日産、元気一杯!新型エルグランドから得た感触【ジャパンモビリティショー2025】

  • ラインアップ一覧とエルグランド

TN戦争という言葉を生み出した名門・日産自動車。しかしこのところめっきり元気がないと感じるのは私だけではないはず。多くの要因があるのだと思うが、2025年3月期の過去最大級赤字だったこともあり、「日産、大丈夫?頑張れ!」そんな気持ちを抑えられないまま、ジャパンモビリティショー2025の日産メディアブリーフィングに参加した。
イヴァン・エスピノーサ代表執行役社長兼最高経営責任者は壇上のヴェールドカーの横に立ちながら日産の再生を強く訴求する。曰く「市場・商品戦略を見直し、コアモデル、ハートビートモデル、そしてパートナーシップモデルの三本柱を中心に市場に提案していきます」。それぞれのモデルが担う役目とターゲットについては、以下のように説明があった。

  • ヴェールドエルグランド

コアモデルは市場ニーズに応える手頃なモビリティ。ハートビートモデルは日産の大胆なデザインと開発の精神を体現する商品。パートナーシップモデルについては「複数の戦略的なパートナーシップを活かし地域の事情に適したラインナップを拡充していきます」と言及した。アライアンスを最大限に活用した新商品の提案だろう。さらに「これら三つすべての柱にEV、e-POWER、内燃機関など車種ごとの目的と市場ニーズに合わせた適切なパワートレインを設定します」とした。モーター偏重(失礼)の戦略から少しシフトしていくのだろうか。

販売の現場で「売るクルマがない」という悲鳴があがっていると聞いたこともある。冒頭に記した「TN戦争」の時代には日産はフルラインアップでクルマを揃え、多くのユーザーを満足させていた。しかし昨今は「各セグメントにおけるベテランモデルが一種ずつ」といって差し支えない状況で、戦おうにも弾薬が少ないと感じる。

そんな状況に、ようやく風穴があきそうな報せである。高価格帯ミニバンのパイオニアである「エルグランド」がフルモデルチェンジ、2027年夏の発売を目指している。同車の特徴は各メディアで報じられているだろうからここでは多くに触れないが、なんといっても注目すべきは新世代e-POWERとともに、進化版e-4ORCEを搭載していることである。

  • 新型エルグランド

新世代のe-POWERとなれば、コンパクトなパワートレイン、超高効率の発電専用エンジン、バッテリーリーン(最小限積載)な構造による軽量化と低価格化が望める。それに加えて、モーター駆動で前後軸独立制御、である。

読者諸兄姉はe-4ORCEにお乗りになったことがあるだろうか。個人的にこのシステムは自動車のパワートレイン史上に残る傑作だと固く信じていて、その理由は自動車の動質を完全に塗り替えてしまったことにある。前後モーターの独立制御によって車両姿勢の安定化を精密かつ超高速に制御するというその仕組みは、乗員すべてに「揺れない」「乗り心地がいい」と強く思わしめるに充分。これをミニバン、さらにいえば高価格帯のミニバンの制御に用いることで大きな武器になると思われる。4WDはもはや悪路走破のための装置としてのみならず、高級なクルマを演出するための仕掛けなのだ。

  • モビリティサービス試験車

「移動の自由」という視点からはもうひとつ、自動運転レベル4搭載のモビリティサービスの提案がなされた。レベル1がフットオフ(ペダル操作からの解放)、レベル2がハンズオフ(ハンドル操作からの解放)、レベル3がアイズオフ(システム主体の操縦)に加えて、ブレインオフ、つまり完全自動運転ということ。運転しなくても、運転できなくても、自由に移動が楽しめるという世界を実現してくれる。

これから始まるみなとみらい地区での実証実験ではドライバーが乗るレベル2相当だが、技術としてはレベル4を見込んでいるとのこと。社会課題のひとつであるドライバー不足をこの技術で解決を図る。

ユニークなのはキャビンにしつらえた装置である。自動運転というデジタルの申し子みたいな技術において、あえてアナログな機械とした。走行状態をGPSなどで把握、みなとみらい地区のスケールマップ「ジオラマナビ」上にミニチュアカーを走らせるという演出だ。

  • ジオラマナビ

さらにAutoDJなるラジオを装備。クルマがみなとみらい地区のランドマークに差しかかると、施設情報などをラジオ番組風に放送する。操作パネルも1950年代のカーラジオライクなデザインとして「操作する楽しさ」を追求したのが好感である。

こちらも2027年の市場投入を予定、登場(搭乗?)が非常に楽しみな技術だ。

さらに市場投入済みの高度運転支援技術・ProPILOTも進化、英国Weyve社のAI技術を載せた次世代型は、ついに適用範囲を高速道路のみならず一般道まで拡大する。賛否両論が巻き起こりそうな気もするが、少なくとも「ついうっかり」による事故は防げるはず。こちらも2027年度中の投入を目指す。

――という具合に、なんだかワクワクするような提案をしてきた日産。このほかにも「マイクラEVで復活」とか「延長するソーラーパネルで航続距離伸長するサクラ」とか「まさかのパトロール日本導入」とか話題は豊富。日産、大丈夫!と思わせてくれるようなプレスブリーフィングであった。

(文:萬澤龍太)

ジャパンモビリティショー2025