マツダ・ロードスター 軽い気持ちで購入した『M2-1001』をこんなに好きになるなんて

  • GAZOO愛車取材会の会場、富山県射水市の海王丸パークで取材したマツダ・初代ロードスター M2のM2-1001

    マツダ・初代ロードスター M2のM2-1001

1989年に登場したユーノス・ロードスターと言えば、軽量2シーターオープンのブームを作った火付け役だ。その人気は日本だけにとどまらず世界中へと波及し、今なお多くの人に愛されている名車である。
そして、そんな初代ロードスターの販売からまもなくして、東京世田谷に『M2』という会社が発足した。“クルマの新しい価値創造”を目標に掲げ、開発メンバーがユーザーと直接意見を交わしながらマツダの市販モデルをM2社らしく仕上げ販売していたのだ。

今回の取材対象者であるHideさんが乗るのは、M2社が手がけた最初のモデルである『M2-1001』。初代ロードスターをベースにカスタムされ、限定300台で販売された特別仕様車で、世田谷まで出向いて申し込み、抽選に当選した人のみが購入できるといった付加価値の高いモデルであった。

  • GAZOO愛車取材会の会場、富山県射水市の海王丸パークで取材したマツダ・初代ロードスター M2のM2-1001

    マツダ・初代ロードスター M2のM2-1001

「購入したのは2006年だったんですが、中古車サイトで探してみると、普通のロードスター(NA型)はたくさんあるけどM2-1001はなかなか見つからなくて、半年ぐらい経った時にようやく見つかったんです。静岡県にあるクルマ屋さんが予算内で出品されていて、これなら買えると購入しました。通販で購入したのですが、幸いにも特に悪いところも無さそうだし、当時はまだお手頃な価格で買えたんですよね」

そう話すHideさんだが、当時はクルマよりもオートバイに熱を上げていたので、クルマはどちらかと言うと移動手段という意識が強かったという。よってM2-1001は“つなぎで楽しめたら良いな”くらいの軽い感覚で迎え入れたそうだ。

「オートバイの方が好きでしたし、週末はしょっちゅうツーリングに行っていたんですよ。だけど、子供が産まれてオートバイに乗る機会が減ってきて、通勤時だけでも風を感じて走りたいと思ったんです。そういったわけで、23歳の時に乗っていたパジェロ以来、15年ぶり2台目のマイカーとしてM2-1001を買ったんです」

数あるオープンカーの中でロードスターベースのM2-1001を選んだのは、このクルマのコンセプトが“カフェレーサー”だったから。
1960年代にイギリスで流行した、カフェに集まってレーシングマシンのように改造したオートバイを見せあったり競争したりする“カフェレーサー”と呼ばれるスタイルに憧れ、ヤマハSRに乗っていたHideさんの心を掴んだのだ。
M2-1001は、開発者である立花啓毅氏自身が英国製のオートバイでレースをするなど、そのスタイルを楽しんでいたからこそ、細部までこだわることができたのかもしれないと想像している。

「フォグランプ付きの専用バンパー、専用レザーカバー付きのアルミロールバー、カギ付きのアルミ製フューエルリッドなど、ブリティッシュな雰囲気が最高にカッコいいと思います。デザインだけではなくて、エンジンの出力も上がっていますしね!」

標準車のロードスターと排気量は同じと言えども、ハイリフトカムシャフトやハイコンプピストンが投入されポート研磨も施されるなどチューニングされたエンジンは、出力130ps、最大トルク15.1kgmまで向上。専用のエキゾーストマニホールドや軽量フライホイール、ECUもM2-1001専用となり、まさにメーカー製チューンドといった贅沢なパワーソースが搭載されているのだ。
足まわりにはSHOWA製のショックアブソーバーや専用のスタビライザー、機械式LSDも装着することで、よりダイレクトな走りを実現し、アクセルワークでクルマの挙動をコントロールする面白さもある。
と、M2-1001の性能を流暢に語ってくれたHideさんだが、乗り始めて感じたのは「しょっちゅう故障するじゃん」だったという。

