【素敵なカーライフレシピ #26】ワーゲンバスから広がるスローなカーキャンプとガレージライフ
クルマには全く興味がない人からも「このクルマかわいい!」と声がかかる、愛嬌のあるルックスのワーゲンバス。デビューしたのは70年も前の1950年ですが、どんなに古くなっても「クラシックカー」にならず、使い込まれた「ヴィンテージ」の道具としての味わいが楽しめる、現役感のあるクルマです。
飯島泰彦さんの愛車は1974年式フォルクスワーゲン タイプII ウエストファリア キャンパー。これにホンダ・シティカブリオレ、ダイハツ・エッセを加えた3台が、自宅カーポートに収まっています。
ひと区画ごとの敷地が大きい閑静な住宅地の中、周囲の家に比べると飯島さん宅は建物の面積が小さく、カーポートの占める比率が高いのが目につきます。
「クルマでの生活を楽しみたいと思い、結婚後、都心から引っ越してきました。家を建てている時、周囲の方からは『ここで何かお店でも開かれるんですか?』とよく聞かれましたね」
そんなカーポートが、今では近所の方が集まってバーベキューなどを楽しむスペースになっています。
飯島さんのワーゲンバスは、1975年式タイプII ウエストファリア キャンパー。ドイツのキャンピングカービルダーであるウエストファリア社が手がけたキャンプ仕様のカタログモデルで、1974年から75年の2年間のみ生産されたものです。
学生時代にVWビートルに乗っていたこともあり、フォルクスワーゲンへの愛着があったという飯島さん。青空駐車で持つべきクルマではないという考えから、現在の家を建ててから探し始め、念願かなって2013年に手に入れました。
「室内の幅一杯の広いベッドがあるタイプは1974年と75年にだけ設定されているんです。このモデルだけに的を絞って、ずいぶん探しました。京都のショップからイメージにぴったりなものが出ていたので、キャンプ旅行を兼ねて内見に行ったりしましたね」
購入するまでの過程も自分のペースで。それも旧いクルマを楽しむ秘訣と言えそうです。
室内にはシンクが備え付けられ、ポップアップ式のルーフを持ち上げると室内空間がより広く感じられます。
「内装がひどい状態だったんですが、かえって躊躇なく改装できましたね。『買ったらこんな風にカスタムしよう』と何年も前から構想していたので、作業を始めてからは早かったです」
購入後にシンクやコンロの位置を変え、内装全般に手が加えられています。折り畳み式の小さな収納ラックを開くとカセット式のコンロがちょうどよく収まるなど、使い勝手よくアレンジされています。
車内のテーブルでコーヒーを飲みながら話をしていると、クルマの中ということを忘れそうです。いつでもキャンプ気分を楽しめる居心地のいい空間は、気分転換の場としてもよさそう。
何でも自分の手でこなすという飯島さんのDIY精神は、ホンダに勤めていたお父さん譲り。週末には近所の整備工場に借りたスペースで、自分の手で愛車を整備していたそう。
飯島さんも子供時代からお父さんに連れられて整備工場に行き、工具の基本的な扱い方や整備方法を実物のクルマで身につけました。
「免許を取ってクルマに乗るようになると、父がホンダの社員の方たちが乗り換えなどの際に不要になったクルマを譲り受けて、私の練習用にと持ってきてくれたんです。おかげでアコードやインテグラ、プレリュード、レジェンドなど、さまざまなホンダ車に乗ってきました」
ホンダ車の中でも特に飯島さんの心をとらえたのはシティ・カブリオレです。新車で購入したシティは今もしっかり走っています。飯島さんの手でカスタムを施されたシティは古さを感じさせず、30年以上経っているとは思えません。
会社勤めをしながらカーライフを楽しんでいた飯島さんですが、会社から独立し、個人で会社を立ち上げることに。自宅兼オフィスでの時間が暮らしの中心となってからは、お子さんの送り迎えも飯島さんが担当していたので、クルマとともに過ごす時間が増えたそう。
日常の足として活躍しているエッセも、足回りはしっかり強化。ルックスもやりすぎない、シンプルなカスタムが施されていて、デザインの魅力を引き出しています。
ワーゲンバスでイベントに参加する際も奥様と一緒。2人の息子さんとは父と子でキャンプに出かけることも。
「クルマで遊びに出かける時は必ず家族と一緒に、と決めています。息子たちはキャンプや焚火は大好き。クルマにはあまり興味がないみたいですけどね」
飯島さんのオートキャンプ歴は長く、90年代からUSアコードワゴンやメルセデス・ベンツW124といったステーションワゴンで家族とともにキャンプを楽しんできました。キャンプ仕様のワーゲンバスに乗るようになってからは、オートキャンプの楽しみ方がさらに広がったそう。
VW/ワーゲンバスのオーナーが集まるキャンプにも参加するようになった飯島さん。整備の技術だけでなく、カスタムのさまざまなアイデアを持つ飯島さんは、参加者からも頼りにされている様子がうかがえます。
時には十数台が集まることもあるといいますが、数が集まっても周囲に威圧感を感じさせないのがワーゲンバス/VWのいいところ。テンション高く騒ぐわけでもなく、皆それぞれのペースでスローにキャンプを楽しんでいるそうです。
最近ではグランピングへの関心も高まっていて、クルマとともにのんびりとした時間を楽しもうというドライバーも増えているようです。車種を限定しないカーキャンプのイベントなど、さまざまな形でクルマとのキャンプを楽しめる機会があります。
飯島さんとワーゲンバスとの旅はキャンプだけに留まりません。
「2020年には長期休暇を取って金沢・福井から京都と回ったんですが、会社の会議に出なくてはいけないのを忘れていたんです。結局スーツを持っていって、途中で会議に出てから旅に戻りました」
飯島さんがオートキャンプを始めた90年代に比べれば、道の駅なども増えた現在、車中泊の旅もずいぶん便利になりました。1週間くらいをかけたロングドライブの旅でも、ワーゲンバスの車中泊では快適に過ごせるそうです。
飯島さんはワーゲンバスだけでなく、エッセの足回り強化やシティ・カブリオレの幌のリフレッシュなども、自分の手で行っています。
「例えばこの幌の加工なども、クルマのことが分かっているかどうかで仕上がりが全然違ってくるんです。自分でやった方が満足のいくものが作れそうなので、幌の加工用にミシンも買おうかなと思っています」
デザインの楽しさも同時に追求しているのが飯島さんのスタイルです。カスタムのプロセスを丁寧に解説している自身のWebサイトも、自らデザインしています。ネットで世界のワーゲンバスオーナーたちと交流しているうちに、ワーゲンバスのイラストを気に入った海外のユーザーから、「自分のバスもイラストにしてほしい」とオーダーがくるようになりました。
「自分がデザインしたもの、選んだもので喜んでくれる人がいるのは嬉しいですね。これがビジネスになるかどうかはまだ分かりませんが、自分が好きなもの伝える活動を、楽しみながら続けていこうと思っています」
これまで飯島さんが経験してきたことや身につけてきた技術が、これからは誰かのカーライフを豊かに彩っていくことになりそうです。
(文:本橋康治/写真:湯村和哉)
[ガズー編集部]
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