トヨペット・コロナハードトップと楽しむ第2の愛車ライフ
まるで1960年代からタイムリープして来たかのような、素晴らしいコンディションを見せるトヨペット コロナハードトップ(RT50)を6年ほど前から所有している長崎在住の馬場さん。
このクルマの存在を初めて知ったのはまだ幼少期の頃で、父親が持ち帰って来た同車のカタログがキッカケだったという。
「長崎トヨペットに勤めていた父親が、週に何度か各営業所を回るために会社所有のコロナセダンに乗って帰っていたんです。家には排気音がパタパタうるさい母親の軽自動車しか無かったので、借り物とはいえコロナに触れられるのは楽しみでしたね。もうひとつ私が楽しみにしていたのが、父が持っている色々なトヨタ車のカタログでした。その中にコロナハードトップのカタログを見つけて『お父さん、このクルマすごいね! カッコいいね!』と二人で盛り上がったことを覚えています。当時街中を走っているのはトラックやライトバンばかりで、普通車を持っている家はごく稀。ましてや2ドアのクーペだなんて、今で言うところのレクサスみたいに贅沢な存在でしたからね」
こうして国産車史上初となるハードトップデザインを採用した白いコロナハードトップの姿は、馬場さんの記憶の片隅に深く刻まれたのだった。
それから時を経て、社会人となった馬場さんのカーライフは格安中古車のKE20型カローラ4ドアに始まり、TE52型カローラリフトバック、EP71型スターレットなど、トヨタ車をメインに展開していく。とは言え、仕事に結婚、3人の子育て、さらに会社の起業と、文字通り目まぐるしい日々の連続だった当時は、クルマ選びもおのずと趣味性より実用性を重視したものとなっていたという。
「どれくらい時間が経ったかな? 1991年に設立した会社が少しずつ落ち着きはじめて、ようやくクルマ趣味を考える余裕が出てきました。そこでMGとかロータスとか、昔からイギリスのスポーツカーに憧れを持っていたので、手頃な価格が付けられていたMGFの中古車を買ってみました。ところが、ビックリするくらい故障だらけ。あちこちから雨漏りしていたし、エンジンや電気系統とトラブルの連続だったんです」
せっかくのクルマ趣味へ回帰したものの、結局MGFは短期で手放す結果に。この苦い経験からしばらくスポーツタイプのクルマは敬遠していた馬場さんだったが、意外なできごとから再びドライビングの楽しさに目覚める。そのキッカケをもたらしたのは、大掃除のゴミを捨てに行くために借りた軽トラックだった。
「非力なエンジンをマニュアルで走らせるのがとにかく面白くて『やっぱりクルマに乗るならマニュアルだなぁ』と再確認しました。そこで次の愛車候補として選んだのが、ロータス・エランの面影を感じさせるマツダのロードスター。初期型のノーマル車を条件にネットで探していると、奈良県のお店で好みの1台が見つかりました。お店からは“購入を決める前に一度実車を見に来られた方が”とも言われましたが、とにかく買うからと大丈夫と、契約を交わした後に奈良まで受け取りに行き、長崎まで自走で持って帰ってきました」
晴れてクルマ趣味生活をスタートさせた馬場さん。見た目、走り共にロードスターには大いに満足していたが、ある日、何気なくネットオークションを物色していると、子供の頃にカタログで見たままのコロナハードトップの写真が目に飛び込んできた。その瞬間、脳裏には当時の思い出が鮮烈に甦ったという。
「驚いたと同時に、絶対欲しい! と思いましたね。ロードスターはネット上の情報だけですんなり購入を決められたけど、今度は50年以上前の旧車。なんの情報もないまま手を出すには正直ちょっと勇気が要りました。けれど、お相手に恵まれたんですね。その方は群馬県のクルマ屋さんで、問い合わせをする度に車両の詳細な状態を説明して下さり、悪いところもありのまま教えてくれました。どうやらそのコロナは、自分用にレストアするために保管していたようです。そんなやり取りを何度か行なったのち、とりあえず最低限動かせるように整備をして頂く条件で購入を決めました」
