車中泊で旅と天体観測を楽しむオーナーだけが知っている、セリカコンバーチブルの唯一無二の魅力

  • GAZOO愛車取材会の会場であるジーライオンミュージアムで取材したトヨタ・4代目セリカコンバーチブル

    トヨタ・4代目セリカコンバーチブル



1970年に初代がデビューしたセリカは、トヨタのスポーティモデルとして、日本国内だけでなく輸出された世界各国でも人気を博し、7代目まで30年以上に渡って生産されたモデルだ。
そんなセリカの歴代モデルを大別するとするならば、初代〜3代目と4代目〜7代目に分けられるのではなかろうか?

初代から3代目までは、エンジンをフロントに配しリヤホイールを駆動するいわゆるFRであり、4代目以降はフロントエンジン・フロントドライブのFFとなる。4〜6代目に関しては、トップグレードにフルタイム4WDの設定もあったが、これらはFFがベースとなっているのは、クルマ好きのみなさんにとっては常識であるはずだ。

何が言いたいのかといえば、ここでの主役となる4代目セリカは、長い歴史を誇るセリカの中でも、初代同様に画期的な代であるということ。FF化に伴ってシャーシもエンジンも、ブランニューとなっているのである。

シャーシは、前後共にストラットを採用。エンジンは、フルタイム4WDのGT-FOURに搭載される2ℓDOHCターボを頂点に、2ℓ、1.8ℓ、1.6ℓのNAエンジンを用意。1.6ℓモデルは、4A-GEエンジンを搭載していたので、3代目と同様になるが、それ以外はセリカにとって初採用のエンジンばかりとなる。主力となったのは2ℓの3S型で、ターボの3S-GTとNAの3S-GE、3S-FEの3つのエンジンが選べた。

ちなみに、3S-FEはハイメカツインカムと名付けられた、DOHC4バルブが組み合わせた実用域重視のエンジン。1980年代は、DOHC4バルブというメカニズムが高回転型の高性能エンジンのためのものという認識が一般的だった。しかし、その燃焼効率の高さは実用域重視のエンジンにとっても有用であり、トヨタがいち早く実用域重視型のエンジンに採用し、それまでの高回転型高性能タイプのDOHCと区別するための、ハイメカツインカムと名付けたのだ。

余談ながら、このハイメカツインカムがきっかけとなり、各自動車メーカーもDOHC化を進め、現在では、ほぼ全てのガソリンエンジンのシリンダーヘッドがDOHCとなったのだ。

話を4代目セリカに戻そう。3代目までのセリカのクローズドボディは、2ドアクーペとリフトバック(ハッチバック)の2種が用意されていたが、4代目からはハッチバッククーペのみとなった。ここで“クローズドボディ”と表記したのは、実は3代目のセリカでもオープンボディは存在していたが、市販されたのは9台のみという超希少モデルであったから。そして4代目には、モデルチェンジしてから2年が経過した1987年に、オープンモデルとなるコンバーチブルが追加された。

ちなみに、3代目から加わったコンバーチブルは、アメリカのASC社が架装を行なうという生産方式を採用。つまり、日本からベースとなるクローズドボディのセリカを輸出し、それをASC社で架装しセリカコンバーチブルに仕立て上げたものを、日本に逆輸入し、販売していたというわけ。この生産方式は、6代目のT200系セリカまで続いたという。

ここにご登場いただく4代目セリカのコンバーチブルのオーナーである『SETI-TERA』さんは、これまでのクルマ人生で、ハッチバッククーペのST162とコンバーチブルのST162Cの両方を愛車にしたという経歴の持ち主だ。

「1988年から5年ほど、ST162セリカのGTに乗っていました」というSETI-TERAさん。そのニックネームからお気づきの方もいるかもしれないが、宇宙や天体が大好き。ちなみに『SETI』というのは“Search for Extra Terrestrial Intelligence(地球外知的生命体の探索)”の略で、宇宙空間から地球に届く電波を解析して、宇宙外生命体を見つけようという、世界的なプロジェクトのことだそうで、SETI-TERAさんもその参加者。若い頃から、時間が許せば3日〜1週間程度の旅を、その時に乗っていた愛車と共にしてきたという。

「仕事も引退して、時間もできたので、今までに乗ってきたクルマの中でもう一度乗りたいクルマは何か考えた時に頭に浮かんだのが、ST162セリカだったんです。そして、どうせセリカに乗るなら車内から星が見たかったので、同じST162でもルーフを開けられるコンバーチブルを選びました」

