走るほどに一体感が増すフレンチブルーパールのS660、購入のキッカケは生産終了のニュース
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ホンダ・S660(JW5型)
宮崎県で開催した愛車広場取材会に、ホンダ・S660(JW5型)で参加してくれた『かおる』さん。なんと、長崎市内から5時間以上をかけて、仕事先の同僚まっつんさんを助手席に乗せて走ってきてくれたという。
さっそくこれまでの車歴を伺うと、ホンダ・アクティトラック(HA4型)に始まり、ホンダ・フィット(GK3型)、スバル・インプレッサWRX(GDA型)を経た後、現在のS660に至るという、なかなかバラエティに富んだ顔ぶれだ。
「アクティトラックは、まだ運転免許取り立てだった頃に、農業を営んでいた祖父の形見として譲り受けたものです。見かけによらず高回転まで回せるエンジンが面白くて、結構気に入っていました。僕は農業学校の出身で、周りにも実家が農家という友達も多かったことから、軽トラにはまったく抵抗が無かったんですね」
「けれど、2年くらい経った時、親から『そろそろエアバッグが付いた安全なクルマにしてくれ』と強く言われたので、フィットに乗り換えたんです。別に希望していたワケではなく、市内の中古車店で目を付けていたジムニーがタッチの差で売れてしまったため、やむを得ずの選択でした。だからフツーに足として3年ほど乗った後“クルマが壊れた”という親戚の叔母に渡して、自分は友人から引き取ったインプレッサ(GDA型)に乗り換えました」
このインプレッサは、かおるさんの友人が多忙のため乗らなくなったもので、屋内車庫保管、走行4万5000kmという良好な状態。もともと長距離ドライブが好きなかおるさんだけに、インプレッサが持つ余裕のパワーと4輪駆動がもたらす優れた高速安定性能のおかげで、行動範囲は大幅に拡大したという。
広島や関西方面はもとより、友人に会うために栃木県まで足を伸ばすなど、その後6年間で18万6000kmを走破。常に先回りの予防整備を心掛けていたこともあり、特にトラブルが発生することもなかったそうだ。
ところが『このまましばらくはインプレッサで』と思っていたところに、ネットニュースでS660が間も無く生産を終えるという情報を知り、急にその存在を意識するようになったという。
「S660は前々から好きなクルマのひとつで、発売された当時にディーラーで試乗までしているんです。その時はお金も無くて完全な冷やかしだったけど、それから5年くらいは“良いなぁ”って、心の隅にずっと引きずっていました。この生産終了の話を聞いてからは軽自動車のスポーツモデルに改めて興味を持つようになって、S660の他にコペン、N-ONEのRS、アルトワークスが候補に上がりました。けど、せっかくなら一度くらい、オープンカーに乗ってみようと、最終的にS660とコペンに絞りました。正直、コペンにはかなり惹かれていましたが、友人が先に買ってしまったので“それならカブらない方に”ということで、S660を次の愛車候補に選んだんです」
その後、ネットや雑誌で物件探しを始めたところ、ほどなくして大分県の販売店に在庫されていた生産最終年の2022年モデルを発見。走行は100km程度と、ほとんど新車に近いコンディションであることに加え、フレンチブルーパールというS660の中では少数派のボディカラーもポイントとなり、店頭まで現車確認に出向き即決。長崎市内の買い取り店に持ち込んだインプレッサが走行約19万kmながら、予想外の好条件が得られたことも、S660の購入を後押しする材料となったという。
「最終のα(アルファ)グレード、しかもお店の方の話によると、フレンチブルーパールの6速マニュアル車はとても珍しいそうです。市場ではあまり人気が無い色みたいですが、私はひと目で気に入りました。エンジンパワーはインプレッサの約4分の1、64psになってしまったけど、コーナーでの走行速度やコントロール性は逆に高まったようにも感じられたし、とにかくすべてが楽しかったんです!」
「扱い切れないハイパワーよりも、しっかり踏める64psの方が自分の性格には合っているように思いましたね。S660を走らせていると、なんとなくフィーリング的に昔乗っていたアクティトラックに近いものを感じる時があるんです。アレも一応、アンダーフロアのミッドシップですからネ(笑)」
かおるさんの言葉にもある通り、スペック的には2リッターターボから660ccターボへと、排気量が縮小されたものの、乗り込むほどに得られる一体感、オープンエアの爽快さなどは格別なものであった。
そんな背景もあって、長距離ツーリングに出掛ける回数もインプレッサの頃と大きく変わることはなかった。これまでの最長では大阪まで自走するなど、購入から3年弱で4万3000kmを走破。スタッドレスタイヤが装着されていることからも分かるように、通勤からレジャーまで、季節を問わずほぼ毎日を共にしている。
「遠出する時には、腰部分を支えるクッションが欠かせませんが、ペースさえ守れば長距離走行も楽勝ですヨ。通勤路はちょっとした山を越えたりするので、冬場はスタッドレスタイヤに履き替えるようにしています。S660は前後のタイヤサイズが異なるので、前後でのタイヤローテーションができないのが少々ネックですけど」
「今のタイヤはネットオークションで見つけた、同じS660乗りの方が使っていたものをそのまま付けています。3月を過ぎれば夏タイヤに戻す予定です。ちなみに夏タイヤのホイールはS660の純正。ホイールのデザインを含めてこのままのカタチに惚れ込んだので、これからもノーマル路線を維持していくつもりです」
「今は実家住まいなので、父親もたまにこのS660に乗ることがあるんです。もともとクルマ好きの父親なので、なんだかS660をとっても楽しんでいるみたいです(笑)。カタチも“カッコイイ”って言ってくれていますしね」
2015年の発売当初にディーラーで試乗して以来、およそ8年というブランクを経て、愛車となったS660との生活を満喫中のかおるさん。小物の置き場がほぼゼロということと、ロールトップの前後の取り付け方向を間違えやすいことを除けば、これといった短所は思いつかないという程の熱の入れようだ。
しかし、強いて悩みがあるとすれば『同年代のS660乗りが少ない』ということだとか。
「これは私が住んでいる地域に限った話なのかも知れませんが、割と年配の方が多いような気がします。もちろん、それはそれで良いことなんですが、できれば同年代(30歳前後)のオーナー同士でカスタムやメンテナンスなど、このクルマについてアレコレ話がしたいなぁって。だからもう少し気候が暖かくなったら、インプレッサに乗っていた時によく出掛けていた『おはくま』(おはよう熊本=早朝、熊本某所で行なわれているユーザーミーティング)に行って、S660の仲間を探したいと思っています」
取材を終えた後も、再び待ち構える長崎への5時間の帰路を特に気にする様子も無く「せっかくここまで来たので、ちょっと足を伸ばして、宮崎名物のチキン南蛮のお店を探してみます!」と、笑顔で宮崎市内方向へと去って行ったかおるさん。
長距離をモノともしない、かおるさん自身のタフな持久力もさることながら、S660には“もっと遠くへ”と、ドライバーのマインドを駆り立てる不思議な力が秘められているのかも知れない。
(文: 高橋陽介 / 撮影: 平野 陽)
※許可を得て取材を行っています
取材場所:宮崎県林業技術センター/森の科学館(宮崎県東臼杵郡美郷町西郷田代1561-1)
[GAZOO編集部]
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