乗り始めた時は「嫌い」だったトヨタ スターレットSiが、徐々に好きになっていった理由
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トヨタ・スターレット(KP61)
トヨタのエントリーカーとして、多くの人に愛されたスターレット。その名が初めて冠されたのは、1973年4月のこと。当初はパブリカのスポーティグレードとして、パブリカスターレットと命名されていが、半年後となる1973年10月には、パブリカを外したスターレットに改名し、車両名としてのスターレットの歴史が始まった。
1978年に、初めてのフルモデルチェンジが行なわれ、初代がファストバッククーペというスタイリングを採用していたのに対して、2代目は2ボックスのハッチバックを採用。ファストバッククーぺという、スポーティなスタイリングが特徴だった初代から大きくスタイリング、そしてイメージを変更する。
2代目スターレット(KP61型)の登場に合わせ、パブリカの乗用モデルが廃止されたことで、スターレットがトヨタのベーシックカーの役割も担うようになった。
よって初代スターレットは、パブリカから派生したスポーティモデルに相応しい攻めたスタイリングを採用していたが、二代目に求められたのは、スポーティ感よりもむしろベーシックカーらしさであったのだろう。
1974年にフォルクスワーゲンが初代ゴルフをデビューさせてから、2ボックススタイルが流行し、欧州車や日本車の多くが採用するようになる。二代目スターレットも、当然、その流行りを意識したと推察される。
ただし、2代目スターレットは、他の2ボックスカーと異なる部分があった。それは駆動方式。流行のきっかけとなった初代ゴルフを筆頭に、2ボックスカーの多くはFF(フロントエンジン、フロントドライブ)を採用している。これはコンパクトなボディサイズの中で、可能な限り室内容積を大きくするという2ボックススタイルの意義を考えれば当然のこと。エンジンや駆動系をフロントに集約できるFFレイアウトの方が、当然室内空間が広くできるからだ。
対して2代目スターレットは、当時としてはコンサバティブなFR(フロントエンジン、リヤドライブ)を採用。室内容積という点では当然ながら不利となるが、まだまだ発展途上にあったFFという駆動方式を採用しないところが、堅実なトヨタというメーカーらしいところだろう。
駆動方式だけではなく、エンジンについても2代目スターレットは保守的で、小型車のエンジンはSOHCが一般的となっていた1970年代後半であったが、2代目スターレットに搭載されたエンジンはOHVで1.3ℓの4K型となる。
このように書くと、2代目スターレットは古臭い乗り味のように思われてしまうかもしれないが、そんなことはなかった。キビキビとした小気味良く走る2代目スターレットは、ベーシックモデルとしてはもちろん、走りを楽しむクルマ好きからも高評価を得ることになったのだ。
そんな2代目スターレットに、30年以上も乗り続けているというのが『ななパパ』さんだ。
年式は1983年式でグレードはSi。ちなみに2代目スターレットは2度のビッグマイナーチェンジが行なわれているので、前/中/後期の3期に分類できるので、ななパパさんのスターレットは後期モデルとなる。グレードとなる『Si』は、スポーツグレードとなるSのEFI(電子制御燃料噴射方式・Electric Fuel Injection)仕様に冠されたもの。2代目スターレット、中期型までの燃料供給はキャブレターであったが、1982年にEFIが設定され、Siというグレードが誕生したのだ。
ななパパさんによると、「Si登場時は、キャブのSよりも速いというふれ込みだったんですが、実際にはSの方が速くて、走り好きからは敬遠されたグレードなんです」という。
当時から走り好きだったというななパパさんが、なぜそんな2代目スターレットのSiを手に入れたのだろうか?
