初代ピアッツァを手に入れたことで訪れた愛車ライフの変化
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いすゞ・ピアッツァ・ネロ(JR120型)
現在では、主にトラックやバスなどの商用車を製造する自動車メーカーとして知られるいすゞであるが、1950年代から1990年代初頭までは、乗用車もラインナップするメーカーであった。
いすゞの乗用車は、美しいスタイリングを有するモデルが多く、中でも1968年に登場した117クーペ、そしてその後継モデルとして1981年に登場したピアッツァは、その美しさやデザインの良さから、今でも多くのファンがいるモデルである。
特にピアッツァは、世界中のクルマのスタイリングやインテリアが大きく変貌した1980年代の最先端をいくデザインが特徴の一台と言える。ボディのスタイリングも、インテリアの造形も、それまでなかった新時代を感じさせるもので、デビュー時も、そして今も、そのデザインの素晴らしさを絶賛するクルマ好きは少なく無い。
ここにも一人、そんなピアッツァのデザインに魅了された方がいらっしゃる。
「小学校に上がるか上がらないかの頃に『なんて未来的なデザインのクルマなんだ!』って興味をもったんですよ」と、ピアッツァに興味を持ったキッカケを語ってくれたのが、このピアッツァ・ネロ(JR120型)のオーナーである『setta』さんだ。
「そうは言っても、まだ小さかったんで、好きになったキッカケなど、実際のところはあんまりはっきり覚えてないんですけどね(笑)」
とはいえ、小学生になるかならないかの頃には、自動車雑誌に掲載されたピアッツァのページを、穴が開くほど読み込むお子さんだったようである。
「自宅の向かいに住んでいる方が自動車メーカーの実験部にお勤めの方で、その方が読み終わった『モーターファン』をくれたので、それを絵本の代わりに見るような子供でしたね(笑)」
自動車雑誌を見るようになったのは、ピアッツァが誕生する前からだったようで、当時のsetta少年は、1970年代後半に登場したクルマを見て『カッコ良い』『カッコ悪い』というように、そのスタイルを見比べて楽しむお子さんだったのであろう。
「ピアッツァが出た時は、子供ながらにどの角度から見ても隙がない、斬新で洗練された素晴らしいデザインだなって思いましたね」とのことで、失礼ながら小学生になるかならないかの子供がそんな大人びた印象を抱くかとも思ったのだが「ジウジアーロの名前もその頃知ったんです」というお話から、本当にカーデザインに興味を持っていたんだと、納得させられてしまった。
そんな子供時代を過ごしたsettaさんだから、当然『大人になったらピアッツァに乗りたい』と憧れていたわけだが、自動車免許を取得して、実際に自分のクルマを所有するようになっても、すぐにピアッツァを手に入れることはなかった。
「クルマ好きって、二つのタイプに分られると思うんです。ひとつは、ひとつの車種だけずっと好きとか、ひとつのメーカーをずっと好きとか、一途なタイプ。もうひとつのタイプは、色々な種類のクルマに乗りたいタイプ。色々なクルマに乗って、それぞれの違いを楽しむ。私は、どちらかと言えば、後者のタイプなんです。細かく言えば、前者が1、後者が9ぐらいかな?(笑)」
免許を取得してから25年ぐらいは、完全に後者タイプだったようで、様々なタイプのクルマを15台以上、乗り換えてきたそうだ。
「このピアッツァに乗るまでは、だいたい2〜3年ごとに、いろんなタイプのクルマに、興味に任せて乗り換えてきましたね。もちろんピアッツァへの興味がなくなったワケではなくて、『いつか乗れれば』ぐらいの気持ちではいたんですが、気がつけば、完全なる旧車になってしまっていて、このままずっと乗らずに終わっちゃうかも? なんて思ったりもしてましたね」
しかし、そんなsettaさんとピアッツァネロが巡り合うタイミングが2019年に訪れた。
「その頃、乗っていたクルマが、乗り始めて2年経ったので『面白そうなクルマがあれば乗り替えようかなぁ』と、中古車サイトや自動車雑誌の個人売買ページなんかをチェックしていたんです。そうしたら個人売買のページで、このピアッツァネロを見つけたんです。購入予算内だったので、遠方ではあったんですが現車を確認させてもらいに行くことにしました」
