隣の国からの黒船に参りました…安東弘樹連載コラム

韓国メーカー、ヒョンデのIONIQ5。これまで、イベントなどで実車を見る機会はあったものの、実際に運転する機会には恵まれず、YouTubeの動画などを観ては、早く乗ってみたいと、試乗会のチャンスを待っていました。箱根往復の試乗会に参加してきましたので、私の素直な感想を正直にお伝えします。

流石、2022年のワールド・カー・オブ・ザ・イヤーに輝いただけのことはあります。殆どの海外ジャーナリストやYouTuberの評価は高く、それを見聞きする度に、「実際はどうなのか」を想像する日々が続いておりました。

映像で観ると外観は新しい意匠ではありますが、イベントで、初めて実車を見た時にはあまりピンと来なかったのが正直な所で、内装は外からしか見ることが出来なかったのですが、「ポップ」ではありますが、質感という意味では今一つ、という印象でした。

そういう意味では、期待と不安?が半々、といった心情でインポータrー主催の試乗会に参加したのです。

試乗会の拠点は、横浜にあるヒョンデのCXC(Hyundai Customer Experience Center)。
今年の7月にオープンし、ここで購入相談から納車、整備までをカスタマーに提供する施設です。ちなみにオーダーはメーカーサイトからオンラインで行いますので、ここでは相談だけで契約は行わない、というのが特徴で、建物の2階にはカフェもあり、とにかく現代的でクリーンでスタイリッシュ、と表現出来る施設でした。

そのCXCから鎌倉経由で箱根に向かい、箱根で1泊し翌日は横浜のCXCに戻ってくるというコースでの試乗でした。

IONIQ5と久しぶりに対面した印象は、「あれイベントで初めて見た時より自然光の下で見ると存在感がある」というもの。

もっとシンプルに申し上げると。「あらカッコイイ。」といった所で、20世紀に「21世紀のクルマ」としてデザインされた様な、「古新しい」とでも表現されるようなデザインです。

サイズからして新鮮です。全長4635mm全幅1890mm全高1645mmという、これだけ見るとミッドサイズのSUVというディメンションですが、ホイールベースが何と3000mmも有るのです。これはエンジンを搭載しているクルマでは達成不可能な数値である事は御理解頂けると思います。実際に中は、とても開放的で広く、ドライバー以外も快適に過ごせる空間でした。

用意されていた試乗車は最上級グレード、Loungeの2WDと4WDモデル。
私が往路に乗ったのはアトラスホワイトと名のついた白の2WDモデルで復路に乗ったのがサイバーグレーメタリックという名のシルバーの4WDです。存在感はあるのですが、色とデザインの妙で威圧感はありません。

唯、そのデザインは新しい乗り物、というイメージを想起させ、多くの人の所有欲を満たすのではないでしょうか。そして明るい内装色や大きなガラスルーフによって、室内は、かなりの開放感が演出されています。

シートは、前席は全ての可動域が電動調整で、シートヒーター、更にはベンチレーターまで着いています。更に!助手席だけでなく運転席にもふくらはぎを支える電動のオットマンが付いていました。これはクルマの充電中にドライバーも車内でリラックスして待てる様に、との配慮からだそうです。後席にもシートヒーター、そして前後スライドは電動…。

まだあります。面白いのがグローブボックスで、内燃機関のクルマに比べて空間に余裕があるため、蓋が下に向かって開くのではなく、ボックスそのものがスライドして空くので容量がかなり確保されているのには驚きました。これは新鮮です。ちなみにインテリアに使われる素材はエコフレンドリーなうえ、とても肌触りが良く、安っぽさを感じる事はありません。

