ある朝、突然思い立って購入を決断した『青いRX-7』
「6年前のある朝。起床した瞬間に、青いRX-7を買うことを思い立ちました」
どこまでが本気か、冗談なのかも判別できない突飛なコメントを真顔で語ってくれたのは、2003年式のマツダ・RX-7タイプRバサースト(FD3S)に乗る柴田さん。彼がRX-7(FD3S)に魅了されたキッカケは、中学時代まで遡るという。
「子供の頃は電車が大好きでした。中でもお気に入りは寝台特急で“日本海”や“北斗星”など両親に連れられて東京や秋田、札幌まで行ったこともあります。でも、中学に入った辺りから寝台特急や国鉄時代の車両が次々に廃止されはじめ、熱中する対象が無くなりかけていたんですよね。そんな時に友人と遊びに行ったゲームセンターで、RX-7というクルマを知ったんです」
そのゲームとは『頭文字D』をフィーチャーしたカーゲームで、その中で友人が使用していたクルマが白いRX-7 (FD3S)だったという。
社会現象を巻き起こすほどのヒット作だけに漫画自体は知っていたものの、クルマへの関心は薄かったという柴田さん。登場するスプリンタートレノ(AE86)やRX-7(FD3S)といったクルマたちの区別も付かないくらいだったが、その日を境に各登場人物が乗るクルマを意識しながら単行本版の頭文字Dを読み返しはじめたそうだ。
さらに時期を同じくして、学校のビデオ学習で見た『ロータリーエンジン開発部門のスタッフの苦労』を描いたNHKのプロジェクトXという番組に影響され、ますますRX-7への興味がヒートアップしていったという。
免許取得後は初めての愛車として「趣味性云々より運転に慣れるために選んだ」というマツダ・アクセラスポーツを購入したものの、RX-7への憧れはどんどん増していき、ここから文頭の“早朝の決断”へと話が繋がっていく。
「朝起きてからすぐに、スマホで情報を探し始めました。前日までは何ともなかったのに、なぜ突然そんな気持ちになったか今考えても分かりません。とにかく何かに突き動かされているような感覚だったんです(笑)。それから数日後、岡山の販売店で理想にピッタリのブルーのRX-7が見つかりました。モデルは最終となる6型の“タイプRバサースト”で、走行距離は6万4000キロ。エンジンは新品に載せ替えられていました。ぶっちゃけ、この時点ではまだ銀行のマイカーローンの審査待ちという状態でしたが、結果を待たずに購入を決めちゃいました」
当初、納車はRX-7にちなんで7月7日に行なうはずだったが、豪雨災害の影響(いわゆる『平成30年7月豪雨』)で新幹線が運休となったため翌週に延期。今度は友人のクルマで岡山まで送ってもらい、帰路は自走という方法を選択したという。
憧れ続けたRX-7を手に入れ、はじめて運転した印象は「“速い!”のひと言だった」そうだ。
280馬力というハイパワーを誇る最終型の13B-REWロータリーエンジンの性能に関してはそのままで十分満足と感じたことから、購入後にはウェッズスポーツのアルミホイールや藤田エンジニアリングのサイドステップ、フジツボの車検対応マフラー、ブリッドのフルバケットシートなど、内外装に自分流のモディファイを加えていくいっぽうで、エンジン本体はノーマルをキープしたという。
ただし、3000kmでオイルを交換、5000kmでプラグ交換というように、メンテナンスサイクルをきっちり守り、自分でできる点検作業はこまめに行なうなど、基本コンディションの維持管理には気を使っているという。日々欠かさず気にかけて来たメンテナンスの甲斐もあって好調をキープしているそうだ。
5年余りの所有期間で10万kmを走破したという柴田さんだが、その中でもマイレージを伸ばしている大きな要因のひとつが、SNSを通じて知り合った広島県在住のEさんの存在だという。
「私と同じ型のRX-7やNAロードスターを所有されていて、関東、関西方面など1000km級のツーリングをちょくちょくこなしているスゴイ人です。これまで何度かツーリングにも誘って頂きましたが、特に忘れられないのが3年前に行った山口県の角島。そこにはなんと、ロードスターやRX-7の開発に尽力された貴島孝雄氏がプライベートで来られていたんです。とても気さくな方で、カタログに書いて頂いた“ZERO作戦”(パワーウエイトレシオを5.0kg/ps以下に抑えるための高度な軽量化への取り組み)のサインは私の宝物となっています。昨年、山口県の周防大島で行なわれた貴島さんのバースデーツーリングの場でも、FD3Sの開発秘話など色々なお話を聞かせて頂きました」
「ひとことでは言い表せないけど、RX-7を通じて、これまで知らなかったカーライフの楽しみ方を教えてくれたり、カスタマイズの相談でもお世話になっているので、Eさんには感謝しています」
そしてもうひとつ、コンスタントな走行距離の増加の要因となっているのが、パートナーの希和さんと一緒に出掛ける『旧い街並み巡り』。ふたりで各地に点在するスポットを訪れているそうで、その中のひとつである広島県呉市内の御手洗地区を訪れた時にプロポーズしたのだと顔をほころばせた。
一昨年の柴田さんの誕生日にはRX-7のプラモデルをプレゼントしてくれたりと、彼女自身もこのクルマを気に入ってくれている様子で、結婚後もRX-7を所有し続けることの許可獲得にも成功。新婚旅行も関東方面へのロングツーリングを検討しているとか。
「詳しい計画はまだまだこれからですが、クルマ好きとしてはやっぱり一度は大黒パーキングに行ってみたいし、頭文字Dのバトルの舞台になった群馬県もRX-7で走ってみたいですね」
稲佐山の頂上で朝日を浴びながら佇む柴田さんのRX-7は、車体のみならずホイール内部までピカピカ。タービンからのオイル漏れやハーネスの交換など、時にはマイナートラブルに見舞われることもあったが、定期的に信頼できる地元の主治医の診断を受けつつ、予防治療を日頃から心掛けているため車両の状態はいたって良好。製造から20年という月日の流れや、17万kmオーバーという走行距離を意識させる部分も皆無だそうだ。
6年前の朝、柴田さんをRX-7購入へと突き動かした“見えない力”の正体は、果たして何だったのであろうか?その答えは依然として謎のままだが、その決断が大正解であったことだけは間違いない。
(文: 高橋陽介 / 撮影: 平野 陽)
- ※許可を得て取材を行っています
- 取材場所:稲佐山公園(長崎県長崎市大浜町)
[GAZOO編集部]
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