「このKPに乗る前は、ランサーターボに乗っていたんですが壊してしまって、とりあえずってことで予算10万円で探してもらったんです。その時に、たまたま出てきたのがこのKPだったんですよ」
ちなみに“KP”というのは、2代目スターレットの通称。型式がKP61なので、当時からKPと呼ぶクルマ好きが多かった。初代のスターレットの1.2リッターモデルもKP47ではあるが、こちらはその区別化をするためか、“ヨンナナ”と呼ばれているケースが多い。
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(写真:ご本人提供の写真を撮影)
「本当はランタボがめっちゃ好きで、今でも好きなんですけどね(笑)。それもあって乗り始めた直後は、KPがめっちゃ嫌いでした(笑)。ランタボと比べると、まったく走らないんで。だからKPは、あくまでも繋ぎで、次の車検が来たら乗り換えるつもりだったんです」
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(写真:ご本人提供の写真を撮影)
嫌いが先行した状態で乗り始めた2代目スターレットだが「乗っているうちに、だんだん『なんだかカワイイなぁ』と思えるようにもなってきたんです」と、心境が変化していったという。
「KPならではの魅力に気づき始めたんですよ。軽くてFRって、KPだけの魅力なんですよ。車重が700kg台のFRのクルマって、当時でもほとんどありませんでしたからね。パワーが無いから遅いんだけど、運転すると面白いって思えるようになってきたんです」
スターレットは、モータースポーツ界でも活躍したモデルである。それだけに2K型、3K型エンジンを搭載していた初代以上に、2代目に搭載された4K型エンジンは、いわゆるエンジンチューニングパーツも豊富であった。パワー不足を感じていたななパパさんも、当然エンジンのチューニングを考えたはずだ。
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(写真:ご本人提供の写真を撮影)
「最初に考えたのは、思い切ってAE86に搭載されていた4A-Gエンジンへの載せ換えだったんです。1990年代の後半でしたね。作業してくれるショップを探したんですけど見つからなくて断念しましたけど…。その時に改造費用として貯めていたお金で、2代目RX-7のカブリオレ(FC3C型)を買って、KPは、その後しばらく寝かせることになったんです」
ななパパさんは、現在でもRX-7を所有しているそうで、キャラクターの異なる2台を楽しんでいる。スターレットは8年間眠らせた後に再び乗りたくなり公道復帰させたそうで、いざ乗り始めると、再びチューニングしたい気持ちも再燃しはじめたというが…。
「ネットオークションで、チューニング済みのエンジンを見つけたんです。それを落札してKPに載せました」
2代目スターレットは、ソレックス製などのツインチョーク・キャブレターへの交換が定番のカスタマイズとなるが、ななパパさんは「エンジンは載せ換えましたが、燃料供給はEFIをキープしたんです」という。これはSiという車両が、実はとても希少だからだったようだ。
「乗り始めてから、現在に至るまでSiの実車を、自分のクルマ以外で見たことがないんです。今、所属しているKP61保存会というグループの中には、同じ4K-EUを積む豪華仕様のSE-EFIに乗っている方がいるのですが、Siは本当に見たことがないんですよ」
「インジェクターをAE86用のものに換えて、ECUは4K-EU用をそのまま使って乗っていました。けど、肝心のコンピュータが4K-EU用なので、エンジン回転リミッターが6000回転で入ってしまい、チューニングエンジンならではの高回転域は楽しめなかったんです。それでもAE86と同じぐらいの速さになったし、サーキット走行会に参加したりして走りは存分に楽しめましたが、2年ぐらいでガスケットが抜けてしまったんです」
ヘッドガスケットをDIYで交換したそうだが、再びヘッドガスケット抜けに見舞われ、その時にはシリンダーやピストンにもダメージがあり、保存していたノーマルエンジンに戻すことになったそうだ。
「KP仲間に手伝ってもらって、DIYでエンジンを載せ替えたのが2012年。それからエンジンはノーマルのままです。このKP61を手に入れた時が走行距離9万kmくらいで、現在のメーターは23万km超。チューニングエンジンを積んでいた距離を差し引いても、このノーマル4K-EUエンジンは、前オーナーの走行も含めて20万km以上走っているのですが、まだまだ快調ですね」
乗り始めた当初は、その非力さに不満を感じていたが、現在では、そんなノーマル4K-EUエンジンでも不満はないようだ。これはななパパさんの楽しみ方や、旧車を取り巻く環境の変化によるものなかもしれない。
「リヤデフにはLSDを組んでいるのですが、ディスクプレートなど、オーバーホールに必要な部品が今では部品供給されてないんです」とおっしゃるように、チューニングエンジンを載せ替えてサーキット走行を楽しんでいた時代と現在では、部品供給環境がまったく変わってしまったようなのだ。
「予備ボンネットや予備フェンダーなど、外装はバンパーとドア以外、ほぼ全部。それから予備エンジン、予備ミッションなど、自宅の一部屋埋まるぐらいストックしています」と、これからも乗り続けるために、自己防衛が不可欠になっているそうだ。
それと同時に、そんな状況下では気軽にサーキットで“限界走行を楽しむといった走らせ方は、なかなか難しいと言えるだろう。
「ここ最近、10年ぐらい前からは、KPやRX-7でキャンプを楽しんでいます。嫁さんと共に愛犬を連れて、大自然の中でキャンプするのが楽しいんですよ。キャンプ場では場違いなクルマなので、キャンプ道具を降ろすと驚かれますよね。キャンプ場までの道中、ワインディングを軽く流すくらいでも、KPらしさは十分に味わえますしね」
今ではそういった乗り方、楽しみ方がななパパさんには心地良いようだ。そんな2代目スターレットを、ななパパさんは「免許返納まで大切に乗り続けていきたい」と、愛情たっぷりの笑顔で答えて下さった。
(文: 坪内英樹 / 撮影: 稲田浩章)
※許可を得て取材を行っています
取材場所:ジーライオンミュージアム&赤レンガ倉庫横広場 (大阪府大阪市港区海岸通2-6)
[GAZOO編集部]
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