「なんだ、このクルマは!?」と衝撃を受け、超こだわりのコペンカスタマイズ道を突き進む
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ダイハツ・コペン
『コペン・カスタムカー特集』という、ムック本の表紙が目に入ったことがすべての始まりだった。何気なく書店に寄り、クルマ雑誌が陳列されているコーナーに行くと、その表紙がひと際異彩を放っていて目が離せなくなってしまったそうだ。
なんだ…このクルマは…!? と、磁石に引き寄せられるように手に取ってページをめくっていくと、そのクルマのベースがダイハツ・コペン(L880K型)であることにさらに衝撃を受けたという。
「えっ! コペンなの!? って感じでしたよ。よくよく読んでいくと、三重県にあるクモイモータースというショップのオリジナルパーツが装着されていることが分かりました」
走り云々よりも、そのデザインに一目惚れしてしまったそうで、映画『007』でジェームス・ボンドが乗っていたアストンマーティンのDB5を思わせる雰囲気に心を打たれたのだそうだ。コペンを購入してから開発者の方と話す機会があったそうだが、社長が007の大ファンだったことが発覚し、やっぱりな…! 自分と同じだと思わずニヤけてしまったと話してくれた。
「初めて007を見たのは、小学生の頃でした。カーチェイスのシーンで、ライトからマシンガンが出てきたり、走行中に撒菱(まきびし)が出てきたり。さらにはホイールから、ウィーンと何かが出てきて敵をやっつけたり(笑)。あっ、あとは運転席がピョーンと飛んでいくというシーンなんかもありましたね。とにかくそれらのギミックがカッコ良くて、大人になったらそんなクルマに乗ってみたいなと思っていたんです」
コペン自体に興味があったわけではないが、子供の頃の夢であった“ボンドカーに乗りたい”という夢を叶えるために、ベース車両としてコペンを購入。早速取り掛かったのは、クモイモータースが販売しているパーツを取り付けることだった。
「一気に精悍な顔付きになるグリル、欧州らしさを演出してくれるリヤバンパー、クラシックな雰囲気を漂わせるフロント&リヤバンパープロテクターと、専用のマフラー。古い英国のエンブレムがモチーフのボンネットバッジ、サイドのアクセントとなるドアノブ。ボンドカーらしさを意識して、敢えてアンバーカラーにしたサイドマーカー。ヨーロッパのレーシングカーを思わせるヘッドカウルとレーシングドアミラー。それと…」と、まだまだ続きそうだった。こだわりと愛着、それぞれに思い入れがある証拠だとも言えるだろう。
「ちょっといいですか? そういうクルマがある日突然、家の駐車場に停まっているわけですよ。びっくりしますでしょう?」
会話にスッと入ってきたのは、奥様である『肥後をとめ』さんだ。ハハハと笑うご主人の側で真剣な面持ちをしていたので、相談無しでコペンを購入したことを怒っているのかと思いきや、話の趣旨はその真逆で、むしろ『このクルマを買って正解だった』ということであった。
「オープンにして見上げれば、綺麗な空や飛行機雲、手が届きそうなほど近くに輝く星が見えます。それと、これからの季節だったら夜桜を“見る”んじゃなくて“体感”できるようになるんです。走ると花吹雪がばっと舞って、そのうちの何枚か車内に入ってきたりするのが私は大好きです。ちなみに、秋ならイチョウ並木がオススメですよ♪ イチョウはハラハラと舞うから、見ていて美しいですし」
肥後をとめさん曰く、これがオープンカーの正しい使い方だという。カスタムに関することはご主人にすべて任せているそうだが、何時でもどこでもオープンにする使い勝手にはこだわっているのだと教えてくれた。
ちなみに、このクルマをよ〜く見ると、ダイハツのキャラクターでお馴染みの“カクカクシカジカ”が隠れているという点もお気に入りのポイントだそうだ。購入して間もなくの頃、ダイハツの店舗に行けば特典として貰えた“カクカクシカジカグッズ”を、カーバッジ風にステンレス加工して飾っているのだ。最近はCMに登場してこないため、何のキャラクターなの? と言われることも増えてしまったそうだが、それでも分かる人に分かれば良いということで、そのままにしているという。
