「新車のほうがいいのはわかっていたけれど…」自分の思いを優先して選び、仕上げてきたカレン
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トヨタ・カレン(ST206型)
子供の頃から“レトロな匂い”がするものが好きだったと話してくれた『あびる』さん。その当時の流行りを反映させたであろう造形や、時を重ねたヤレ具合。新品には見られない、例えばちょっとしたひっかき傷やカーペットのほつれなどからは、元オーナーが使ってきた証を感じることができ、くつろいだ気分になれるのだという。
不思議なもので、古いものにそんな力を感じるというのだ。
そんなあびるさんは、クルマも同様に、最近のクルマよりも古いクルマになんとなく魅力を感じるという。
「ですが、古いクルマはメンテナンス代が高くなってしまうと知っていたから、自分には縁がないというか、1990年代のクルマは“雲の上の存在”のように思っていたので、選択肢になかったんです」
そんなはずだったのに、6年前の2019年に迎え入れた現在の愛車は、発売から20年以上が経過した6代目セリカの姉妹車であるカレン(ST206型)であった。
販売期間は1994年から1999年で、スポーティさを前面に出したセリカに対し、スペシャルティーカーといった性格を打ち出し、5年間販売されたモデルだ。1代のみで生産終了となってしまったため販売台数は少なめだが、優雅なスタイリングが魅力のカレンは、隠れた名車として今でもその存在感を放っている。
「今のところ、維持するのはそんなには大変じゃないんですけど、新型車と比べてしまうと部品は出にくいし、これからが大変になっていくんだろうなと覚悟はしています(笑)。けど、そういうことが気にならないくらい、このクルマとのカーライフが充実しているんですよ」
カレンとの出会いを伺うと、保育園児の時まで遡るという。登園している時にたまたま見かけ、今思えばノッチバックのその落ち着いた雰囲気に目が釘付けになったのだという。
どんなデザインのクルマでも興味はあるそうだが、個人的な好みとしては“怖そうじゃない”というのが重要なポイントのひとつらしい。それでいくと、カレンには過激な加飾などは一切なく、目頭からフェンダーにかけて続く流れるようなプレスラインや、ボリュームを持たせたフェンダーラインなど、シンプルながらも美しく纏め上げられたデザインは確かにあびるさん好みなのだろうと感じる。
また、外装だけではなく内装もとても気に入っているそうで、イマドキのクルマのようにメーター周りに航続可能距離や瞬間燃費などのインフォメーションが表示されることはなく、速度や回転数だけが分かるシンプルさも当時っぽくて好きなのだという。
そして、その魅力を生かすべく、ルームランプには敢えて暖色LEDなど、純正っぽい雰囲気を崩さないようにカスタムをしているのもこだわりとのことだ。
「外装の大きな変更点といえばリヤスポイラーとボディカラーです。僕はセリカも好きなので、その憧れと兄弟車だから似合うだろうと踏んで、セリカSS-Ⅲ(ST202型)の純正リヤスポイラーを装着しました。そしてボディカラーはボルボ純正色のデニムブルーメタリックで塗り直しています。実は、納車された時は、純正スポイラーが装着されていて、ボディカラーはブラック。窓ガラスにはスモークフィルムが貼られていて、スピーカーも交換されていたので、ちょっと怖そうな仕様になっているな、と感じたんです(笑)。なので、優しい雰囲気のこの色を選びました」
お気に入りのボディカラーである、デニムブルーメタリックに辿り着くまでの道のりは、トヨタ、ダイハツ、ホンダ、スバル、マツダ、日産、スズキのディーラー各店舗を、ソアラ(JZZ30型)好きの友人と尋ねていくところから始まったという。
『濃い青』という、何となくのイメージはあったものの、実際に見てみると何かしっくりこずに、何店舗も尋ね歩くことになってしまったのだとか。
「色合いは良い! と思っても、細かいラメが入っていて、この年代の良さが無くなってしまいそうだったり、アースカラーっぽい色では今風になりすぎてしまいそうで…。細かいところかもしれないんですけど、子供の頃から好きなクルマだったから、細部までこだわりたいという気持ちが強かったんです」
そんなこんなで、難儀していた色探しのドライブから“今日はもう帰るか”と走っていると、目の前にボルボ・V40が停まったそうだ。その瞬間に友人と『これだーーー!』と顔を見合わせたという。
