『コンパクトな軽量スポーツカーが好き』という趣向に応えてくれる終の一台S660
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ホンダ・S660α(JW5型)
スポーツカーにとって重要な武器と言える『軽量&コンパクト』というパッケージ。日本独自の『軽自動車』という規格の中で磨き上げられたスポーツカーたちは、この軽量&コンパクトというキャラクターを最大限に極めているといっても過言ではなく、25年ルールによって輸出解禁されたアメリカを中心に、中古並行輸入車として軽自動車規格が存在しない海外でも高い評価を得ている。
そんな軽スポーツの中でも一際高い人気を誇るホンダ・S660α(JW5型)を愛車として選んだのが『いと』さんだ。
NSXやS2000、タイプRシリーズなど、数々のピュアスポーツマシンを世に送り出しているホンダ。そのスピリッツを受け継ぎ、平成の名車『ビート』を思い起こす軽スポーツとして、2015年に発売したモデルがS660だ。
ビート同様、リヤミッドにエンジンを搭載した2シーターオープンというパッケージングは、ビートファンも納得する『ハンドリングマシン』の進化版として高い人気を集め、S660デビュー時には、長くビートに乗り続けていた人が乗り換えたという話を聞くことも多かった。
そんなS660を発売と同時に購入したといういとさん。その思い入れは深く、大切に乗り続けているという。
「昔、ビートに乗っていたことがあるんですよ。結婚して1周年の旅行をした際に、旅先で見かけたビートにひと目惚れして、そのままディーラーに行っちゃいました。でも、契約したタイミングで妻は妊娠していたので、子供が生まれるまでの9カ月しか乗ることができずに手放してしまったんです。だからビートはずっと心の隅に引っかかっていて、S660が発売されると聞いた時は心が踊りましたね。もちろん、家庭のことを考えると購入は難しいかなと当初は考えていました。しかし、妻から『手放すとまた欲しくなるだろうから、ずっと乗るのであれば買っていいよ』と言われたことを機会に、ディーラーへと契約に向かいました」
限られた軽自動車枠に納められた2シーターは、他にも現行モデルではダイハツ・コペン、販売終了車ではスズキ・カプチーノ、マツダ・オートザムAZ-1といったモデルが存在している。
特に『平成のABC』と括られるAZ-1、ビート、カプチーノの3車種は、現在でも熱心なオーナーによって乗り続けられると同時に、新たなオーナーも誕生しているほど人気が高い。だからこそ、新車で乗れるビートの後継車としてS660がいとさんの琴線に触れてしまったことは間違いないだろう。
NAであるE07Aエンジンを搭載したビートとの違いは、ターボチャージャーを組み合わせたS07Aエンジンを搭載していること。最高出力こそE07Aと変わらない64psに絞られているが、最大トルクを4kgmほどアップすることで、街乗りでの扱いやすさは格段にアップしている。ちなみにこのエンジンはN-BOXをはじめとした同世代の軽自動車にも搭載されているが、S660に採用されたのはその改良モデルで、スポーツカー的な味付けが施されている。
同時に、組み合わせるミッションも当時の軽自動車としては初となる6速MTを採用することで、ユーザーの期待に応えるパッケージングを完成させている。
このS660で新開発となったミッションは、クロスレシオに設定されたギヤ比によって、軽快感と操る楽しさを満喫できる仕様となっているのもいとさんのお気に入りポイントだ。
「S660はシフトのストロークが短く、さらにミッションギヤのステップ比もクロス化されているので、シフトチェンジでの繋がりが気持ち良いんですよ。クラッチの切れも良くて、昔と比べると格段に進化したマニュアルミッションを実感できますね。休日にワインディングを走らせる程度ですが、このシフトフィーリングは10年乗り続けても飽きません」
「このS660では、若い頃にビートで楽しみたかったカスタマイズを、今楽しんでいる感じです。特にコンピュータは、ターボのブースト圧をアップすることで、トルクも上がって乗りやすさも向上したのでS660の満足度はさらに高まりましたよ。他にも、モデューロのアクティブスポイラーは夏場の排熱効果もあって、見た目以上の機能性に惚れています。若い頃はお金も持っていなかったので、ここまで色々なパーツを試してみることはできなかったですからね」
走らせて楽しむハンドリングマシンとして、いとさんは『走りに直結する部分には妥協しない』と言うコンセプトを持っている。
今のところエアロパーツ類には関心は示さず、足まわりや吸排気系、さらにコンピュータチューンなど、日常的な速度域でもパフォーマンスアップを体感し易いカスタマイズが中心に行なわれているようだ。
