ボロボロのトヨペットコロナを、レストア初心者の学生が40日間で蘇らせる

勉強やスポーツをする時、自分が成りたい姿や明確な目標があると、他のことは犠牲にしてでも一生懸命邁進できるが、その目標が曖昧だと上手くいかない。このような経験をされた方も多いのではないだろうか。レストア未経験の若者たちが、ボロボロのクルマを40日間で新車のように復活できたのにはきっと、“大阪オートメッセでお客様を笑顔にしたい”という強い想いがあったからだろう。レストアを指導した、トヨタ神戸自動車大学校の石上グループ長に、生徒たちのお話を伺った。

このクルマを展示しているのは、トヨタ神戸自動車大学校。1993年に関西自動車整備専門学校(関整校)として開校し、つねに時代をリードできる自動車整備業界のエキスパートを育成する学校として誕生した。2019年には、車体整備専攻科が開設、溶接・板金・塗装などのスキルを学ぶ科であり、今回レストアを行った生徒たちの所属している母体だ。彼らは、1年次、2年次に2級自動車整備士資格を取得。3年次から車体整備の溶接・板金・塗装などのスキル習得に励むことになる。

車体整備専攻科が開設した2019年より、大阪オートメッセにレストア車を展示してきた。レストアした車は、旧車市場でも人気のあるクルマばかりで、1年目は「AE86」、2年目は初代「トヨペット・クラウン」(コロナ禍で開催中止)、3年目は20系「ソアラ」、今回は1966年式のRT50「トヨペット コロナ ハードトップ」だ。来年は70系「スープラ」を予定しているそうだ。

写真提供 トヨタ神戸自動車大学校

今回レストアしたトヨペット コロナは、写真のようにかなり酷い状態で、水が入るところの大部分が錆びてボロボロだったり、無くなったりしている。フェンダーの白い部分は、錆の進行を少しでも止めるために、このクルマの前所有者が塗ってくれていたもの。エンジンは始動できない状態だった。

どのようにして、この車をレストアしていったのか。石上先生によると、まず3年生の初めに、ボロボロのこの車を学生に見せて、オートメッセまでに完成させるという目標を立てたとのこと。2年間の自動車整備科で、エンジンからクルマの分解までのスキルを身に付けた学生たちは、5月頃に少しクルマを分解して、車の状態を確認した。

これほど錆びていると素人が分解するのはきわめて困難だろう。その後は、例えば下地をつくる技術を勉強したら、トヨペットコロナで下地つくってみよう、と少しずつ進める。しかし、授業の合間にレストア作業をするため、1月に集中的に時間をかけて、仕上げ作業を行った。

特に大変だったのは、錆で無くなってしまった部分を、元の形を想像しながら一枚の鉄板を切って、叩いて、形にして、溶接したこと。学生らしいところといえば、室内には市販のカーペットを探したり、シートは自分たちで縫製したり、染めQを使ってシートを染めたりしている部分だ。

ちなみに、石上先生も作業方法に迷うことはあるそうで、新明工業さんに的確なアドバイスを貰っている。他にも、関西ペイントさんから水性塗料、創新さんからパテなどを提供してもらっており、多くの協力者がこのレストア作業を支えているようだ。

レストア車の今後の行先が気になるところだが、学生が作ったクルマでもあるため売却はしないそうだ。2年前につくったトヨペット・クラウンは、トヨタ系販売店のショールームに飾ってあるとのこと。

石上先生は、「4月に、このクルマを直そう!と生徒と約束してから完成まで10か月、実際の作成日は40日でした。」とサラッと話されていたが、実際は容易に出来ることではない。

もともとボロボロだった車を、レストア初心者の学生が復活させるためには、スキル向上だけでなく、高いモチベーションの維持も必要だっただろう。“もし綺麗にレストアできず、大阪オートメッセでお客様を笑顔にできなかったら、この1年間は一体何だったのか”。きっとこのような想いを原動力に頑張ってきたから、ここまで出来たのではないだろうか。

このレストアによって、学生がスキル以外に学んだことは、“お客様を笑顔にしたい”という強い気持ちだろう。

(GAZOO編集部 岡本)