2022年は自動車業界にとって激動の1年でした…安東弘樹連載コラム
2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤーの 日産サクラと三菱 eKクロス EV
今年最後のコラムですが、改めて時の経つ早さに驚愕しています。今年も、皆様に駄文を読んで頂き、感謝の念しか、ございません。誠に有難うございました。
さて前回のコラムで紹介した様に2022―2023日本・カー・オブ・ザ・イヤーは日産サクラ/三菱ekクロスEVになりました。軽自動車では初、電気自動車(以下BEV)としては2回目の受賞です。その事だけでも激動、変革の年になった事を理解して頂けるでしょう。
私の印象ではクルマの多様性が拡がった年、として記憶されるのではないかと感じています。
パワーユニットの種類もそうですが、ユーザーが自分のライフスタイルによって、車体の大きさや、ボディ形状を選べる、今の日本の市場は世界で最も多様性に溢れている状況、と言っても過言ではありません。
北欧ではBEVが主流で、都市部専用のシティーコミューターは別にして軽自動車の様な小さなクルマはありませんし、日本で主流の個人所有のミニバン、ストロングハイブリッド車も希有です。
世界的な変革期だからこそ、急激な変化を求めない、ある意味保守的な日本市場ならではの多様性に満ちている状況になっているのでしょう。
軽自動車(ハイトワゴンから2シータースポーツカーまで)、セダン、ワゴン、ミニバン(大きさも各種)、SUV、ピックアップトラックまで。そして、前回のコラムにも書いた通り、日本では現状、パワーユニットは8種類程、選べます。
ふと考えてみると、今の日本ほど、贅沢な選択肢が存在する国は無いのではないでしょうか?
昨年まではBEVの選択肢が極めて少なかったものの、今年から、その状況も「多少は」脱却できたと言えるかもしれません。
「多少」と書いたのは、日本で購入できるBEVは補助金を差し引いて200万円前後の軽自動車規格のクルマを除くと、価格は日本メーカーやフランスメーカーのクルマで、ごく一部を除くと600万円前後のものがまだまだ主流で、ドイツ車のBEVになると乗り出し価格は700万円以上になってしまいます。そうクルマの価格の中央値である、300~400万円のものが、ぽっかり空いている状況なのです。それが日本で敬遠される要因の一つでしょう。
またストロングハイブリッドのクルマの種類が豊富なのも一つの要因ですが、これは、他の市場と違って、素晴らしい事だと思います。選択肢が、それだけ多い、という事に他なりません。
個人的にも非常にスタイリッシュになった、次期TOYOTAプリウスの特にPHEVに期待しています。長距離を走る私にとって、ディーゼルのマイルドハイブリッドか、ガソリンのPHEVが現実的な選択肢になってくると思っていますので、クルマの大きさや重量にもよりますが、駆動バッテリーの総電力量が20kwh以上(モーターのみでの実質航続距離が80km前後)のPHEVでしたら、私の運転環境では最も環境負荷を減らせるのではないかと試算しています。
暫くは、この多様な選択肢の中からクルマを選ぶことが出来ますが、問題はクルマの価格が全体的に上がっている事です。
御存知の通り、日本の平均賃金は30年以上、上がっていません。
にもかかわらず、安全装備や、快適装備が求められるという背景があるにせよ、30年前と比べて軽自動車でさえ、新車価格は、2倍以上(参考にした、某メーカーの同車種のメーカー希望小売価格比)になっています。改めて驚きました。
賃金が全く上がっていないのにクルマの価格は、ベーシックな軽自動車で倍になっているのです。
実は、今回のCOTY、10ベストカーに選ばれた、あるガソリンエンジンの軽自動車の試乗の為、近所の販売店に赴き、試乗だけで無く見積もりも取って頂いたのですが、オプション、税金など込みの乗り出し価格は、260万円でした。勿論、ある程度の覚悟?は出来ていましたが、ナビゲーションやフロアマットなど、販売店の利潤に直接、繋がるオプションを重ねていった結果、30年前の、若い人の憧れ?TOYOTAマークⅡ2.5Lのグランデ、グレードより高い価格になってしまいました。
当時、マークⅡを購入する層は、恐らく一般的な企業の課長クラスの方が多かったと記憶していますが(部長クラスはクラウン、というヒエラルキーでした)、それが今や軽自動車が同じ価格になっている事を考えたら、クルマから離れざるを得ない状況は心底、理解出来ます。
中古車を見てみても、私が初めて購入した5年落ちの120PSのHONDAシティーターボⅡが当時48万円でしたが、今、このようなスポーツモデルの中古車を買おうと思ったら、48万円では、とても買えません。
これでは、いくらクルマの多様化が進んだとしても、それを多くの人が享受出来ず、意味が半減してしまうというものです。
しかし、安全の為、また環境の為、クルマに求められるものが増える事があっても減る事は有りません。価格が極端に下がる事は期待できないでしょう。
まだまだ基幹産業であり続ける事が期待される日本の自動車産業を守る為にも、まず日本の、賃金が上がらない状況での物価高、を政府には何とか是正して欲しいと心から思います。
また業績が悪くなく、内部留保を少なからず保有している企業には、積極的に賃上げをして頂きたいと重ねて願うばかりです。
そして自動車メーカーには、多少、無理をしてでも、購入したいと思わせる魅力のある、コストパフォーマンスの高いクルマを販売して頂きたいと思っています。
経済を回す為にも消費を増加させる事が必要になってきますので、これも一つのメーカーの責務?かもしれません。自動車は、そもそもの単価が高いので同じようにはいきませんが、デザインを含めた所有欲を満たす、高級家電がブームになっている事も一つのヒントになるのではないでしょうか。
特にクルマは都市景観の一部になりますので、中身が伴っているのが前提ではありますが、走っている姿を見ているだけでも、気持ちが明るくなるようなエクステリアを持ち合わせたクルマを、多くリリースして欲しいと切に願います。
さて、来年は、どのようなクルマが世に出て、それを我々、ユーザーが、どのように判断するのでしょうか?
今年は、新型日産フェアレディZやHONDA CIVIC TYPE Rの最後の?内燃エンジンMT車に痺れ、MAZDAのMHVディーゼル搭載のCX-60の堅実さと完成度の高さに頷き、殆ど新参者と言って良い、ヒョンデのIONIQ5の動力性能の高さと運転の楽しさに驚き、軽自動車規格のBEVの実用性に感心した、何ともバラエティに富んだ1年でした。
来年は、どのような年になるのか、できれば世界にとっても日本にとっても、そして読者の皆様、一人一人にとっても良い年になる事を心から願っています。
そしてクルマ業界にとっても良い年になる事を祈って、今年最後のコラムを終えたいと思います。
どうか良いお年をお迎え下さい!
安東弘樹
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