機能系を中心にカスタマイズを進めているため、タイヤも信頼の国産ハイグリップを装着。インチアップなどは行なわず、純正の指定サイズのままというのもこだわりのひとつ。また、サスペンションは社外品に交換され、ワインディングでの走行安定性を高めているのもポイントだ。
「今日の取材会場は、自分もはじめて訪れるエリアということもあって、ツーリングルートとしても楽しめました。所々、路面の状態が良くなかったこともありましたが、気持ちの良い走りを楽しめた取材会として、最高のロケーションでしたね」
ちなみに、いとさんはビートを手放した後、お子さんが保育園に上がったタイミングで一時期カプチーノも所有していたという。しかし、こちらもわずかな期間で手放してしまうこととなり、軽スポーツには大いに未練が残っていたという。だからこそ、S660購入時の奥さんのひと言『手放すと〜』に繋がるというわけだ。
「やはり2シーターのカプチーノは色々と無理があったので、子供が小学校に入学した時に、ファミリーカーとしてステップワゴンに乗り換えました。ビートに次いで心残りになっていたんですが、元来コンパクトなスポーツカーが好きだったので、余裕ができてきたところで、スイフトスポーツやフィットといったコンパクトカーも手に入れてみました。でも、軽スポーツの魅力に勝るものはなかったんですよね。何台か乗り換えていたからこそ、妻もS660なら! と賛同してくれたのかもしれません」
契約のタイミングは発表された直後のため、初期購入者限定のノベルティグッズがプレゼントされたのだそうだ。クリスタルの中にS660が3Dレーザー彫刻されたものやカタログ、さらにこのクリスタルを製作した『ホンダ太陽』からのメッセージなどは、今も大切に保管されている。
ビートは全幌のオープンカーだったが、S660は天井部分がロールスクリーンとなるタルガトップを採用しているのが特徴。そのため開放感で言えばビートの方が圧倒的に優っているとも言える。しかし、いとさんにとってはこの違いは大きな問題ではないという。むしろ、カプチーノと比べるとトップの脱着が容易になっているため、気軽にオープンエアを楽しめるように感じているのだとか。
「現在はS660の他に、カローラクロスも所有しているので、ウィークデーに乗る機会は減りましたね。カローラクロスを購入する前にはGRヤリスを所有していたのですが、これも運転が楽しいクルマで、GRヤリスが通勤のメイン車になっていましたね」
もともと普段の通勤にも使用していたが、最近は週末のツーリングなど、気分をリフレッシュしたい時に乗るのが楽しみになってきているご様子で、購入から10年で走行距離は5万6000kmほどだ。
若い頃に諦めざるを得なかった軽スポーツを、10年に渡って満喫しているいとさん。そのカーライフは、思い描いていた楽しみを十分に満足させてくれてはいるが、唯一不満な点がドリンクホルダーだそう。
S660オーナーのほとんどが口を揃えるほど使い勝手が…というだけに、ネットでも多くの解消方法が提示されている。その中からロードバイク(自転車)用のドリンクホルダーをコンソールサイドに設置することで無事に解決しているのだ。
S660はノーマルの状態からスタートして、徐々にステップアップでカスタマイズも楽しんでいるいとさん。
吸排気系やブーストアップ、足まわりや補強系といったパーツの効果もその都度体感してきている。その楽しみをさらに高めるため、今後はブレーキ周りのアップデートも検討中。さらに走りを楽しめるS660へと進化させていくのが現在の目標となっている。
「契約した時からずっと乗り続けるって決めていましたので、たぶんこのS660は終いのクルマになると思いますよ。だからこそ、少しでも自分が楽しめる、納得できるクルマへとカスタマイズしていきたいですね。ビートを手に入れた時にやりたかったことをなぞるのはもちろん、時代が進化した今だからできることも色々あるじゃないですか。昔を懐かしむだけじゃなく、今を楽しむために、今後もS660を満喫していきますよ」
志半ばでビートを手放してしまったことで膨れ上がっていた軽スポーツへの欲求を、ようやく満たしてくれたS660。その所有期間は、歴代の愛車の中でもダントツに長い10年を数えているという。還暦を過ぎたとはいうものの、まだまだS660を楽しみ尽くしてはいないいとさんのカーライフは、軽スポーツに焦がれた20年のブランクを埋める勢いで、さらに濃密に続いていくことだろう。
(文: 渡辺大輔 / 撮影: 西野キヨシ)
※許可を得て取材を行っています
取材場所:宮崎県林業技術センター/森の科学館(宮崎県東臼杵郡美郷町西郷田代1561-1)
[GAZOO編集部]
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