15年の冬眠期間を経て、新たに漕ぎ出した“ニーナナレビン”と二人の時間
当時の大衆車であったカローラに、スポーツモデルのセリカ1600GTが搭載していた2T-Gエンジンを載せ、オーバーフェンダーまで装着したホットモデルという位置付けで1972年に登場したトヨタ・カローラレビン(TE27)。
ボディサイズが大柄になっているイマドキのクルマと比べるとずっとコンパクトなサイズの855kgという軽量ボディに、115psというハイパワーエンジンの組み合わせによって、その走りは軽快そのもの。勇ましく存在感を示すデザインも魅力で、姉妹車のスプリンタートレノとともに当時の若者たちのあいだで大人気となったスポーティカーだ。
そんな“ニーナナレビン”と、オーナーの本村貴幸さんが出会ったのは、今から20数年前に開催されていた、とある旧車イベント会場でのことだったという。
「イベント会場を回っていてこのクルマを見つけた時は、もう完全にひと目惚れでしたね。しかも持ち主の方にいろいろとお話を伺っていると、そろそろ手放す予定とのことで、当時は若さゆえの勢いもあって、その場で『ぜひボクに譲って下さい!』と、お願いしちゃったんですよ」
当時25歳だった本村さんは、それまで180SXやシビック、フォルクスワーゲン・パサートなど複数のクルマを乗り継ぎ、エアロパーツやホイールなどを自分流のカスタマイズで楽しんでいたそうで、この1974年式のレビンは初めてとなる旧車。しかも半年後には結婚を控えているという、なかなかデリケートな時期に突然の衝動買い。後に奥様となるパートナーの由香理さんは、当然と言えば当然、複雑な表情を浮かべていたそうだ。
それでもなんとか説得をして、どうにか憧れの旧車ライフをスタートさせることができたところまではよかったのだが…それから少しして海外への長期出張という辞令が舞い込んできてしまった。
「当時すでに25年落ちだったレビンを2年ほど所有してみて“旧車はおサイフに余裕がある人の高貴な趣味なんだろうな”と思ってしまいましたね。すごく気に入ってはいましたが、細かなマイナートラブルはもちろん、2リッターにボアアップされていたエンジンの調子がイマイチだったりして、完調を目指そうとすると結構なお金が掛かってしまうという事実にも直面して…さらに、当時は子供も生まれるなどクルマ以外にもいろいろと物入りだった時期が重なっていたこともあって、余計にそう思っていたんですね。そういった状況だったので、海外への長期出張が決まった時は、とりあえず実家の駐車場に置いてきたものの『良い話があれば売却しよう』と覚悟を決めていたほどでした」
『このクルマが好きだからこそしっかり面倒を見てくれる人のもとで元気に走り続けていてほしい』
そんな本村さんの心中を察してか、救いの手を差し伸べたのが父親の幸男さん。自身も1967年式のトヨタ1600GT(RT55)を、30年以上に渡って所有してきた旧車のエキスパートであり、貴幸さんがクルマ好きになったのも幸男さんの影響からだった。
「大事にしているのを見ていたからね。無理して売らなくても、いつかこっち(佐賀)に帰ってきた時に乗れるように、私が預かっとけばいいやと思っていたんです」そう語るのは、この日、取材に同行して頂いた父の幸男さん。
その後、不調だったエンジンは試運転中に白煙を吐いてしまい、呆気なくブロー。しかも修理が不可能なほどの大ダメージだったため再生は断念し、長崎県に住んでいる幸男さんの旧車仲間から、中古の2T-Gエンジンを譲り受けることになった。
この一件で再びオリジナルスペックである1.6リッターエンジンへと回帰させることができたし、息子が帰ってきたら快適に乗れるように車体まわりも少しずつ手を加えていこうか…そう思っていた父・幸男さんではあったが、仕事が多忙な上に自身のメインカーである1600GTの面倒を見る時間も必要とあり、レビンは徐々に冬眠状態へ…それから実に15年という歳月が、あっという間に流れていったという。
止まっていた時計が動き出したのは、海外出張を経て東京勤務となっていた貴幸さんから、幸男さんのもとに『担当する業務が変わって、ちょくちょく九州に帰省できるようになったヨ』との連絡がキッカケだった。
「そうとくればレビンを何とか復活させねば!」
幸男さんは地元の旧車仲間の手を借りつつ、レストア作業を再スタート。エンジンの調整はもとより、車体はドンガラ状態までバラされ、色合いがチグハグだったボディは純正インディアナポリスオリーブへと再塗装された。そして、遥か昔に製造廃止になっている純正部品のシートやヘッドライニングなどは、質感の近い生地を探して張り替え作業を行なった。
復活に向けてそんな地道な作業が延々と続いたが、旧車仲間たちは暇を見つけては自宅のガレージへと集ってくれたという。
もちろん、オーナーである貴幸さんも帰省のたびにレストア作業に参加。ひび割れたセンターコンソールや朽ち果てて穴が空いてしまったグローブボックス内部のケースを自作したほか、エンジン型式や整備上の注意点などが書かれたコーションラベルをパソコンで書き起こすなど、ディテール部分の仕上げで大いに手腕を発揮したそうだ。
こうして様々な協力者の手を借りて、令和の時代となった2022年に再び動き始めたレビンは、誰が見ても「カッコいい!」と思うに違いない、素晴らしいコンディションへと大変貌を遂げた。長い冬眠から目覚め、本格的なお色直しをしてもらったレビン自身も、さぞや嬉しかったことだろう。
「昨日、ドライブシャフトのベアリングにガタつきが出てしまって、一瞬、取材会場に行けないかも? と焦りましたが、地元の名医がその日のうちに治して下さいました。“困った時はみんなでなんとかしよう”という、父親のまわりにいる旧車乗りの方々の絆の深さを改めて実感した次第です。そうそう、アクシデントと言えばもうひとつ。グローブボックス内のパーツを作っている最中に、カッターで指をザックリやっちゃいました。まぁ、父親の苦労に較べればたいした事じゃ無いですけどネ!」
そう言いながら笑う貴幸さんの指先に巻かれた絆創膏は、現在進行形で進むレビン復活プロジェクトで負った名誉の負傷というわけだ。
そして、そんな貴幸さんを長年支え続けてきた最大の理解者が、この日の取材会にレビンの助手席に乗って同行していただいた奥様の由香理さん。実は貴幸さんが今回の取材に応募した目的は、完璧に仕上がったレビンの助手席に彼女を乗せることで、今までの感謝の気持ちを伝えるためであったという。
「最初のキッカケが衝動買いという気まずさ(失笑)もあって、今まで彼女を助手席に乗せたことはありませんでした。私がクルマの趣味に没頭している間も、育児に家事にと一生懸命頑張ってくれていた姿には、正直いくら感謝しても足りないくらいです。娘もようやく独り立ちしましたし、これからはレビンでのんびり、二人の時間を作って行けたらと思っています」と貴幸さん。
取材を終えた後、「天気も良いし、せっかくの機会なので、海の幸を食べて帰ります」(佐賀・呼子は新鮮なイカが名物)という言葉を残し、心地良いツインカムサウンドと共に走り去るレビン。そのフェンダーミラーに映った由香理さんが車内で微笑む表情を見て確信した。
これから先、二人で歩む人生は豊かなものになるに違いない。
取材協力:虹の松原森林浴の森公園(佐賀県唐津市浜玉町浜崎)
(文: 高橋陽介 / 撮影: 西野キヨシ)
[GAZOO編集部]
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