バスを愛車にする夢を実現! 「好きなモノを守り続けたい」オーナーと富士重工業8Eの物語
「購入に至るまで、約2年かかりました。」
96年式の富士重工業(現SUBARU)の8E(R18型E)を自家用自動車として愛用している八良さん。
富士重工業8Eは、1990年から2004年まで製造されていた、中型の路線バス向け車両。幼い頃から身近にあったという八良さんにとっては馴染み深く、同時に憧れでもあったのだそう。
そんな富士重工業8Eを愛車として迎え入れるまでには、かなり多くの壁があったと言います。
今回は、富士重工業8E×八良さんのお話です。
――まず、何故バスを自家用自動車にしようと思ったんですか?
僕がまだ幼い頃、当然のように乗り物が好きだったんですが、特に、新しく世に出るバスに興味があったんです。
当時、富士重工業のR18型E(以下、8E)のシリーズが新車として導入されていた頃で、新しいバスという点でも興味深かったですし、人々を街の中で支える、機能性を追求した自動車にすごく感心があったんですよね。
当時の僕にとっても身近なバスで、それでいて輝いて見えたのが8Eと7E(R17型E)っていう2車種だったんです。
――幼少期、8Eや7Eを頻繁に利用していたんですね?
両親や兄弟と一緒に出かける時や、祖母と一緒に出かける時も、よく路線バスは利用していたので、乗る機会は多かったですね。特に、8Eと7Eが好きで、別のバスには乗らずに待っていたりしていました。
バスって自分が乗りたいと思った時に乗れるから、今思えばバス好きな自分にとって、とても贅沢でしたね。周りのクルマ好きの子供たちとは違う子供時代の楽しみ方をしていたと思います。
――高校生の時のテスト期間中も、バスを乗り継いでテスト勉強をしていたんだとか…?
はい(笑)。高校生になっても、街中で探しては乗っていたくらい好きだったんですが、当時は現役だった8Eも、年を重ねるに連れて、街中ではなかなか見当たらないクルマになってしまったんですよね。
――それが八良さんが8Eに乗る理由にも繋がっているんですか?
そうなんです。「今こそ8Eを買わなくちゃ」っていう、8Eを守り続けたい気持ちになっていったんですよね。
8Eのようなバスって、普通の乗用車と違って、誰も乗り続けてくれないじゃないですか。なので「自分が買って、このクルマを残し続けよう」と思ったんです。
――今乗られてる8Eとの出会いはどんな感じだったんですか?
タクシーもそうですが、バスみたいな商用車って、僕のような個人に対しての販売は、基本的にされていないんです。既に希少車になりつつあった8Eを、最初は手当たり次第に探っていくことになりました。
当初、中古車を扱っている所に相談してみたりしたんですけど、そもそも古いバスを扱っている所が無く、あっても10年から20年ほど前の車種しかなかったんです。8Eは当時30年近い車齢だったので、すぐには見つけられませんでした。
――まずは8Eを見つけるところで苦労されたんですね
そうなんです。それで、次に目をつけたのが、全国のバス事業者でした。先方の業務の支障にならない範囲内で、ご相談をさせていただいたんですけど、個人に売るのは特殊な事例だということと、過去に僕と同じような人がトラブルを起こしてしまったみたいで…。
それが影響してなのか、電話で相談すると門前払いされることも少なくなかったです。そもそも、古過ぎて売却すらしてないと言われることが大多数でした。
――最終的には、売ってくれる所にたどり着けたんですね?
はい。売ってくださると言ってくれたその会社さんは、8Eを探し始めた最初の頃にアタックした所で、はじめは「会社の決まりで売ることが出来ない」と言われていたんです。そんな中、改めてご連絡をいただき「然るべき決まり事をきちんと守ってくださるなら」ということでお話をいただけたんです。
1つ1つ順を追ってちゃんと踏むべきステップを踏めて、たくさんの人に助けていただいたからこそ辿り着けたんだと、その時に実感し、その会社さんにもめちゃくちゃ感謝しました。
――そこからは、すんなり購入出来たんでしょうか。
それが、どうやらその会社さんも、車両数に余裕があるわけではなかったみたいで……。「別の車両で故障車が出て、代車として8Eを使用することになったから、別の8Eのクルマでお願い」って言われちゃったんです。
その後、仕方がないかと別のクルマで話を進めていたら、次も同じ理由でまた買えなくなってしまい…という流れを合計3回くらい繰り返したんです。気づいたら、1年くらい経過していました。
その後「故障車でよければ売ります」と言っていただけて、もう自分で直せばいいやと思って(笑)。約2年かけてようやく購入することが出来ました。
――辿り着くまで、かなりの長い道のりだったんですね。
今お話しした内容はほんの一部で、他にも、古い8Eを運転するに当たり、排気ガスの問題で200万円もするマフラーを付けないといけないなど、何個も壁があったんですよ。(笑)
――バスを運転するって並大抵のことではないんですね。外装も運転するために変えないといけないんですよね?その問題はどうしたんでしょうか。
もちろん、バス会社さんに迷惑がかからないように、最初は真っ白に塗装しました。
――現在の青いラインの外装デザインは、八良さんが元々考えていたデザインだったんですか?
