スカイラインGT-R(BNR32型)を600ps仕様に仕上げたオーナーが、GRヤリスにハマった理由とは?

  • GAZOO愛車取材会の会場である倉敷スポーツ公園で取材したトヨタ・GRヤリス(GXPA16)

    トヨタ・GRヤリス(GXPA16)


日産・スカイラインGT-R(BNR32型)にハードなチューニングを施して楽しむほど、速いクルマが好きだったオーナーが、現在ハマっているクルマがある。2020年に発売を開始したトヨタGRヤリス(GXPA16)である。

600ps近かったというかつての愛車R32 GT-Rと比べれば、GRヤリスをカスタマイズしたとしても、その戦闘力はそう簡単に太刀打ちできるものではない。にも関わらず、R32 GT-Rとはまた違った、異質的な速さを持つこのGRヤリスに乗るのが楽しくて仕方がないと言う。

速いクルマが好きというオーナーなのに、速いとは言え、なぜ600psの約半分となるパワーのGRヤリスを選んだのか? GRヤリスのどんなところに魅力を感じて楽しんでいるのか? そんな感性を覗かせて頂こう。

このGRヤリスのオーナーは岡山県在住の『大ちゃん』さん(以下、大ちゃん)。子供の頃からラジコンが大好きなクルマ好き少年で、これまでもAE92やAE86、ヴィヴィオ、イプサム、レガシィ、ジムニー、スープラと、いろいろなクルマを時にはカスタムを楽しみつつ乗り継いできたそうだ。
そんな大ちゃんが、このGRヤリスの前に乗っていたのはR32 GT-Rだった。

「スカイラインGT-Rを買ったのは12、3年前です。子供も大きくなって、嫁さんから『好きなクルマ買うてええよ』と言われて『それならGT-Rを買うしかないやろ』って、ノーマルのR32 GT-Rを買ったんです。最初はそのまま乗っていたんやけど、壊れるたびに純正パーツで直すのも芸がないでしょ。それに純正パーツの価格が高騰していたから、社外パーツの方が安かったりもして。ネットオークションで中古の社外パーツを買っては直し、速さを求めてイジっていたんです。で、気づけば600psのフルカスタム状態になったんですわ。わはは!」
そう豪快に笑い飛ばした。

そんな大ちゃんの興味を引いたのが、2020年の東京オートサロンで発表されたGRヤリスであった。

「トヨタから、WRCのホモロゲーションを獲得する為に特別なヤリスが発売されるというじゃないですか。しかも、6速マニュアルでターボの4WD。もう、それだけで面白そうだし、しかも商談をするのに、事前申し込みの予約で10万円払わなあかんと聞いて『普通、こんな売り方するクルマないよな?』と思って…早速その日のうちに申し込みをしちゃいました」

GRヤリスの先行予約は2020年の6月末で締め切られ、7月1日から順番に商談が開始されたというが、大ちゃんも7月3日か4日に早速商談をすることに。向かった先は幼馴染の同級生がサービスフロントとして勤めているトヨペットであった。

「同級生には『もちろん一番高いのを買うんじゃろ。買うんなら、全部付けとけ』と勧められて、はいはい、わかった。ならフルオプションでってな感じで、細かいことは何も見ないまま購入したんですよ(笑)」

先行予約の特別仕様車には『RZファーストエディション』と、そこにマットブラックのBBS鍛造アルミホイールが追加された『RZハイパフォーマンス ファーストエディション』の2種類があった。大ちゃんが購入したのは当然『RZハイパフォーマンス ファーストエディション』だ。そこに予防安全パッケージやフロントシート&ステアリングヒーター、寒冷地仕様などのフルオプションを追加したことで、550万円ほどにもなったという。

「そこにエアロを巻いて15、6万追加したから、最終的には600万円近くになりましたね。ただ、ファーストエディションだけが選べるオプションの“カーボンルーフ”だけは結構悩んだんですわ。元々カーボンルーフだったものをマット塗装するから、手間も時間もかかる上に、16万も掛かる言うんですから! 1mmも速くならんのに、こんなんやる必要あるんか? って。けど、ファーストエディションだけの特権だからと付けてもらいました(笑)。ただ、鳥の糞がつくと後処理が色々面倒やし…。で、グロスのプロテクションフィルムを貼ったら、結局トゥルントゥルンになっちゃいましたね(大笑)」

こうしてちょっとだけ悩みつつも、最終的にはフルオプションの特別仕様車を手に入れた大ちゃん。すでに50歳を過ぎていたこともあり「マフラーをボーボー言わす時代は終わったで。だからノーマルで乗らんといけんじゃろ」と、思っていたという。

しかし、スポーツカーの発売直後は、各アフターパーツメーカーが威信を賭けて開発してくる、魅力的なチューニングパーツが続々と発売されるホットな時期でもある。もともとクルマをカスタマイズすることが大好きだった大ちゃんの『カスタムしたい病』が再発するのにそう時間は掛からなかった…という流れは、ここまで読んで頂いた読者さんなら既にお察しの通りである。

