立っても居られずに、すぐに友達と温泉旅行を計画したそうだ。行ったことのない土地に足を踏み入れるというのは、やはり自分を新鮮な気持ちにさせてくれ、ひと月も経たないうちにまた何処かへ行きたくなってしまうのだとか。気付けば月に3回はふらりと遠くへ旅行し、トヨタレンタカーレギュラー会員だったあきらさんはゴールド会員に昇格し、店員さんとも顔見知りになったそうだ。
「回数を重ねるにつれ、旅の内容も変わっていきました。というのも、目的地到着までの道のりを楽しむようになったんです。だから、経路は下道しか使わずに行き当たりばったり! 途中で気になる物を発見したら、そっちに予定変更ってな感じで進んでいくんです」
なるほど。富士山への自転車旅行が難航してしまったのは、このスタンスが原因だと、ここで確信した。ただ、これぞあきらさんらしさなのである。色々な世界を知りたい、覗いてみたい、誰も知らない秘密を解き明かしたいという“知的好奇心”を満たすには、間違いなくこの方法が1番なのだから。
あきらさん曰く、取材地の宮城県だと“主婦の店 さいち”というスーパーマーケットが知る人ぞ知る名店だそうだ。一見普通のスーパーのように見えるが、店内に入るとおはぎ専門コーナーがあり、何種類ものおはぎがズラリ並んでいるのだとコッソリ教えてくれた。地元の人のみならず、噂を聞きつけたあきらさんのような人が足を運ぶため、駐車場には他県ナンバーのクルマがズラリ、いつ行っても賑わいを見せているという。そう話していると『おはぎの口』になってきたようで、今日の取材後に買って帰ろうと早速旅路変更をしていた。
「こういう行動って、レンタカーだと出来ないんですよ。なぜなら、返却時間がありますからね。それでグレイスを購入したわけですが、愛車にして分かったことがもうひとつありまして。それは、自分の好きなクルマで移動すると満足度が倍になるということです」
あきらさんのグレイスは、今や絶滅危惧種となってしまったコンパクトセダンにあたるが、子供の頃から街で見かけることの多かった形に親しみと格式を感じ、買うなら絶対セダンにしようと決めていたそうだ。
また、レンタカーで様々なタイプのクルマを運転した際に、クルマの後部から発生するノイズが1番少なかったというのも購入する決め手となったそうだ。そして、候補車としてグレイス、アクセラセダン、プレミオがあったが、グレイスを選んだのは、車内の広さからだという。試乗の際に、身長180cm、体重100kg超の友人に後席に座ってもらい、どれが1番居心地が良いのかを評価してもらったとのこと。まさに、持つべきものは友である。
長距離移動を想定して、トランクスルーにすれば足を伸ばして眠れることをしっかり確認、助手席には純正のオットマンをオプションで装着。水源地に行くことが多いためカーマットは布製からゴム製へと変更し、満を持して契約書に判子を押したそうだ。
ちなみに、デザイン的にはライトが大きくてスタイリッシュすぎないのも好きなポイントだったそう。カッコ良さの中に可愛らしさがあって、駐車場に戻るとグレイスの顔を見て安心することが多いと、ボンネットの黒飛沫を愛おしそうに撫でていた。
「様々なタイプのクルマ好きがいらっしゃると思いますが、僕は“走りを楽しむ”というよりは、“グレイスと冒険する”ことを大事にしているんです。全国各地へと一緒に旅に出ると、ボンネット上の傷は青森の林道で付いたヤツだとか、アルバムに思い出が刻まれていく感じがするんですよね。そうすると愛着が湧いて、また一緒に旅に出たいと思うようになるんです。大好きなクルマで行く冒険は、レンタカーの時とは違う良さが確実にあります」
群馬県で訪れた『かみつけの里博物館&上毛野はにわの里公園』は、いたるところに埴輪はにわが立っていてとてもシュールな場所だと、ジワジワとその良さに気付けたこと。一生に一度は訪れたい秘湯だと感じていた、北海道の知床にある国内最東端の露天風呂『相泊温泉』。沖縄にある日本国内最古のシーサー『富盛の石彫大獅子』には、戦争の際についた銃撃の痕が沢山残っていて、今この瞬間に何の心配事もなく平和にドライブできている事に心から感謝するキッカケを貰ったことなど、これらの旅には沢山の学びがあったという。
その土地に住む人の習慣や伝統に触れ刺激を受けることも多々あったし、旅先で出会った人の生き様に影響を受けることもあったと話してくれた。
「まだまだ知らないことが沢山あるはずなんですよ。それを探しに、僕はまたグレイスで行きたい! 絶対楽しいに決まっていますから」
おそらく、いや確実に、グレイスの走行距離はまだまだ増えていくであろう。もうすぐ地球から月までの距離となるが…。さらに数年後には再び地球へと帰還できる距離を走っているかもしれない。あきらさんならそうに決まっている。
(文: 矢田部明子 / 撮影: 中村レオ)
許可を得て取材を行っています
取材場所:KIBOTCHA(宮城県東松島市野蒜字亀岡80番)
[GAZOO編集部]
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