走り出す前から、様々な装備を自分の目で見て、衝撃を受けました。

それでは走りの印象を、お伝えしましょう。

2WDグレードの駆動バッテリーの総電力量は72.6kwhで航続距離はWLTCモードで618km。パワーユニットの出力は217ps/350NmとEVらしく特にトルク数値の大きさが印象的です。そして、その数字の通り、低速からの加速は、とてもスムーズで気持ち良く、暴力的ではないものの、一瞬で速度が上がっている、という感覚です。追い越しの時などのストレスは皆無で、これは安全にも寄与すると思いました。そして何より私が感銘を受けたのは、そのドライバビリティーで、重心が低く、安定しているのは勿論、操作性も優秀です。

ステアリングに付いたパドルを操作する事によって、殆どフットブレーキを使わずに加減速を自在にコントロール出来るのです。右のパドルを引くと回生が弱くなり、0というポジションはコースティングモードで回生はされません。一方左のパドルを引くと回生が3段階で強くなり、減速。勿論、強くなれば、それだけ電気が供給されて、バッテリー残量が増えるという事になります。

ここまでは他車にもある機能なのですがIONIQ5の優れているところは、0のポジションから左のパドルを4回引くと最後には回生量が最大になり、フットブレーキを踏まずとも停止までする、所謂ワンペダルモードにまでなるのです。今回、パドルを駆使して、あの箱根ターンパイクの下りを1度もフットブレーキを踏まずに走りきってしまいました。小田原料金所に着いた時、バッテリー残量は走り始めの65%から78%に増えていました。MTには叶わないものの、エンジン車のATと比べたら、正直、IONIQ5の運転の方が楽しいとさえ思いました。

翌日の復路は同じグレードの4WDに乗ります。
こちらは、バッテリーの総電力量は同じですが、モーターが前後に付いている為、総合出力は305PS /605N・m!と強力。

新東名高速道路を使い御殿場インター経由でCXC横浜まで帰る、というコースだったのですが、そのパワー、というか余裕のあるトルクに感心させられました。やはり暴力的ではないものの、気付いたら一瞬で速度が上がっている、という感覚です。

新東名高速道路に於いて120km/hの制限速度区間で3車線の真ん中の車線を走行中、前のトラックが80km/h未満の速度で走っていたので、追い越し車線に移りアクセルを強めに踏んだところ、正に一瞬で120km/hに到達し、慌ててアクセルを戻した程でした。あらためてBEVの加速には感心するばかりです。しかもIONIQ5の加速感は、恐怖を感じる程ではない、でも胸の空く気持ちの良いもので、その塩梅が絶妙なのが印象的でした。

その他にもウィンカーの作動時には、その方向の斜め後方の映像が自動的にモニターに表示されたり、クルマが電源となり電気製品や住宅そのものに給電するV2L、V2Hにも対応していたりしてユーザーフレンドリーな装備も満載です。そのお陰で補助金は80万円。(2022年11月現在)その他、自治体の補助金もあります。
車両価格は479万円~589万円。

ちなみに試乗を始めた時の2WDモデルのバッテリー残量は98%で航続距離表示は490km。一瞬カタログ値との乖離を感じましたが、記憶を呼び起こしてみたら、これまで乗った他のBEVと比べて、その差は最も少なかった事に気付きました。実際に試乗を終えた後には計算上、航続距離が、その数値を上回っていたので(そこまで実走した距離と走行終了時の航続可能距離を足した数字)電費も優秀だったと言えるでしょう。

考えてみると、内燃機関のクルマも含めて私にとっては初めての韓国メーカー車でしたが、その性能、装備、デザイン含めて、日米欧の、どのクルマにも似ていない、独自の価値を創りだしている事に驚きました。

試乗会を終えた時の私の素直な感想が、「いや参ったな!」だったのを正直に、お伝えしておきましょう。

IONIQ5に乗って、BEVを環境負荷の有無ではなく、新しいクルマとして、加速や静粛性、先進性などを評価するべきなのだと、改めて考えさせられました。

皆さんも一度は、このクルマに触れて頂きたい、そう思います。

安東弘樹

MORIZO on the Road