カローラレビンTE27とともにグラベル&ターマックを駆け抜けたモータースポーツ人生
「自分が歩んできた人生を言葉で表すなら、やはり“クルマ”だったと思います」と、誇らしく語ってくれたのは、長崎県在住の鎌田さん。御年72歳(取材時)。
「16歳でバイクの免許、18歳でクルマの免許を取得したものの、当時はクルマを買うお金がなかったので20代前半はバイクに乗っていました。そして同じ頃に“カミナリ族”という、今で言う暴走族が流行っていて『一緒に走らないか』と声がかかったんです。もちろんキッパリ断りましたよ。なぜなら、一般公道での危険走行は言語道断! 走るならクルマ専用の土俵で競わないと意味がないですからね」
『モータースポーツがやりたい』と、強く思うようになった鎌田さん。当時は長崎にJAFの支部がなかったため、まずは国内B級ライセンスを取得するため、熊本まで受講に行くことに。当時は九州にサーキットがなかったことから、ラリーやダートトライアルは山林のコース、ジムカーナは自動車学校で行なわれており、鎌田さんはラリーへ参戦するようになったという。
また、地元の長崎県諫早市でJAF準加盟クラブを設立するなど、積極的にモータースポーツへ取り組んできたそうだ。
1台目のラリー車両として購入したのが日産・サニークーペ1000(KB10)。なんでも、現在WRC(世界ラリー選手権)で躍進中の勝田貴元選手の祖父である勝田照夫氏とは、1970年あたりには同じ競技会に参加していたこともあったという。
「2023年11月に開催されたラリージャパンにて、お孫さんが活躍している姿をテレビで観て、懐かしく思いました」
ラリーに続いてダートトライアルにも参加するようになり、さらにセリカ(TA22)も購入。グラベル競技に明け暮れ4~5年経過したあたりで、ふと『オンロード競技でも走ってみたい』と思うようになり、ジムカーナ用にもう1台同型のサニーを追加。まさにモータースポーツ三昧の日々だったそうだ。
とは言っても、競技に出場するからには上位に入らないとモチベーションは下がるもの。セリカとサニーと入れ替える形でラリー用に完璧に仕上げられたサニー(PB210)を手に入れ、九州チャンピオンシリーズの1300cc以下クラスにて3位を獲得。その後スターレット(KP61)やスプリンタートレノ(AE86)を乗り継ぎ、最終的にラリーには約17年間にわたって参戦してきたという。
そして、ラリー競技での改造規制が徐々に厳しくなっていったことを機に、鎌田さんはジムカーナへと転向。「ジムカーナ用の車両として1300㏄のスターレット(KP61)を選びました。ナンバー無しの改造車です」
このマシンで当時のC1クラス(排気量1300cc以下の改造車クラス)に参戦し、39歳と40歳の時にはJAF地方戦にて年間クラスチャンピオンを獲得するまでのベテランドライバーに。ところが、45歳まで走り続けたある日、そろそろ辞めてもいいかな? と思うようになり、約22年間頑張ってきたモータースポーツからの引退を決意。お子さんの事も考え、将来を見据えた上での決断だったという。
そうしてモータースポーツを引退した鎌田さんだったが、趣味でラリーは続けたいと考えていた。そして、興味があるのはやはり自身と共に歩んできた旧車と呼ばれるクルマたちだったことから、愛車候補に選んだのがTE27型のカローラレビンだったという。
「全日本ラリー選手権で活躍した“リトルジャイアント”こと綾部美津雄選手が乗っていたTE27に憧れていました。キャブレターエンジンの吸気音の心地よさがたまらなくてね」
仕事が休みの度にカーショップや解体屋さん、そして知り合いなど心あたりのあるところに声をかけてTE27を探しまくり、レビン/トレノ問わずTE27を見つけては買い取っていたという鎌田さん。その結果、書類付きのTE27が2台、部品取り用にも2台、そしてTE37が1台と、都合5台もの車両を4~5年かけて集めたそうだ。
そんな時「あそこにアンタが探しよったカローラがあったばい」と、知人に教えてもらい持ち主の家まで見に行くことに。そこにあったのは、かつて憧れだったラリードライバー・綾部美津雄選手が乗っていたラリー車両と同じ、オーバーフェンダーを装着したオレンジのTE27型カローラレビン。「とにかくオーバーフェンダーがカッコよくて、もうひと目ボレで迷わず買いました!」
がしかし、青空駐車でトランクは空いた状態。下まわりもサビがあり、車両のコンデションは決して良いものではなかったという。そこで活躍したのが、鎌田さんが地道に集めてきたTE27の車両とストック部品たちだった。
