陸サーファーの定番!?5代目ファミリアやハッチバック車は高級車に負けないデートカー・・・1980~90年代に輝いた車&カルチャー
多くの若者がクルマに憧れた1980〜90年代。クルマは人や荷物を運ぶ道具としての役割だけでなく、若者たちのカルチャーを牽引する存在でした。そして、ドライブがデートの定番であり、クルマを持っていることがステータスでした。
だからこそ当時のクルマは、乗っていた人はもちろん、所有していなかった人、まだ運転免許すら持っていなかった人にも実体験として記憶に刻まれているのではないかと感じます。
そんな1980〜90年代の記憶に残るクルマたちを当時のカルチャーを添えながら振り返っていきましょう。
渋滞にハマることすら、ドライブデートの大切な時間だった時代
1970年代に湧き起こったサーフィンブーム。そんな中で1978年に創刊した雑誌『Fine』がサーフィンを若者のカルチャーとして紹介しました。翌年には映画『ビッグ・ウェンズデー』が日本で公開され、サーフィンブームが確固たるものになります。
ブリーチされたレイヤーカット、日焼けした肌にブルーのシャドーを塗ったサーファーギャルが注目されるようになると、専門誌だけでなくファッション誌や一般誌でもサーフィンやサーファーがクローズアップされるようになりました。
サーフィンが一大カルチャーになると、サーフィンはやらないけれどファッションやルックスをサーファーっぽくする人が大量に現れます。いわゆる陸(おか)サーファーですね。
サーファーが海で波を乗りこなす姿、日焼けした肌と筋肉質な肉体は男の目から見てもカッコよかったですが、波がある日に海にでかけなければならなかったり、ローカルルールがあったりと、サーフィンは敷居が高い部分もあったのでしょう。
だからこそせめてスタイルだけでも真似しようと思ったのかもしれません。筆者もサーフィン雑誌を読み漁り、後にサーフィンのビデオを見まくっていましたが、実際にサーフィンをすることはなかったのでなんとなく気持ちがわかります。
そんな陸サーファー御用達のクルマと言われたのが、1980年6月に東洋工業(現・マツダ)から発売された5代目ファミリアでした。
誤解がないようにお伝えしておくと、5代目ファミリアは本物のサーファーからも絶大な支持を得たモデルです。4代目までのFR方式からFFに変更されて広くなった室内空間、左右分割可倒式リアシートにより沢山の荷物が積めるようになったラゲッジルーム、フルフラットが可能になったことで海に早く着いた際も楽に仮眠ができるシートアレンジなど、サーファーにとって便利な機能が満載でした。
多くのサーファーが選んだことで、彼らに憧れる陸サーファーも乗るようになり、いつしかファミリア=陸サーファーと語られるようになったのです。
中でも赤いファミリアにキャリアをつけて、白いサーフボードを載せた姿は若者の憧れとなり、ファミリアの助手席に彼女を載せて鎌倉や湘南をドライブするのがナウい週末の過ごし方となったのです。
当然、海沿いの国道134号線は大渋滞。食事をするにも駐車場に入るだけで数時間かかることもざらにありました。中でも海沿いにある珊瑚礁やデニーズは、駐車場待ちの渋滞が名物になるほど。それもカップルにとって楽しみのひとつ。だって恋人と2人だけの時間をそれだけ長く楽しめるのですから。
さらに渋滞は自分の赤いファミリアを対向車線や歩道を歩く人に見せびらかす時間でもあったから。都心でも渋谷パルコ駐車場の入庫待ちの列に並ぶのがステータスだったりしました。
ピニンファリーナが手掛けたオープンモデル
80年代にはファミリア以外にも一大ムーヴメントを起こしたハッチバックがありました。その代表格が、1981年11月に登場したホンダ シティ。
これまでのハッチバックになかった斬新なトールボーイスタイル、M・M(マンマキシマム・メカミニマム)思想による広い室内、2本ステーのオシャレなフェンダーミラーに代表される高いデザイン性、乗用モデルで76万円〜という買いやすい価格帯などが受けて爆発的にヒットしました。当時話題になったマッドネスが出演するCMがシティの販売を後押ししたことを覚えている人も多いでしょう。
そんなシティは1984年7月に派生モデルであるシティカブリオレを発売。前年に登場したシティターボIIをベースにルーフをカットして幌を被せた姿は、ボクシーな中にもエレガントな雰囲気がありました。この幌をデザインしたのはピニンファリーナです。
これまでなかったスタイルのオープンカーで海沿いや街なかを流すのも、サーファー(および陸サーファー)のオシャレなスタイルとなりました。幌を開けてリアシートにサーフボードを刺した姿は青空の下によく似合います。オレンジや黄色、グリーンなどの鮮やかなカラーもアメリカの西海岸を連想させる要素でした。
オープンにもできるワゴン!?
この時代、日産からはアメリカ・西海岸を感じさせるネーミングが付けられたクルマが販売されていました。サニー カリフォルニアです。コンパクトなファミリーセダンであるサニーをベースにしたステーションワゴンで、リアを斜めにスラントさせた姿が特徴的。また、シングルキャブのサニートラックの荷台にサーフボードを載せて海に行くのも王道のスタイルでした。
そんな日産から、1986年に風変わりなモデルが発売されます。それが2代目パルサーエクサです。初代は直線基調のノッチバッククーペでしたが、2代目はクーペに加えてハッチバックとワゴンの中間的な位置づけになるキャノピーを用意。エクサのすごさはクーペ、キャノピーともにキャビン部分のTバールーフを外してオープンエアを楽しめるのはもちろん、運転席後方のリアハッチも外してフルオープンにすることができたことです。
この斬新なアイデアはキワモノ的な扱いを受けたためさすがにヒットモデルとはなりませんでしたが、当時の若者が風を感じながら開放的な気分でドライブを楽しみたいという嗜好があったことが伺えます。そして日本中が浮かれたバブル景気に向かって、自動車メーカー各社が潤沢な開発予算をかけてさまざまな挑戦をしていたことも伝わってきます。
この時代は他にもトヨタ スターレット、トヨタ ターセル/コルサ、日産 マーチ、日産 パルサー/ラングレー、三菱 ミラージュなどのハッチバックが発売されていて、当時の若者たちが仲間とのドライブや恋人とのドライブデートを楽しんでいました。
高級路線を突き進んだハイソカーが登場し、デートカーと呼ばれる2ドアスペシャリティクーペの人気が高まる中でも、各社のエントリーモデルであるハッチバックに勢いがあると、多くの若者がクルマに夢中になり、豊かな想像力を駆使してさまざまな文化を築き上げていく。80年代のファミリアやシティカブリオレのヒットはそんなことを感じさせてくれる出来事でした。
(文:高橋 満<BRIDGE MAN> 写真:マツダ、Honda)
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