はい。幼少期からクルマの絵を描くことが好きで、高校生になっても描いていたんですよ。このデザインにしたいっていうのは元々決めていて、「千城」というのは、地元にゆかりのある場所の、戦前の地名をお借りした名前なんです。
――八良さんの他のバスのデザインが、テレビ番組のスタジオセットに採用されたんですよね。本当にすごいです!
その時はめちゃくちゃ驚きました。すごく好きな番組だったというのもあり、とても光栄に思っています。
――八良さんとお話をしていると“周りに迷惑をかけないように”という意識がとても伝わってくるんですが、運転する上で気をつけていることってあるんですか?
まず、サイズが大きいので、神経を使って運転しているのはもちろんのこと、出発前の日常点検も、点検ハンマーを片手に欠かさずしています。オイル周りから灯火類、タイヤの空気圧、ひと通りの安全点検は必ずしています。他人に迷惑をかけないっていうのは常に気を付けていますね。
あとは、フロント上部にある方向幕に関しても、路線バスと間違えないように『回送』とか、ひと目見てわかりやすい表示をさせて、バス会社に迷惑がかからないようにしています。実は『お買い物中』っていう方向幕は自作したものなんですよ(笑)。
――面白い!車内のネオンも自作してましたよね!内装のお気に入りポイントってどこなんですか?
フロントガラスの上の方向幕が入っている箱のデザインは富士重工ならではのデザインでとても好きです。
あと、コーションプレート(製造番号などが書いてあるプレート)に、昔使用されていた『丸フ』のロゴマークが描いてあるのが気に入っています。富士重工業ってSUBARUの昔の名称なんですけど、このロゴは昔SUBARUが作っていたクルマやバスや電車でしか見られないので、とても気に入っています。
――これまでのカーライフで8Eならではのエピソードってありますか?
例えば、引っ越し作業はこれまでに何度も手伝っていますね。バスだと人と荷物が同じ空間に居られるので、安心感にもつながるんですよ。
あとは、15人とかの大人数でも一緒の空間で旅行に行けるのが良いですね。まあこれは本来の使い方ですが(笑)。
それと、イベント時に送迎バスを依頼しなくても、自分で賄えるっていうのは強みです。アクセスが不便な場所でもイベントを主催できるのが良いですし。実際にイベントでそういった使い方もしています。
――ハ良さんが8Eに乗っていて一番幸せを感じる瞬間ってどんな時なんでしょうか。
運転中、左折をする際に行う、目視確認の瞬間ですね。その時だけ車内がチラッと見えて、富士重工業のバスを運転しているなっていう実感をすごく感じられるんです。
もちろん、運転席に座っている時だけじゃなくて、後ろのシートに乗っている時もすごく幸せを感じます。
――今後、8Eとはどんなカーライフを送っていきたいですか?
実は、人生の中で、バスを通じて地方創生に関わるのが夢だったんですけど、この8Eをきっかけに関わらせてもらえたんです。なので、今後はそうした自分の夢はもちろんですが、ゆっくりのんびり、8Eとのカーライフを楽しめる時間を増やせていけたら良いなと思っています。
学生時代から「バスが欲しい」と周囲に言っていたという八良さん。
当時の友人と担任の先生とご飯に行った際、駐車場に停めていたバスを見た先生はすぐに八良さんのものだと確信したのだそう。
学生時代、傷付くのを恐れてか、好きなモノを知られることを恥じ、家族にすら隠していた筆者。
好きな物を堂々と掲げ、大人になってからも努力し、夢まで叶えてしまったというハ良さんの生き方を聞き、彼の“自分を信じる心と突き進む努力”を、当時のちっぽけなプライドを持った自分に見習ってほしいと、ひっそりと思うのでした。
【X】
八良さん
(文:秦 悠陽)
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