このように、夫婦でこだわり抜いたボンドカーのはずなのに、ここのところ月に3回くらいしか出動していないため、春からは稼働率を上げると意気込んでいた。
「ちなみに、僕が一番気に入っている箇所はね、近所の鈑金屋さんにお願いしてワンオフで作ってもらった、ボンネットとリヤフェンダーなんです」と、唐突にご主人が言った。
冒頭でクモイモータースのパーツを装着したと記していたが、乗っていくうちに、更にボンドカーに近付けたいと感じ、最終的にはオリジナル加工を追加することにしたのだという。ご主人と同じくアストンマーティン・DB5のファンだという人からは「よくぞここまで再現した!」と、お褒めのお言葉を頂くことが多いと自慢気に教えてくれた。
製作するにあたって資料や図面を集めたり、それを元にクレイモデルを自作したり、無い部品は代用品を探したりと、鈑金屋さんに持っていくまでの下準備にすら、かなりの時間を費やしたということだった。
さて、困ったのは鈑金屋さん。仕事はあくまでも“修理”をする鈑金で、例えば穴の空いた部分を埋めたり、凹んでしまったボディを元通りに戻すという作業が主たるもの。“新たに作る”ということは、初めて同然のケースといった状況であった。
「お店の方は、僕がやりたかったことを100%再現してくれました。完成までに10回以上? とにかく、数日置きに足を運んで進捗状況を確認していました。どうしても自分が納得のいくものを作りたかったので、ここのラインをああしてくれ〜こうしてくれだの、事細かにオーダーを入れたんです。お金も時間も掛かってしまったけど、それでも成し遂げたかったんです」
なだらかなラインを強調するために、ボディをどこまで凹ませられるか? サイドマーカーはどのように取り付けるか? など、求められる技術レベルはどんどん高いものになり、担当してくれていた職人さんの尽力なくしては成し得なかったという。そして最後の仕上げに、古い英国車で良く見られるような色を調色してもらって塗装したそうだ。
こうした苦労の積み重ねを経て完成した引き渡しの日、鈑金屋さんは「もう二度と来ないで下さい…」と、冗談混じりに言ったのだとか。
ご主人はハハハと笑っていたが、この1作目となるボンネットに関して、どうも形状に納得がいかずに、なんと2作目を作ってもらったというから、そのこだわり具合には敬服するしかない。
何故ここまで拘るのか? と尋ねると、クルマが好きで、クルマに求めていることが“乗っていて楽しいかどうか”だからだという。便利なモビリティは不要であり、その要素さえ備わっていれば満足なのだと笑っていた。
このクルマは速く走ることよりも、家の側に停めた時の佇まいや、眺めていて自分が満足できるかどうかの方が重要なのだそうだ。
「このコペンは、現状20年前のクルマになるんです。今後の目標としては、50年経っても乗れるようになっていれば良いなと思っているんですよ。そうすると、コイツはクラシックカーのイベントに胸を張って出られるようになるわけです。大小様々なクラシックカーに混ざって、チョコンと紛れていても面白そうでしょ?」
EV車や自動運転の技術の発展など、クルマの大変革期といった風情の昨今、こういった魂が込められたトラッドなカーライフを送っているオーナーさんと会話していると、本来のクルマとは何なのか? を考えさせられた。そしてコペンがクラシックカーとして認識される頃、日本に限らず全世界のクルマ業界はどうなっているのかも興味深い…。そんなインテリジェンスで優雅な時間を共有させて頂いた。
(文: 矢田部明子 / 撮影:平野 陽)
※許可を得て取材を行っています
取材場所:三池炭鉱 万田坑(熊本県荒尾市原万田200-2)
[GAZOO編集部]
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