こうして馬場さんのもとへと納車されたコロナハードトップは、初期型と比べてフロントグリルのデザインが僅かに異なる1967年式の中期型。エンジンは1500ccの2Rを搭載し、フロアシフトの4速が搭載されていた。
ちなみに発売当初の1500ccモデルはコラム式3速と2速のトヨグライドATという設定で、フロア4速は1600ccmモデル専用となっていた。1500ccモデルにもフロア4速が採用されたのは1966年モデルからだったため、この組み合わせは珍しいのだとか。
塗装面には確かに経年劣化が見受けられたものの、内装は改めて手を加える必要性を感じさせないほどの美観が保たれていた。また機関部分も“最低限”という購入時の条件以上に手入れが施されていたこともあり、1年ほどはそのままの状態で乗り続けていたという。
しかし、とある旧車イベントの会場を訪れた際、ピカピカに磨き上げられた周りの展示車両の中で、くたびれた塗装のままでいるコロナの姿に、次第に気恥ずかしさを覚えるようになったと語る馬場さん。
とは言え、地元で旧車のレストアを任せられる“主治医”に心当たりは無く困っていたところ、一人の年配の男性から声をかけられる。
「この型のコロナにツインカムエンジンを搭載したトヨタ1600GTを所有している方で、島原の工場で鈑金やレストアをお仕事とされていました。スマホで作業中の写真を見せてもらいましたが、腐食部分にはパテは使わず鉄板溶接を徹底するなど、細かい仕上げに感銘を受け、その場で『ぜひ私のクルマも』とレストアをお願いしました」
思わぬカタチで主治医が見つかると同時に、レストアの機会も得られた馬場さん。作業は一人で行なっているため、工場へは半年ほどの順番待ちの期間を経てから入庫。そこから約11ヶ月後に戻ってきたコロナハードトップは、想像を遥かに超えるほどの完成度を見せていた。
「あまりの素晴らしさに言葉が出なかったです。純正色“リリー・ホワイト”のボディの仕上がりはもちろんですが、エンジンルームやリーフスプリングの固定部分など、見えないところまでボルト類はすべて防食メッキ仕様に交換されていたんです。こちらからは何も言ってないのに、ここまでやるか! という驚きと、感謝の気持ちでいっぱいでした。それでもコストは車体代とレストア代を合計しても、イマドキの軽自動車の新車より安価な範囲に収まっています。ですから『リーズナブルな趣味なんだ』と、自分に言い聞かせています」
旧車の泣きどころである燃料タンクはオーバーホール、キャブレターも神奈川の専門業者に送ってリビルトを行なうなど、機関部分もしっかりリフレッシュ。3年前には大分県にあるサーキット『オートポリス』を走り、ストレートでは120km/h以上をマークするほどの快調ぶりで、現在でもトラブルフリーということだ。
コロナのカタログは全種類をコンプリートし、ラジコンやミニカー、当時のノベルティグッズといったコロナハードトップに関連するグッズの収集を続けるなど、旧車趣味に没頭する馬場さん。目下の悩みはそんな馬場さんの姿に対する家族のリアクションの薄さだという。
コロナのリヤウインドウには、旧車仲間が作った『車は黙って買ってくる。家族に理解は求めない。事後報告の会』という、強気な言葉が並んだステッカーが貼られているのだが、馬場さんの偽らざるホンネは、実はもっと愛に溢れていた。
「嫁さんがこのクルマの助手席に乗ってくれたのは数える程度。できればもう少し一緒に、あちこちに出掛けたいんですけどね」
(文: 高橋陽介 / 撮影: 平野 陽)
※許可を得て取材を行っています
取材場所:稲佐山公園(長崎県長崎市大浜町)
[GAZOO編集部]
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