“あぶ刑事"はあくまでキーワードのひとつ。日産・レパードは数々の出会いをもたらしてくれた、かけがえのない存在

  • GAZOO愛車取材会の会場である虹の松原森林浴の森公園で取材した日産・レパード(F31)

    日産・レパード(F31)

イマドキの刑事ドラマといえば、推理的要素や複雑な人間模様がひとつの見せ場となっているが、昭和の刑事ドラマの見せ場といえば、何と言っても激しい銃撃戦やカーチェイス。そして主演の俳優陣と同じく人気を集めていたのが、悪党どもを追い詰める覆面パトカーだった。
スピンターンで向きを変えたり、坂道で勢いよくジャンプしたりと、画面の中をところ狭しと活躍する姿に惹かれるあまり、同型の車両を購入して劇中車仕様にカスタマイズするオーナーたちは昔から多く見られてきた。ここに紹介する中島さんもその中の一人で、1980年代末期に放送された舘ひろし&柴田恭ダブル主演の『あぶない刑事』の世界に魅了され、今から8年前にF31型日産・レパード(F31)を購入している。

「あぶない刑事(以下、“あぶ刑事")を好きになったのは父親の影響です。当時私は小学生でしたが、ビデオに録画したものを一緒に何度も繰り返し観ていました。父はレパードの新車を買ってしまうほどハマりまくっていたんですヨ。もっとも、劇中で使われていた3リッターのアルティマは価格が高過ぎで、2リッターのXJという下級グレードが精一杯だったようですが」

  • GAZOO愛車取材会の会場である虹の松原森林浴の森公園で取材した日産・レパード(F31)

    日産・レパード(F31)

そんな幼少期を過ごした中島さんだが、自身が免許を取ってからはbBやヴォクシー、レガシイB4など全く異なった系統のクルマを乗り継いできたという。しかし、レパードへの想いが心の隅から消え去ることは無かった。レガシイB4を選んだ理由もレパードと同じハードトップ(サッシュレスのウィンドウ)だったからで“雰囲気だけでもレパード感を味わいたかった"と、当時の心境を振り返る。しかし、ある出会いが中島さんを動かしたという。

「地元にあるデスカウントショップの駐車場に前期ゴールドのレパードが停まってたんです。あまりのカッコよさにじっと眺めていたらオーナーさんが戻ってきて、いろいろ話を聞いてくれました。この時に 『そこまで好きなら絶対買った方がいい。いや、買わなきゃ人生、後悔するよ』という力強い言葉を頂いたことで、20年以上溜め込んできた心のモヤモヤがすべて吹っ切れたんです」

こうして、思いがけない出会いから、憧れを現実のものとするための物件探しが始まった。
あぶ刑事ファンの間では前期型のゴールド2トーンが一番人気とされているようだが、中島さんの意中のモデルは第2シリーズで使用された後期型の紺2トーン車。とはいえこの時点ですでに生産中止から20年以上の年月が経過しており、市場に残された物件台数から考えても、すべての希望を叶えるのは困難だと判断。最低条件として『サンルーフ付き』と『内装のヤレが少ない』という2点を優先し、ボディカラーやその他の装備については購入してから対策を考える作戦へと変更したところ、1台のクルマとの巡り合わせが。

「ワンオーナーのXSグレードが見つかりました。色は黒2トーンで走行距離は16万kmでしたが、年配の方が乗られていたようでミッションやタービンなど機関部分の状態も良好でした。内装も希望のレザーではなくグレーのウール仕様だったけどダッシュボードや樹脂部分の状態もまずまずで、全体的にキレイだったので即決しました」
ついに20年来の念願だったレパードを手に入れた中島さん。ここから、劇中車「港302号」仕様への変身計画がスタートした。