そういった思いで、今から7年前に、1989年式のセリカコンバーチブル(ST162C)を手に入れたそうだ。

ちなみにSETI-TERAさんはこれまでに10数台のクルマに乗ってきたという。
「私の旅は、愛車で自走して目的地へ行き、車中泊が基本なんです」とおっしゃるだけに、選んだクルマの多くは“車中泊が可能”という条件を満たしたものだったという。だが、ST162セリカで車中泊が可能なのか? それをSETI-TERAさんに伺ってみた。

「セリカはなかなかよくできていて、リヤシートを倒すだけで160〜170cm、フロントのシートを前方にスライドさせてやれば190cmの長さの空間が作れるんです。だからしっかりと身体を伸ばして、車内で寝ることができるんです」

しかも、なんとST162Cセリカコンバーチブルでも同じことができるそうだ。北海道へ行った時の写真を見せていただくと、確かにセリカコンバーチブルの車内にキャンプ用のマットがしっかりと収まっているのだ。

『シートから星を見ることができる』という理由でコンバーチブルを選んだのも、天体好きのSETI-TERAさんならでは。

「今手に入る、国産のオープンカーのほとんどは2シーター。2シーターだと、屋根が開けられても、シートをリクライニングできないので、星の観察には不向きなんです」とおっしゃられていた。

ドライブに行った先で、日が暮れて、クルマを停めて頭上を見上げると、満天の星空が! なんていうのも、一般的なオーナーにとってのオープンカーの魅力となるが、SETI-TERAさんのような天体好きとっては、不十分。

「じっくりと星を観察するには、シートがリクライニングしてくれないとダメなんです。セリカコンバーチブルは、完全にシートが倒れてくれるので、じっくり星を見られるんですよ」

このようにSETI-TERAさんは、セリカコンバーチブルと共に、北海道から、JAXAの宇宙センターがある種子島まで、日本全国を車中泊で旅をしているそうだが、1989年生まれの旧車であれば、トラブルなどに見舞われたことはなかったのだろうか?
「故障はたくさんありますよ。もう数えきれないぐらい…」と、やはりなお答えが返ってきた。

一般論で言えば、故障しないクルマに乗り換えるのが賢明。しかしフロントシートがフルリクライニングする4人乗りのオープンカーで、車中泊もできるクルマは他には思いつかない。SETI-TERAさんにとっては、まさに唯一無二のクルマとなるセリカコンバーチブルなのだ。

  • (写真提供:ご本人さま)

「いつまでかは分かりませんが、免許を返納するまでセリカと旅に行けるように、可能な限りメンテナンスしてやりました」
幸いにもセリカコンバーチブルのメンテナンスを行ってくれる整備工場があったそうで、エンジンのオーバーホールや冷却水まわりのリフレッシュなどを行なったそうだ。

「3S-FEという、かなりの数が出回ったエンジンだったので、部品供給もまだ大丈夫だろうと思ってましが、必要となる部品が揃わず、オーバーホールが終わるまでに1年掛かりましたね」と、メンテナンス時のご苦労を語ってくださった。しかしその甲斐あって、現在はエンジンなどの機関部に関しては好調を保っている。

機関部以外にも、コンバーチブルだけに、ルーフまわりのトラブルにも当然見舞われている。「電動というか、実際の作動は油圧なんですけど、そのシリンダーが壊れてしまったので、自分で部品をアメリカから取り寄せて修理しました」

オープンカーへの架装を行なったASC社では、まったく同じ部品ではないものの、流用可能な部品はあったそうで、それを取り寄せてご自身で加工し、装着したそうだ。

「幌(ホロ)は、業者さんに依頼して張り替えてもらっています。元は黒だったのですが、大人しめだけど、オリジナリティの出せるベージュにしてもらいました」
幌を張り替え、作動部分にも手を入れていれば、ルーフまわりのトラブルは解消しているのかと思いきや、そうでもないという。

「サイドウインドウの上から雨漏りするんです。ホロが新しくなっても、ウェザーストリップは古いままなので、ガラスとの密着度が足りないんでしょうね。停まっている時よりも、走行中にサイドウインドウに付着した雨粒が、走行風で巻き込んで車内に入ってくるんです」
雨天の日は、仮眠している間に徐々に雨漏りしてくるそうで、キャビンの部分を覆ってくれる、ハーフタイプのボディカバーを被せてしのいでいるそうだ。

そんなご苦労もあるが、セリカコンバーチブルとのカーライフを満喫しているSETI-TERAさん。エンジンをオーバーホールしてから既に5万kmも走行距離を伸ばしているというセリカのオドメーターは、現在17万km超。免許返納を決意してセリカを手放す時には、一体オドメーターの数値はいくつにまで増えているのだろうか?

(文: 坪内英樹 / 撮影: 稲田浩章)

※許可を得て取材を行っています
取材場所:ジーライオンミュージアム&赤レンガ倉庫横広場 (大阪府大阪市港区海岸通2-6)

[GAZOO編集部]

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