settaさんは、出品者と連絡を取り、クルマ仲間を誘って、200km以上離れた場所まで現車確認に行ったそうだ。
「出品者さんは、ピアッツァネロを納屋の中で大切に保管されていました。そんな保管状態だったので、外装も錆びなどの目立った傷みもなく、試乗もさせて頂いたんですけど、エアコンが効かないってこと以外は、特に大きな問題も無さそうでした」
ここで『即決した』というエピソードが、クルマ好きには多かったりもするが、settaさんは違った。「一度、帰宅してジックリ考えることにさせてもらいました。往復400km以上も離れたところまで行ってるのに(笑)」
普通の中古車ならその場のノリで購入を決めてしまうのもアリだが、1985年式のピアッツァネロは、30数年が経過している立派な旧車である。「旧車だっていうことだけじゃなく、乗用車から撤退したいすゞのクルマですから、部品供給状況も心配だったんですよねぇ」と、当時を振り返る。
しかし、帰宅して冷静になったsettaさんではあったが、子供の頃から憧れていたピアッツァへの想いに抗うことはできなかったようだ。「今を逃したら、ピアッツァには一生乗れないって思って、翌日には購入する旨を出品者さんに伝えました」
そして、翌週は電車に乗って、また200km以上離れた地まで赴き、1985年式のJR120型ピアッツァネロXSターボを自走で引き取ってきたという。
物心着いた頃には、憧れの存在となっていたピアッツァのオーナーになったsettaさん。実際に自分の愛車となったピアッツァはどんなクルマだったのかを伺ってみた。
「やはり、デザインが最高ですね。仕事から疲れて帰ってきても、駐車場に停まっているピアッツァを見るだけでニヤニヤできます。ドライバーズシートに座っても、サテライトスイッチなどの特徴的なインテリアを眺めるだけで『1980年代初頭の未来感ってこんなだったんだよなぁ』とノスタルジーに浸れますしね(笑)」
デザイン性だけでなく、その走りに関しても「新東名の120km/h規制区間でも、問題なく流れに乗れます。300kmぐらいの距離なら疲れることなくドライブできますね」と、デザインに憧れたクルマながら、その走りにもまったく不満がないようだ。
しかしながら、やっぱり旧車だけに、メカニカルトラブルは避けられないようで「年に1度のペースで、何処かしら壊れてますね(笑)」という。
「購入時から壊れていたエアコンは、コンプレッサーをオーバーホールして修理しました。その他には、インジェクターからの燃料漏れや、冷却水ホースの破裂、パワーステアリングのフルード漏れなどなど、色々あります。ただ、このピアッツァを手にいれる前から、ピアッツァのオーナーズクラブがあるのを知っていたので、オーナーになってから仲間に入れてもらったんです。その中で、メカニズムに強い方達のグループ的なものがあって、その方達にアドバイスをもらって修理しているんです」
例えば、燃料漏れの発生したインジェクターは、北米のウェブ上の部品販売サイトで手に入れたそうだ。
「オーナーズクラブで『JR120型のターボモデルなら北米に輸出していたから、北米の部品販売サイトにまだまだ多くのピアッツァ用の部品があるよ』と教えてもらったんですよ」
これまで短いサイクルで様々なクルマに乗ってきたsettaさんだが、ピアッツァとの付き合いは今年で6年目と、これまでの愛車の中で最も長い所有期間となっている。
「ピアッツァに乗るまでは『色々なクルマに乗りたい欲』が優っていましたが、今では『このクルマにずっと乗りたい欲』が間違いなく強くなっています!」
その変化は、憧れのクルマだから、というのももちろんあるだろうが、オーナーズクラブを介してできたピアッツァ・オーナーとの親交による影響も大きそうだ。
「どうにも乗り続けられないような事態が発生するまでは、このピアッツァに乗り続けたいですね」と仰るだけに、今後も所有期間最長記録を、このピアッツァと共に更新し続けていくことであろう。
(文: 坪内英樹 / 撮影: 清水良太郎)
※許可を得て取材を行っています。通常は園内へ車両を乗り入れることはできません。
取材場所:国営木曽三川公園 アクアワールド水郷パークセンター(岐阜県海津市海津町福江566)
[GAZOO編集部]
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