まず前後バンパーをアルティマ用とした後、ボディカラーを紺/シルバーの2トーンに塗装。内装のパネル類はネットオークションで手に入れた純正のブラックレザーに入れ替えた。
特にこだわったのがシートで、運転席は社外品のレザーカバーを付けているものの、助手席は友人から譲り受けた純正本革シートを装着している。これはレパードの特徴のひとつとされているリクライニング時にバックレストが中折れするパートナーコンフォート機構を見せるためのもの。カバーをかけると見えなくなってしまうので、。小物関係の演出にも抜かりは無く、エンブレムをゴールドで統一した他、電電公社カラーの自動車電話機や劇中で使われていた通信指令の声が再生されるダミー無線機、さらに極め付けは奥様のハンドメイドによる傘おばけのぬいぐるみ(「もっとあぶない刑事」の最終話だけに登場した激レアアイテム)など、あぶ刑事マニアも納得の完成度を見せる。

「アルティマとXSというグレードの違い以外、劇中車と比べて欠けているものはリアウインドゥの“無鉛"ステッカー程度。ハイ、我ながら“いいオトナが"と思ってます(笑)。でもあぶ刑事のサントラや映像を流しながらレパードに乗るのが長年の夢だったので。購入の翌年に公開された映画「さらばあぶない刑事」を、このクルマに乗って福岡のキャナルシティまで観に行けた時には涙が出そうなほど感激しました。私は元々飽きっぽい性格で、購入前には“乗ったら飽きちゃうかも?"という心配も正直、少しだけありましたが、実際は今でも乗るたび、見るたびにカッコイイなァと惚れ込んでます」

この言葉の通り、中島さんのレパード&あぶ刑事愛は月日を重ねるごとにパワーアップ。
最近は機関部分を労るべく、週一程度に抑えているが、数年前までは毎日往復50キロの通勤に使用するなど、年間走行距離は3万kmを突破。転勤先の千葉県で2018年に行われたチャリティゴルフイベントの会場では舘ひろしさん、柴田恭兵さんからの直筆サインもゲット! ここに地元長崎県出身で、あぶ刑事の脚本を多く手がけた柏原博司さんからのサインを並べた愛車の写真パネルは大切な宝物となっている。
しかし、中島さんは“レパード=あぶ刑事のヒーローマシン"という価値観をやみくもに押し付けるつもりはまったく無いとも語る。

「あぶ刑事は、あくまで一つのキーワード。実際に所有して気づいたのは、このクルマは人と人とが出会うきっかけを作る、不思議な求心力が備えられているということ。私がこうして乗り続けられているのも、レパードの話題で盛り上がったり、メンテナンスやパーツに関する相談が気軽にできる先輩や仲間たちのおかげ。これまで2度ほどオフ会を企画しましたが、そこに集まって下さった方からも“あぶ刑事云々ではなく、純粋にこのクルマのスタイルや雰囲気が好き"という声が聞かれました」

その仲間たちとはSNS用の写真を撮影したり、ショートツーリングに出掛けたりと、活発な交流を重ねている(自身のYoutubeチャンネル『club302』内でも公開中)。もちろん、2024年5月公開予定の最新作『帰ってきた あぶない刑事』もレパードで観に行くつもりだという。ちなみに、そんな中島さんの姿を見て、同家の初代レパードフリークであるお父様は「俺も手放さなきゃ良かったなァ」と、今でも時折こぼしているとか。

「自分が父親から影響を受けたように、僕もいつか息子に乗って欲しいという気持ちはあります。もっとも、それまでクルマが壊れずにいてくれるか分かりませんけどネ」と、親子3代に渡るレパード愛の継承を願う中島さん。その傍らで「レパードのライトはガラスでできてるから、古くなってもキレイなんだよ!」と自慢の知識を披露してくれたのが、ユージ仕様(柴田恭兵さんのキャラクター)のスーツでバッチリ決めた6歳の碧優クン。どうやら、お父さんの願いは叶いそうだ。

取材協力:虹の松原森林浴の森公園(佐賀県唐津市浜玉町浜崎)
(⽂: 高橋陽介 撮影: 西野キヨシ)
[GAZOO編集部]

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