まるで漫画のような展開に笑いつつも、急いで写真を撮り、ボディカラーが何という名称なのかを調べたのだと前のめりに教えてくれた。
こうして濃い青に塗装されたカレンは、ますます輝いて見えると爽やかに笑っていた。
ちなみに、古いクルマは夢のまた夢と思っていたあびるさんが、カレンに乗ることになったキッカケは、先のソアラ好きの友人を含めた『クルマ好き5人組』の影響が大きいという。
「大学生になって父のアクアに乗るようになってから、僕のクルマ好きはどんどん加速していきました。子供の頃から自分の足でどこかに行くことが大好きだったから、それを叶えてくれるクルマにハマってしまうのは、必然だったのかもしれないけど」
見たことのない場所に行くことは、いつも自分をワクワクさせると、好奇心に瞳が揺れた。アクアに乗って遠出することを満喫した後、あびるさんは運転そのものを楽しみたいと感じるようになったという。そこで、お父様のカプチーノ(5MT)を拝借し、峠などのドライブスポットに走りに行くようになったそうだ。そうすると、今度は自動車の歴史やエンジンの機構について調べるようになり、もう止まらなくなってしまったと、後ろ頭をポリポリした。
「気付けば、僕はクルマ関係の会社に就職して働き始めていました。同期の中にクルマ好きがいて、どんどん輪が広がっていくなかで歳の近い例の『5人組』に出会ったんです。ある時、仕事終わりにツーリングでも行こうかと、豊田スタジアムの近くで待ち合わせをしていると、そのうちの2人がスープラ(JZA80型) とセリカGT-FOURで現れたんです」
長い下り坂の麓にある集合場所で待っていると、良い音をさせながらスープラとセリカが近づいてきて、運転手がやけにあびるさんを見るのだという。何だか嫌だなと思い目をやると、そこには笑顔でハンドルを握る友人がいたそうだ。まさか旧車に乗っているなんて思いもしなかったため、驚いて目を見開いていると、サプライズとして当日まで内緒にしていたことを告げられたらしい。
スープラオーナーになった友人は『スープラのニッコリしたようなフロントフェイスがたまらない』と力説し、セリカに乗る友人は、80万円だったからヤバそうではあるものの『憧れのWRCベース車であり、これなら買える!と思い切って購入した』と嬉しそうに話してくれたそうだ。
「2人の話を聞きながら、僕の頭の中は“こんな身近な人が乗っているなら、自分も旧車を買っていいんだ”ということでいっぱいでした。効率で考えると、絶対に新しいクルマに乗った方が良いんです。けど、そういうことも分かった上でパッと浮かんだクルマは、保育園の頃に一目惚れしたカレンでした」
自分の気持ちに嘘はつけなくなり、すぐに8万4000km走行でまずまずの個体を見つけて購入したそうだ。
こうして思い切って購入してみて良かったことは、数々の“楽しい催し物”をカレンが用意してくれたことだと語ってくれた。
先輩が昔カレンのオーナーで、バケットシートとステアリングを譲ってもらったこと。
納車直後に頭文字Dの聖地巡礼に群馬県に行ったら、途中のサービスエリアでエンジンが掛からなくなってしまったこと。そしてJAFを呼んだら奇跡的に復活し、そのまま1泊2日の旅行を強行突破したこと。
ちなみに、帰宅後すぐにまたエンジン掛からなくなってしまったが、旅行中は持ち堪えてくれたのもカレンの偉かった所だと教えてくれた。
「これらの故障で、純正部品で出ない物があることに気付きました。それで、心配になって色々調べようと自動車系のSNSに登録して検索をかけると、カレンのオーナーは数人しかヒットしないんですよ。となると、最初にもお話しましたが、これからが大変だなと」
その度に、あびるさんは“なぜカレンに乗るのか?”を自問自答していたのだという。
「最近、やっと答えが出ました。自分らしく生きるということは、このカレンに乗ることなんだと思います」
先程までパラパラと降っていた雨が見事に上がった。あまりにベストタイミングだったので、あびるさんと筆者は思わず顔を見合わせてしまった。
“もしかしたらカレンがそうさせたのかもしれない”と思わせるくらい、カレンに乗っていると楽しいことが起こるのだと、満面の笑みであびるさんが笑った。
これが、あびるさんがカレンに乗る理由なのだ。
(文:矢田部明子 / 撮影: 平野 陽)
※許可を得て取材を行っています
取材場所:国営木曽三川公園 アクアワールド水郷パークセンター(岐阜県海津市海津町福江566)
[GAZOO編集部]
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