「走らせなきゃもったいない!」タフな2000GTとの愛車ライフ
トヨタ2000GTと言えば、誰もが認める国産車史上における屈指の名車。誕生は今から半世紀以上も前。総生産台数は僅か337台と、その存在はもはや動く博物館クラス。そんな極めて貴重なクルマを所有するだけでなく、暇を見つけてはガレージから引っ張り出し、気軽にドライブを楽しんでいるというのが佐賀県在住の山口さんだ。
「就職して初任給で初めて買ったクルマは、トヨタスポーツ800(通称:ヨタハチ)でした。私が22歳の時で購入価格は50万円。当時、大卒の初任給が10万円くらいだったので、結構無理をして買った記憶があります。ご存知の通り空冷2気筒の小さなエンジンでしたが、よく走ってくれたし、あちこち遠乗りもしましたね」
当初はヨタハチとのカーライフに満足していた山口さんだったが、心の中で憧れていたのはトヨタ2000GT。当時はまだ現在のように“億超え"と言われるほどのプレミア価格では無かったものの、すでに国産旧車群の中では一歩突き抜けた存在。若者が簡単に手を出せるはずもなく、山口さんはひたすら仕事に打ち込みながらその時期を伺っていたとのこと。
「昔も今も、クルマに関しては、私は執念深いんですよ(笑)。欲しいと思ったら、絶対買わないと気が済まない。でも、頑張ってお金を貯めている間にも、中古車の相場はどんどん上がっていってしまって。こりゃ困ったなぁ、と悩みながら10年以上経った頃でしょうか。初代オーナーの方々が御高齢になられて、2000GTを手放し始める“オーナーチェンジ”の時期が巡ってきたんです。私のところにもいくつかお話を頂き、その中の1台を大阪まで見に行くことにしたんです」
目の前にした物件は山口さんの理想通り、ホワイトに彩られた後期型。唯一、理想と異なっていたのは、トランスミッションがトヨグライドと命名された3速オートマチックだったという点。しかし、山口さんによると、トヨグライド仕様の2000GTはマニュアル車を遥かに上回る珍しさに加え、これまで見て来た数台の候補車の中でも車体周りの状態が特に良かったことから購入を決断したという。
こうして40歳を目前に、長年の夢を叶えた山口さん。せっかくこのような希少な愛車を手に入れたのだから、ガレージにそっと仕舞っておきたくなりそうなものだが、山口さんの場合はその真逆。所属する『トヨタ2000GTオーナーズクラブジャパン』が定期的に行なっているロングツーリングや、ヴィンテージカーによる様々なラリーイベントへの参加に加え、なんとサーキット走行まで楽しんでいるというのだ。
「オートポリスだけでなく富士スピードウェイや鈴鹿サーキットにも行きましたよ。他にも北海道の士別にあるトヨタの試験場や、このクルマのエンジンを手掛けたヤマハの袋井テストコースをも走ったこともあります。もちろん、雨の日だって普通に走ります。2000GTは皆さんが思っているより、ずっとタフなんです。やっぱり“走り”がウリのクルマなんだから、ガンガン乗らなきゃもったいないでしょ! それに雨の日に乗らないと、ボディから雨漏りしているかどうかも分からないですし(笑)。走らせれば一発で問題箇所が見つけられますからね」
また、トヨタ2000GTともなれば、ビス一本に至るまで純正、というフルオリジナルを支持する声もあるが、この点についても山口さんの考え方は異なっていて、安全性や機能面など現代の交通環境に見合った改良には積極的な姿勢を見せている。
まず旧車の泣きどころであるヘッドライトの暗さを解消すべく、灯火類はすべてLED化。サスペンションもグランドツアラー的な特性を重視した純正に対し、より引き締まった走行フィーリングにするべく、独・ザックス社製のものをオーダーして装着しているといった具合だ。タイヤは最新のブリヂストン・レグノが組み合わされていた。
さらに純正クーラーをR134冷媒対応のロータリーコンプレッサー式エアコンに変更していて夏場でも快適で“寒いくらい冷えます”と語る。ちなみにトリップメーターが10万kmを超えるほどしっかり走り込まれているが、機関部は地元の主治医のもとでこまめなメンテナンスが行なわれている。また、軽く手を添えるだけでカチリと閉まるドアなど、車体まわりのコンディションも申し分ない状態に保たれていた。
「2000GTは私の地元、佐賀県の唐津市にもゆかりがあるんです。このクルマのデザインを担当された、トヨタ自動車の野崎 喩(さとる)さんは唐津のご出身で、ご自宅も近所だったんです。こんなところにも、このクルマとの見えないご縁を感じますね」
現在は、2000GT以外にもNSX(最新型)やコスモスポーツ、フェアレディ240ZGなど、カーマニア垂涎のスポーツカーを所有する山口さん。中でもお気に入りは赤、青、黄と3色のボディカラーを揃えたトヨタスポーツ800だと言う。このうち、青いヨタハチは山口さんが22歳の時に初任給で購入した車両そのもの。一時は手放してしまったが、様々な遍歴を経た後、再び手元に戻って来たという。
「もう10数年前の話ですが、山奥でスクラップになりかけていたところを引き上げて、完璧にレストアしました。やっぱり、ヨタハチは今でも思い入れの強いクルマですね。私は3人の子供がいますが、クルマの基本的な運転操作は全員ヨタハチで勉強させました。もちろん、みんなAT限定ではなくマニュアルの普通免許ですよ」
ちなみに、この日の取材会で2000GTの助手席に乗ってきてくれたのは孫の泰輝くん。
そんな山口さんのもとで、現在進められているのが“令和スペック"のトヨタスポーツ800の製作。これは所有する3台のうち黄色い車体をベースとしたもので、エンジンを1000ccのターボに換装し、オートエアコンや電動ドアミラーなど、現代的な装備を盛り込んでいくとのこと。当然、公道走行が大前提となるので、公認取得も予定されているそうだ。
そんな愛車たちとのカーライフを子供のように楽しそうな笑顔で語っていただいた山口さん。ヨタハチが完成した際には是非また、どこかで愛車自慢を聞かせてください!
取材協力:虹の松原森林浴の森公園(佐賀県唐津市浜玉町浜崎)
(文: 高橋陽介 / 撮影: 西野キヨシ)
[GAZOO編集部]
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