「実際にGRヤリスに乗ってみたら、めちゃくちゃ面白かった! そんなところに、各メーカーがGRヤリス用のカスタムパーツをどんどん出してくるんですから、そりゃあ楽しくもなりますよ。イジらんつもりやったけど、結局買ってすぐにイジりはじめちゃいましたね。年末までにタイヤとホイールを変えて、正月休みに入るまでに車高調整式サスペンションを入れました。あとHKS製のパワーエディターも発売されてすぐに買いましたね」

そんな大ちゃんのGRヤリスに対するカスタムパーツ選びの基準は、ただ性能の良い高価なものだけを選ぶというわけではない、というのもポイントだ。

物によってはご自身の好みのパーツを安く手に入れるために、ネットショッピングやネットオークション等の通販を積極的に活用して、自分なりのカスタムを楽しむというスタイルが基本なのだ。

「スムーズなシフトチェンジをアシストしてくれる『iMT』が自動でONになる機能や、アイドリングストップの自動OFF機能は、ネット通販で見つけて、便利そうやなと思うて購入しました。マフラーに関しては、走行会に行った時に他の人に運転しもらって、自分のクルマの音を外から確認したら、吸気音しか聴こえんかったんや。それでステンレス製でデザインがカッコ良くて、出口はチタンの焼き色がついたマフラーを、ネット通販のポイント還元が高い日を狙って買いました!」

そんな大ちゃんのカスタムの楽しみ方を象徴しているポイントのひとつが、ボンネットに貼ってあるエアダクトのダミーシールかもしれない。
「ヤバそうな匂いを醸し出しながら、遊びながらイジるから良いんですよ」と、いたずらっ子のような表情を浮かべ、楽しそうに話してくれた。

大ちゃんによると、まだまだGRヤリスのカスタムは途中だが、現時点では350~400psくらいなのだそう。それでも十分な戦闘力だが、600psはあるという元愛車のR32 GT-Rと比べれば馬力は半分ちょっとだ。だからこそ大ちゃんはGRヤリスについて「なんでこんなに速いの? と、ずっと疑問に思いよった」と話す。それくらい、彼は数値以上の速さをGRヤリスから感じ取っていたのだ。

「ワシとしては、R32 GT-Rの6気筒から3気筒になって、馬力も600から300くらいで戦闘力が半分になったクルマを買ったつもりやったんです。それなのに、このクルマはなぜか速いんですよ。電子制御のことはようわからんけど、曲がりたい時に自分が思うように曲がってくれるし、怖くないから運転が上手になったような感じがする。サーキットもこのクルマで1、2回走ったんですけどかなり楽しかったですね。ワシのR32 GT-Rのように、危険な加速はしないし、走っていて気持ちがイイんですわ。ボディ剛性もR32 GT-Rとは全然違ってガチガチやし、ワインディングやったらGRヤリスの方がR32 GT-Rより速いと思う。動かしやすいから街乗りも楽しいんですよ」

こうして実馬力以上に速く感じて、乗って楽しい。そしてカスタムも楽しめる進化した4WDスポーツカー、GRヤリスにすっかりハマってしまった大ちゃんは、約1年前に手塩にかけて作り上げたR32 GT-Rを手放した。

「従兄弟の旦那さんが中古車屋さんをオープンする言うんで『500万くらいやったら売ってええで』と冗談半分で言ったら、すぐに売れてしもうたんや。いつかは売ろうとは思いよったけど、こんなに早く売れてしまうとは…(苦笑)。まあ、この楽しいGRヤリスもあるし、ええかと思って」

ちなみに、R32 GT-Rを売ったお金で、古いジムニー2台と、ツインを1台購入。これらはトータルで100万円もしなかったのだとか。そしてGRヤリスの他には、稼働率の高いハイゼットジャンボが控え、これらをローテーションさせながらカーライフを楽しんでいるという。
GRヤリスをはじめとするそれらの愛車で、GAZOOのラリー競技『ラリチャレ』などのモータースポーツ会場へと足を運び、応援を楽しむことも多いそうだ。

「まだまだやりたいことはいっぱいあるんや。タービンやメタルキャタライザー、インタークーラーも換えておきたい。ボンネットも換えたいけど、外すと邪魔になるんよ。外装をノーマルで残すならこのくらいで止めておいた方がいいと葛藤している感じやな。それと、チャレンジしてみたいのは最高速の記録会かな。機会があればこのクルマで真っ直ぐなホームストレートを全開で走ってみたいね」

かつては速さを求めてR32 GT-Rをフルチューンした大ちゃん。これからは、運転の新たな楽しさを教えてくれたGRヤリスで、カーライフをさらに満喫していくことだろう。

(文: 西本尚恵 / 撮影: 清水良太郎)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:倉敷スポーツ公園(岡山県倉敷市中庄3250-1)

[GAZOO編集部]