劣化して使えないパーツは程度が良い物へ交換していき、最終的には純正のモンテローザオレンジに近い色で全塗装。そして、FRPボンネットとトランクのみマットブラックでペイントしたという。これは、本場のサファリを走るラリー車両がボンネットに反射した太陽光が眩しくないよう、艶消しブラックで塗っていたのを参考にしたものであった。
「エンジンはラリー用に低速から高速域までバランスよく吹け上がるように、レスポンスを重視して扱いやすく仕上げてもらっています」
IN288°/EX272°のカムシャフトをはじめ、鍛造ピストンやビッグバルブ&強化バルブスプリングなどは当時のTRD製スポーツパーツに交換。クラッチカバーやディスク、LSDもTRD製をセレクトし、ミッションもクロスタイプへと換装済み。
足まわりでは、フロントスプリングとリヤリーフスプリングはTRDで、ショックアブソーバーはフロントがトキコ、リヤはTRDの8段調整式のガスショックを装着。そして、車高を50mm上げてラリー用にセッティングしているという。
タイヤは唯一13インチが存在するダンロップ SPスポーツ83-Rというラリー&ダートラ用タイヤを装備していた。
車内を覗くと、ラリーカーならではの計器類が目に飛び込んでくる。F&Oのラリーコンピューターとアブコのトリップメーターは、競技用に中古品を調達。その下のペンホルダーは、ラリードライバーで活躍した山内信弥選手のショップで購入したもので、筆記具を固定しつつ取り出しやすい便利なアイテムだとか。そして助手席は純正シート、運転席はオートルックのフルバケットシートをセット。さらに、モータースポーツには欠かせないロールバーはTRDの3点式を装備。もちろん、これらのパーツは当時モノを使用している。また、シフトノブやブーツ、コンソール類など、ナルディ製ステアリング以外はすべて純正のままである。
そして何よりも驚かされたのが、鎌田さんが長年かけて地道に集めてきた当時モノパーツの数々。TE27に装着している13インチ5.5Jホイール、ラリー用マットガードは当時モノのTRD製。「あとホイールやマットガードなど、トスコのパーツも大切に保管しています」と、見せてくれた鎌田さん。トスコ(TOSCO)とは、TRDの前身であるトヨタスポーツコーナーのこと。トヨタのモータースポーツ部品の商標で、TRDへ名称変更する約2年間存在したブランドだ。これらトスコのホイールも、13×7.0Jと13×8.0Jをそれぞれ1セットずつ所有。さらに実際に使っていたという、トスコ&TRDの販売店用パーツカタログなども大事に保管されていた。
ちなみに、いくつも持っている同じパーツも多く所有しているため、定期的にネットオークションへ出品するそうだ。
「出品と同時に、ネットオークションで良さそうなパーツやアイテムを見つけては、落札するのが楽しみです。このダウンジャケットも珍しかったので、つい買ってしましました」
TE27のパーツはもちろん、気になるアイテムがあればついポチっと購入してしまうとのこと(笑)。
「5~6年前に知人に誘われ、佐賀県唐津市で開催された全日本ラリー選手権に参加したんです。エキジビションとして、ヒストリックカーのクラスにエントリーしました」と、久しぶりにラリーで走ることができ、楽しさもひとしおだったそうだ。
そして、今後はこのTE27レビンのリメイクを計画中。「ボンネットとトランクをボディと同じオレンジに塗装し、車高も落としてトスコのホイールを履かせてみたいですね」と、現在のラリー仕様からストリートスタイルへと、大幅なイメージチェンジを狙っているとか。
「長い間モータースポーツに全身全霊で取り組むことができたので、心残りや悔いはないですね。実はもう1台TE27レビンを持っていて、もうすぐレストアが完了します。こちらは改造なしのフルオリジナル車で、色はインディアナポリスオリーブ。カッコよく仕上がっていますよ」と、TE27愛が尽きないようすの鎌田さん。
愛車と共に歩んできた半世紀。そしてこれからもTE27と一緒の人生。我がクルマ人生に悔いはナシ! ですね。
※許可を得て取材を行っています
取材協力:稲佐山公園(長崎県長崎市大浜町)
(文: 櫛橋哲子 / 撮影: 西野キヨシ)
[GAZOO編集部]
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