家族との想い出を刻み続けて30年。この先も天才タマゴ エスティマと共に

  • GAZOO愛車取材会の会場である山梨県庁噴水広場で取材したトヨタ・1994年式エスティマ(TCR11W)

    トヨタ・1994年式エスティマ(TCR11W)



ファミリーカーとは、その名の通り家族が快適にレジャーや移動を楽しむためのもの。そのため、広い室内空間を確保していることは大前提と言えるだろう。そんなファミリーカーの現在の定番と言えばミニバンではあることは間違いない。

ちなみに、日本でのミニバンの誕生は1980年代末期で、ミニバンブームと呼ばれる需要の拡大は2010年代がピークと言われている。このミニバンブームを牽引した1台が『天才タマゴ』のキャッチコピーで親しまれたエスティマである。そんな1994年式トヨタ・エスティマ(TCR11W)を現在もファミリーカーとして乗り続けているのがマッシュさんだ。

1990年にリリースされたエスティマは、運転席前に前輪を配置し、エンジンはシート下に収められるミッドシップレイアウトが採用されているのが特徴。それによって室内空間を犠牲にすることなく、前後重量配分を適正化することでドライバーズカーとしても高い評価を得たモデルだ。『タマゴ』を思わせる独特なスタイリング等、その後のミニバン市場に大きな影響を与えたエポックメイキングな1台の魅力は語るに尽きない。

そんなエスティマとマッシュさんとの想い出は、お父さんが新車で購入した1994年まで遡る。

「当時、自分はホンダ・シティ(GA1)に乗っていて、ジムカーナ等に出場していました。そのシティが競技車だった影響もあって、快適に移動できる普段使いのクルマが欲しいなって考えていたんです。そんな時、父がクルマを乗り換えるって話が浮上しまして、これはチャンスと思ったわけですよ。いろんなカタログを見ていた中で、車体下にタコ足(エキゾーストマニホールド)が光っているクルマを見つけて、それがこのエスティマだったんですよ。当時、ワンボックスタイプカーが多かった中で、スタイリングもカッコ良いし、このタコ足に惚れたのもありました。また、何よりもミッドシップのリヤ駆動というのが決め手でした。自分では買うことができないので、“父に買わせた”と言うのが正直なところです」

エスティマが登場する以前は、いわゆるキャブオーバースタイルのミニバンが定番で、1994年頃になると一部のモデルでFFレイアウトのミニバンが注目を集めはじめていた。そんなミニバン黎明期においてエスティマを選択したのは、マッシュさんの競技志向の影響も強かったわけだ。

まんまとお父さんに購入してもらったエスティマは、ファミリーカーというポジションではあったものの、当然のようにマッシュさんがドライブすることが多くなっていったと言う。

「7人乗りだったので家族で出かけるのに丁度良いっていうのがミニバンのあるべき姿ですよね。でもこのエスティマを使って家族でドライブしたという記憶はあまりなく、年に1度の初詣にみんなで成田山に行く程度だったんです。父が亡くなって20年近くが過ぎていますが、もっといろんなところに遊びに行けばよかったなって、それが心残りですよ」

現在はお母さんとともに暇を見つけてはドライブを楽しむ一方、MRのエスティマの特性を楽しむため、JAFのオートテストにも参加している。ちなみにオートテストとは、ジムカーナと同様にパイロンで設定されたコースに沿って走るモータースポーツ。運転の正確さを競う競技で、車両規定もないためマイカーで気軽に参加できるのが特徴だ。

過去にジムカーナで鍛えたマッシュさんにとって、重い車体のミニバンで出場することは、ライバルに対してある意味ハンデを与えていることにもなるという。このオートテストに年に一度参加するため、最低限のカスタマイズとしてブレーキの強化や足まわり、タイヤの変更が行なわれているのが特徴と言えるだろう。

インテリアで手を加えているのがステアリング。雰囲気を変えたいという思いと、取り回しが良くなるように純正よりも小径に変更しているが、実際は小径になり過ぎてしまったのが想定外とのこと。また、年齢を重ねた現在ではノーマルステアリングの方がスタイリング的にもしっくりくると思い直しているとか。

「ステアリング交換もそうなのですが、若い頃って何かやりたくなっちゃうじゃないですか。若気の至りというか…。メーターに貼り付けたスワロフスキーもそのひとつですかね。でも、これもまた、30年乗り続けている歴史というか、自分のクルマという証みたいなものですよ」

