遠出は嫌いだけど7年間で20万kmを走破! スイフトスポーツはチョイ乗りでも楽しくなれる不思議なクルマ

  • GAZOO愛車取材会の会場である宮崎県林業技術センター/森の科学館で取材したスズキ・スイフトスポーツ(ZC33S型)

    スズキ・スイフトスポーツ(ZC33S型)



クルマに興味を持ちはじめたのは社会人になってからという『ふくいけ』さん。車歴は2気筒エンジンのホンダ・トゥデイに始まり、シティを経た後、スカイラインGTS-tタイプM(HCR32型)。そこから数台は、スポーティなハイパワー車を乗り継いでいくことになる。

「運転免許を取得した頃は、まだ大きなローンを組むことができなかったから、トゥデイは2気筒モデルと、3気筒モデルの2台乗り継ぎました。そこから数年が経ち、パワーのあるクルマに乗りたくなって、スカイラインGTS-tタイプMを購入したんです。それがですね、一度ハイパワーを味わってしまうと“もっと凄いヤツを!”と欲が出てしまって、鬼のようなローン(笑)を組んで、今度はスカイラインGT-R(BNR32)に乗り換えました。タイプMも速かったけど、やっぱりGT-Rは別モノでしたね」

その後も、フェアレディZ ツインターボ(Z32型)や、2.5リッターターボのスカイライン(ECR33型)など、数々のスポーツモデルのほとんどを、車検を迎える前に乗り継いでいったと言う。そんな、ハイパワーカーばかりのカーライフを満喫していたふくいけさんであったが、次第にひとつの疑問を持つようになったという。

「どれも性能はスゴかったけど、自分が普段乗りで使う性能は、きっとその中の一割か二割くらいだったと思うんです。結局はその性能を持て余したまま、短期間でクルマを乗り換えてしまうカーライフ…。自分にはハイパワーのクルマは合ってないのでは? と思うようになったんです」

「そこで、近所にあった国産車の全般を扱う販売店に『昔のシビックみたいに、峠を走らせて楽しいクルマって無いかな?』と相談に行ったんです。すると“あるよ”って紹介されたのがZC31S型のスイフトスポーツでした。正直、その時は『スズキ=軽自動車』というイメージがあったので『いや、シビックのイメージで探してるんですけど…』といったような半信半疑な感情でしたね。それでも“とりあえず乗っといで!”と、キーを渡されたので走りに出ると、距離にして100メートル足らず、お店からひとつ目の信号を超えた時にはもう気に入ってました(笑)」

俊敏なレスポンスのエンジン、FFとは思えない自然な操作フィーリングなど『これだ!!』という思いで、その場で購入を決めたというふくいけさん。これまでのように車検前に飽きてしまうこともなく、所有期間は11年を超え、2011年にニューモデルのZC32S型が発売された際も、ZC31Sへの愛車精神が揺らぐことはなかった。

それから数ヵ月が過ぎ、オドメーターの距離が17万kmに差し掛かった頃。ふくいけさんは30年間住み続けた大阪を離れ、生活の拠点を宮崎へと移すこととなる。

「自分もそろそろいい歳になってきたので、暖かい気候のところに住みたいなと。建築関係の図面を作る仕事なので、基本、インターネット環境さえあれば住む場所はどこでも構わないんです。九州に縁があったワケでもなく、寒さが苦手だったのでとにかく温暖で、渋滞が少ないところが良いなぁと選択肢を絞った結果、宮崎に決めました。それからパソコンなど最小限の荷物をスイフトに積み込んで、住む場所も決めずにフェリーで宮崎に来ました。出発前には、大阪でお世話になった方々に挨拶回りをしましたが『宮崎のどこに引っ越すの?』と聞かれて、まだ決めてませんと答えると『ワイルドやな!』と散々言われました。宮崎に着いてその足で不動産屋さんに行き、住む場所を決めてから3日間ほどはホテル住まいでしたが、4日目からは普通に仕事をリスタートしていましたね」

このように、僅かな試乗で購入を決めたZC31S、温暖なイメージだけで選んだ九州への移住など、何でも思い立ったら即行動という思考の持ち主だったはずのふくいけさん。だが、宮崎での生活を始めて2年ほどの月日が経過しようとしていた頃、その行動力に迷いをもたらす出来事が起こる。その出来事とは、ZC33S型スイフトスポーツの発売だった。

