【トヨタ クラウン 新型】原点は会社創業、そして迎えた明治維新…歴代
◆戦後のトヨタの挑戦は初代クラウンから
「クラウンの原点はトヨタの創業まで遡る」と話し始めるのは豊田章夫社長だ。今から90年前、豊田喜一郎氏は自動車事業への挑戦を決意。その根底には、「大衆乗用車を作り、日本の暮らしを豊かにしたいという思想があった」という。創業から15年経った1952年1月に念願の国産乗用車作りが始まる。その名はクラウン。この名称は、「喜一郎の発案で決まっていたそうだ」と話す。その初代主査に任命されたのは中村健也氏だった。豊田社長は、「中村さんは強い使命感のもと、良いと思うことは、例え周囲に反対されてもやるという強い信念を持ち、前輪ダブルウィッシュボーンサスペンションをはじめ、最新技術の全てを注ぎ込んだ」。中村氏は発売当時のことを、「(クラウンがデビューすると)日本中がお祭り騒ぎのようだった。まずいところを謝ると、“小さな傷だ、すぐ直る”とお客様の方が慰めてくださった。国中をあげて僕の尻押しをしてくれた感じだった」と語っていたそうだ。
この初代クラウンは、1957年に日本車として初めてオーストラリアでの海外ラリーに参戦。その後、乗用車で初となる米国輸出にも挑戦。このタイミングでトヨタは1959年、乗用車専用の元町工場を立ち上げる。「乗用車の黎明期、年間6万台の量産工場を立てることは、大きな決断だったと思う」と豊田社長は語る。そして、「戦後のトヨタにおいて全ての挑戦は、初代クラウンから始まった。まさに日本という国が豊かになっていく勢いを象徴していたクルマ、それが初代クラウンだった」とその存在を話す。
そして、マイカー元年の翌年、1967年に3代目が発売された。中村氏のもとで2代目の開発に携わった内山田亀男氏が主査になる。「内山田さんは駐車場でクルマを観察する中で、ボディの色がだんだん明るくなってきたことに気づいた。そこで、マイカーとして乗るお客様が増えることを見越して、白いボディカラーを設定。3代目は“白いクラウン”と呼ばれ、モータリゼーションを牽引していくことになる」と説明し、「ここまでがいわばクラウンの創業期だ」とした。
◆大きな変化に向かって
「そこから20年は、お客様が求めるクラウンらしさを確立する時代だ」と豊田社長。1971年にモデルチェンジした4代目では、「外国車との競争激化を見越して、イメージを一新する大胆なデザインに挑戦。しかし、品質トラブルの影響もあり、販売面で大苦戦を強いらた」という。そこでの教訓は、「クラウンは決してお客様の先を行き過ぎてはいけない」ということだった。これ以降、歴代の主査たちは、「革新への挑戦とお客様への期待の両立に苦悩しながらクラウンの開発を進めることになる」とクラウンの道のりを語る。
「そんなクルマ作りが7代目、8代目で身を結ぶ」。その開発を担当したのは今泉研一氏だ。「“いつかはクラウン”と語り継がれる7代目より、クラウンは日本のステータスシンボルになり、8台目では歴代最高の販売台数を記録」。
豊田社長は1984年にトヨタに入社。最初の職場は元町工場で、8代目の生産準備にも携わった。そこでの印象は、「みんなが誇らしげに仕事をしていたことをいまでも覚えている」と当時を振り返る。そして80年代、クラウンは、「名実共に日本を代表するフラッグシップとなる。しかし、これをピークに9代目以降は苦難の時代に突入」。その要因はクラウンの位置づけが変わったことにある。それは1989年、レクサスの最上級車『LS』を『セルシオ』として日本にも導入したことだ。豊田社長曰く、「いつかはクラウン、その立ち位置が変わるという大きな転換点を迎えた」と述べる。
◆厳しい時代からの逆襲へ
そして1991年のバブル崩壊で日本経済は不況に陥り、高級車需要は低迷。さらに、輸入車との競争も激しくなった。この逆風の中で登場したのが9代目と10代目だ。開発を担当したのは渡辺浩之氏。「いつかはクラウンの今泉さんのもとで腕を磨き、酸いも甘いも知り尽くした渡辺さんの時代から、クラウンは変革期に入っていく」と豊田社長はいう。
2000年代になるとトヨタは海外展開を加速し、規模拡大を追求していく。その結果、「徐々に売れるクルマ、売れる地域が優先されるようになり、クラウンの販売は右肩下がりの状況。このままではいつかクラウンはなくなってしまう」と豊田社長は危惧。そんな時代、2003年に12代目が誕生する。その開発を担当したのは加藤光久氏だ。「俺の代でクラウンを潰すわけにはいかない。その一心でクラウンの再構築に挑戦し、世界基準の走行性能を目指し、プラットフォームやエンジンをゼロから開発した」。
その頃豊田社長は、テストドライバーの成瀬弘氏のもとで運転訓練を始めていた。そこで、「ゼロクラウンの走りの良さを自らのセンサーで感じたことを、いまでも鮮明に覚えている。このゼロクラウンにより、“走りのクラウン”という新たな方向性が見えてきた」という。
そして2008年、リーマンショックが発生。赤字転換の中で豊田氏が社長に就任。「会社としては厳しい状況だったが、クラウンの変革に向けた挑戦は続けていった。一目見て欲しい、そう思えるクルマにするためなら何を変えてもいいといって、開発陣の背中を押しながらデザインを大きく変え、プラットフォームも刷新し、さらにニュルブルクリンクで走りも鍛えていった」とそのときの想いを語る。そうして誕生したのが14代目の“リボーンクラウン”、15代目の“コネクティッドクラウン”だ。豊田社長はこの20年を振り返り、「クラウンは時代の変化と戦いながら進化を続けてきたのだ」とコメントする。
◆16代目クラウンは面白いね、乗ってみるとクラウンだね
そして迎えた16代目。「日本の歴史に重ね合わせれば、徳川幕府の江戸時代も15代で幕を閉じている。なんとしても、クラウンの新しい時代を作らなければいけないと決意と覚悟を固めた。そして一度原点に戻って、これからのクラウンを本気で考えてみないかと開発チームにそう伝えたところから、16代目の開発がスタートした」と新型へかける想いを語る。その言葉を受け、「クラウンチームは歴代主査の思いに立ち戻ることから始めた。中村健也さんは、“信念を持って人に物を売るということは、自分の心で良いと思うもの、本当にお客様の心が入ったものを作るということ。そうして自分の主張を盛り込んだクルマに乗ってもらって初めてお客様はおもしろい、乗りたいといってくださる”。そうやってクルマを世に問うことが主査の役割だ。これが主査制度の原点であり、私たちが目指しているもっと良いクルマ作りの原点だ」と初心に帰っての開発がスタートしたことを明かす。
そこから2年。「チームのみんなが形にしてくれたものは、これからの時代のクラウンだった。私が初めて新型クラウンを見た時の言葉は、“面白いね”。そして乗ってみてクルマから降りた時の言葉は、“これ、クラウンだね”だった。16代目のクラウンを日本の歴史に重ね合わせれば明治維新だ。新しい時代の幕開けだ」と語り、新型クラウンへの期待と自信を見せた。
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