「車屋さんで納車整備してもらっていたら、ドアを閉めたらリヤのアクリルウインドウが割れたという連絡があったんですよ。納車前にそれを聞いた妻は『そんなクルマで大丈夫なの?』と怪訝そうな顔をしていました。なんなら僕も、大丈夫かな?って不安になりましたよ(笑)。でも、何年か乗ったら乗り換えるつもりだったし、別にいいやって開き直っていました。まぁ…別にいいやって思えないくらい、しょっちゅう故障していましたけどね(笑)」
窓やドアが開かなくなったり、ラジエーターが壊れてボンネットから煙が出たり、急に止まったり、そもそもエンジンがかからなかったりと3カ月に1回はトラブルに見舞われていたという。
その度に会社を休むわけにはいかないので、M2-1001のほかに通勤車を購入したほどだ。
「これで、いつ動かなくなっても安心というわけです。ロードスターはプライベートで乗ればいいんです」

理屈は分かるが、話が違う。そもそも乗りたいと思っていたわけではないのだから、本来はもう1台増車する必要はないのだ。
それどころか、修理代やマフラー、タイヤホイールを購入するために、いずれ乗ろうと車庫に保管していたオートバイを売り払ってしまったというから、そのハマりっぷりは本人自身が笑ってしまうほどだ。
「いや〜、自分でも驚いたんですけどね。そうさせるくらい楽しいクルマだったんですよ」

まずは、オープンにすると春と秋の風を感じられるのが良いのだという。ちなみに、夏と冬が入っていないのは、暑すぎる寒すぎるからだとのこと。自分に正直に走るのが、Hideさん流なのだ。次に、気持ち良く走れるところも気に入っている。硬めのサスペンションと心地よいサウンドを奏でるスポーツマフラーを装着しているのだが、奥様は乗り心地が悪いと2年に1回のペースでしか乗らないそうだ。それでも重ステのステアリングを切ってアクセルを踏むと、思い通りに曲がってくれると満足気な顔を見せた。ライトウエイトスポーツとはまさにこのことで、パワーではなく、爽快に走れる楽しさこそがその真実であった。
「峠道を走っている時が、ロードスターの良さをより体感できると思います。優雅さの中にも『M2-1001』というだけあって、ちょっとスポーティなのがまた良い良いんです! ドライブルートは氷見の海岸線から七尾を抜けて、能登島あたりまでというのがお決まりですね」

購入金額の2倍以上のお金と、長い期間をかけてレストアした甲斐もあって、現在は購入時のような不具合もなく、思い切り走れるようになったという。
そのレストアの際に、せっかくならばと新品のピストン、コンロッド、クランクに交換し、ミッションとエアコンは後継機種のモノに変更。センタートンネルに断熱材貼り付けてもらう等のオーダーも追加した。そんなM2-1001が家の車庫に帰ってくるのを、今か今かと首を長くして待っていたというHideさんであった。
愛車がレストアから戻ってきて、久しぶりに乗ってみると「相変わらず気持ち良いんですよ。オープンにすると、頭上の風が後ろに流れていくでしょ? その風が、嫌なことを全部流してくれるんです。明日も頑張ろうという、活力がみなぎってきますからネ」

年に1回、女神湖で開かれるミーティングでは、ビーナスラインの壮大な景色もさることながら、1年に1回しか会えないのに旧友のように気の合う仲間が、前を見ても後ろを見ても走っているという景色が胸に刺さるのだとか。M2-1001とその仲間たちには、そういう素晴らしさがあるという。
「スペックがすべてなのではなく、心のガソリンタンクを満たしてくれるというのが、このクルマに惚れているところですね」

取材の最後に、購入して良かったと思いますか? と改めて伺がってみた。
「17年間乗り続けていますが、1度たりとも後悔したことはありません。間違いなく、ロードスターを買って良かった。ホントは息子か娘に乗り継いで欲しいのですが、あんまり興味ないようなので、家族には『もし僕が乗れなくなったら、石川県小松市の自動車博物館に、僕の名前を記して寄贈してくれ』と言っています(笑)」

(文: 矢田部明子 / 撮影: 土屋勇人)

  • 許可を得て取材を行っています
  • 取材場所:海王丸パーク(富山県射水市海王町8)

[GAZOO編集部]

MORIZO on the Road