「まだ正式な発表が行なわれる前、カタログすら無い時期に『今日から注文できますよ』という電話がディーラーからありました。スイフトファンの間ではNAエンジンからターボ付きの小排気量エンジンになることへの賛否もあったようですが、私としては、出力が上がって車体を3ナンバー化しながら、車重を1トン以下に抑えたという点だけを見ても、ZC32Sを超えるクルマに仕上がっているだろうという期待の方が大きかったです」

「ただ、ずっと乗り続けて来たZC31Sには本当に愛着があったので、散々迷いました。けれど、ZC32S型は見送ったので、コレ(ZC33S型)に乗っておかないと絶対に後悔するだろうと思い、ZC31Sを泣く泣く手放してオーダーを入れました」

こうして11年間を共にしたZC31Sに別れを告げ、ZC33S型スイフトスポーツを手に入れたふくいけさん。パフォーマンスの高さはある程度予想していたが、実際に走らせた時の印象は想像を遥かに超えるものだった。

さらに『ノーマルでこの完成度ということは、手を加えればもっと良くなるのでは?』と、カスタマイズにも着手。この時、アドバイザー的な役割を果たしたのが、数々のオリジナルパーツを手掛ける福岡県久留米市にある『スズキワークス久留米』であった。

「以前からお名前は知っていましたが、大阪から行くには遠すぎて。九州に移住してから、ようやく訪ねることができました。まずは足まわりに始まり、ブレーキや駆動系、レカロシートの導入などコツコツと手を加え、仕上げにワークス久留米さんのハイフロータイプのタービンに変更しました」

「MAXパワーを求めるよりも、オールラウンド性能を重視した仕様なので、最高出力は180psくらいに留めています。ワークス久留米さんからはサーキット走行会にも誘って頂き、オートポリスやHSR九州を何度か走りました。ZC31Sではサーキットを走ったことがなくて、初めての経験となったのですが、慣熟走行でスピン(笑)。スポーツラジアルはしっかり熱を入れないとグリップしないことを思い知りました。これも良い経験ですネ」

このように、普段の街乗りからサーキットまで、今ではすっかりパートナーとなったZC33Sスイフトスポーツのポテンシャルを存分に満喫中。ZC31Sでは17万kmを走破するまでに11年を要したが、このZC33Sでは、なんと7年間で20万kmを突破している。

豊かな自然の風景が各所に点在し、渋滞の規模も大阪とは比べ物にならないほど軽微な九州だけに、さぞかし週末は遠方まで足を伸ばしているのだろうと思いきや、意外な返事。

「よく行くドライブコースですか? う〜ん、北は日向、南は油津くらいですね(注:いずれも宮崎市中心部から1時間程度の距離感)。遠出が嫌いなんです(笑)。それでもコレを買って5年くらいは月3000kmのペースで走り回って、毎月オイル交換していました。今でも休みの日は5〜6時間くらいは余裕で乗っていますが、気が向いたらいつでも自宅に帰れる範囲。このクルマで県外に出るのは、ワークス久留米さんに行く時と、たまにサーキットに行く時だけですね」

「そもそも景色を眺めるようなドライブはあまりしたこと無いし、グルメ巡りも興味ナシ。途中休憩する時も、コンビニのコーヒーがあれば十分ですよ。まぁ、言ってみればそれくらい運転そのものを楽しいと思わせてくれるクルマってことなんでしょうネ」

走行20万kmともなると、あちこちにヤレが見えても不思議は無いが、普段からのメンテナンスのおかげで、車体周りはもちろん、エンジンルームもピカピカ。この点についても「洗車は嫌いなんです。エンジンルームがキレイなのは、宮崎の空気がキレイだからじゃないですか?」と、常に笑いを取ることを忘れないふくいけさん。
ZC33S型スイフトスポーツとの密度濃い目なカーライフは、まだまだこれからが本番と言えそうだ。

(文: 高橋陽介 / 撮影: 平野 陽)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:宮崎県林業技術センター/森の科学館(宮崎県東臼杵郡美郷町西郷田代1561-1)

[GAZOO編集部]