「エンジンも車体もオートテストでブン回しているので、コンディションは良好ですね。でもさすがに30年も経つと、いろいろな劣化部分が気になってくるんですよ。昔乗っていたホンダ・インテグラ タイプR(DC2)も、最後はボディのサビが酷くなって手放したんですが、他に欲しいと思うクルマがない現在は、このエスティマをどれだけ長持ちさせられるかが課題になっています」

30年間で走行した距離は14万5000キロを少し超えたところ。これくらいの走行距離なら大きなトラブルは少ないものの、現在は各部のプラスチックやゴム類の劣化が気になりはじめている。さらにマフラーは内部の腐食がはじまっており、純正部品も製廃になってしまっているため、リペア時の悩みどころだと言う。

ボディには一度補修ペイントが行なわれているため、そのツヤは30年が経過した車体には見えないほど美しいコンディションが保たれている。また、ヘッドライトやコーナーランプなど、機能とスタイリングを維持するための部品も、いくつかはストックするなど、今後も長く乗り続けるための準備も怠ってはいない。

現在はお母さんと2人暮らしの中で、暇を見つけてはエスティマでドライブするのが楽しみになっている。今回の取材会も千葉県からドライブがてらお二人で参加し、取材のあとは山梨観光を楽しむ予定だという。

ラゲッジルームには、ドライブで出掛けた先で使用するためのレジャーギアが搭載される。特に折りたたみ椅子は出先で風景を眺める際など、お母さんの負担を減らすための必須装備。こう言った荷物も積みこめるユーティリティ性の高さはミニバンのアドバンテージであり、しっかりとそれを有効活用している。

出掛けることが多くなったため、ナビモニターも大画面モデルに変更。ルート案内なども見やすくなり、観光スポット探しも楽になったというところも満足している点。ただし、インテリアデザインとしては後付け感が強く、マッシュさん的には少々やり過ぎと感じているのだとか。

フロントの足元に設置される冷温蔵庫は純正のオプションパーツ。現在もレジャー用品市場では車載の冷温蔵庫が重宝されていることからも、レジャーを楽しむためのファミリーカーとして、エスティマは先駆けの装備品が用意されていたというわけだ。

「最近は夏の暑さが尋常じゃないですよね。だから飲み物を冷やしておける冷温蔵庫は、母と二人のドライブでは必須の装備なんです。父が新車で購入した頃は、ここまで重要になるなんて思っていなかったんですが、オプション選択しておいてくれて本当に良かったですよ」

「母とのドライブはこのエスティマが活躍していますが、独りでのんびりする時はバイクや別に持っているダイハツ・コペン(L880K)を使っています。考えてみるとこのエスティマもコペンも、丸みを帯びたスタイリングですよね。やっぱり丸いクルマが好きみたいです(笑)」

極端な曲線を描いたカーデザインのクルマは、2000年初頭にはいくつか存在していたが現在では珍しく、その点を見てもマッシュさんが他のクルマに興味を持てない理由ははっきりしているのだ。

エスティマ以前のワンボックスカーとは違い、思ったよりもシート座面の位置が低いため、お母さんの乗り降りがしやすいという点もエスティマに乗り続ける理由のひとつだという。また、シートデザインもスタイリングに負けない個性があり、なおかつ座り心地も良好なのはこのクルマの設計が優れている点と言えるだろう。

「歴史的な建造物である、山梨県庁前で撮影してもらえるなんて、こんな機会はこの先もないんじゃないかな。だから母とふたりの記念にもなるし、何よりもドライブを楽しめるというのも参加理由ですね。母もクルマで出掛けるのが好きなので、すごくいいイベントになりました」

亡きお父さんとの想い出とともに、これからもお母さんとの想い出を作り上げてくれるエスティマ。『ファミリーカーは家族のためのクルマ』という考えは正解のひとつであるが、長い時間をともにして深い思い入れを持つことで、クルマ自体が家族の一員にもなり得る。

そんな大切な家族だからこそ、長く大切に乗り続け、より多くのドラマを残したいと考えるのは当然だろう。これからもお母さんとエスティマとともに、各地をドライブして巡ることは、マッシュさんの願いなのである。

(文: 渡辺大輔 / 撮影: 中村レオ)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:山梨県庁 噴水広場(山梨県甲府市丸の内1丁目6-1)

[GAZOO編集部]

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