初代レガシィが切り開いたワゴンブーム。季節を問わない万能のモテ車・・・1980~90年代に輝いた車&カルチャー
多くの若者がクルマに憧れた1980〜90年代。クルマは人や荷物を運ぶ道具としての役割だけでなく、若者たちのカルチャーを牽引する存在でした。そして、ドライブがデートの定番であり、クルマを持っていることがステータスでした。
だからこそ当時のクルマは、乗っていた人はもちろん、所有していなかった人、まだ運転免許すら持っていなかった人にも実体験として記憶に刻まれているのではないかと感じます。
そんな1980〜90年代の記憶に残るクルマたちを当時のカルチャーを添えながら振り返っていきましょう。
突如沸き起こった大パワー4WDワゴンブーム
三菱 パジェロのパリ・ダカールラリー(パリダカ)での活躍により1980年代後半から沸き起こったRVブーム。これと並行する形で発生したのがステーションワゴンブームでした。このムーヴメントを牽引したのがスバル レガシィツーリングワゴン(BF系)であることは言うまでもありません。
スプリンターカリブ、マークII、クラウン、セドリック/グロリア、サニーカリフォルニア、ファミリア……日本にも多くのステーションワゴンがありましたが、イメージ的にライトバンの雰囲気が拭えなかったこと、またデザイン的にもいまいち垢抜けなくて、1980年代まではステーションワゴンを選ぶのはコアな趣味を持っている人が多かったように感じます。
筆者が中学まで入っていたボーイスカウトのリーダーがカリブに乗っていたのですが、いかにも山男という感じの人でしたし。
1989年2月にレオーネからスイッチされた初代レガシィは、『10万km耐久走行における走行平均速度223.345km/h』という世界記録を樹立したことを前面に打ち出して登場。当時まだ10代だった筆者はその偉業がよくわかりませんでしたが、「なんだかすごいクルマが出たみたいだ!」と感じたのを覚えています。
しかも速度記録を打ち立てたのがいわゆるスポーツカーのルックスではなくセダンとワゴンの形をしたクルマなのですから、余計に驚きました。
同年9月には最高出力200psを発揮する2L水平対向4気筒ターボを搭載した『GT』が登場。ボンネットに開いたエアインテークの迫力とハイパワーターボ、4WDの安心感が相乗効果となり、レガシィ、中でもツーリングワゴンは大ヒットしました。
レガシィツーリングワゴンが大ヒットしたのは、アリゾナで証明したGT性能と耐久性はもちろん、スマートなデザインも大きな要因でした。メルセデス・ベンツ 300TE(S124)やボルボ 240エステートなどの輸入ワゴンと並んでも気後れしない雰囲気は、他の国産ステーションワゴンにないものでした。
季節を問わず女子受けがよかったレガシィツーリングワゴン
レガシィツーリングワゴンに乗ってスキーに行くのは当時の憧れでした。1990年代前半はまだそこまでスタッドレスタイヤが普及しておらず、雪が降るとタイヤにチェーンを巻くのが当たり前だった時代。筆者も溶けた雪でぐちゃぐちゃにぬかるんだチェーン脱着場で長靴を履き、必死にチェーンを巻いていました。
そんな筆者たちを尻目にスタッドレスタイヤを履いたレガシィが脱着場を通り過ぎてそのままチェックエリアをパスしていくのを見るたびに悔しさを味わいました。そして再び目を下ろしてチェーンを付け始めると助手席で待っている彼女から「まだぁ……?」と声がかかり、なんとも情けない気分になるのです。
関越自動車道を使って湯沢や石打方面のゲレンデに向かうと、群馬の赤城高原あたりでチェーンを付け、関越トンネル手前で一度チェーンを外し、トンネルを越えたらまたチェーンを付けなければなりません。その面倒臭さに怒りが込み上げてきて、「俺もいつかレガシィに乗ってやる!」と心に誓ったものです。そして中古車でしたが筆者は25歳で本当に初代後期型のレガシィツーリングワゴンGTを購入しました。
三菱 パジェロやトヨタ ハイラックスサーフは週末にゲレンデに行くのではなく、スキー板をルーフに積んで渋谷や六本木でナンパをしている“陸スキーヤー”が乗ったりもしていました。でもレガシィにはそういうイメージがありません。ここは当時のRVとノリが違う部分です。
それよりも会社や学生時代の女の子たちを誘って数台のクルマを連ねてゲレンデに向かう楽しみ方をしている人が多かったように思います。
親が別荘やリゾートマンションを持っている友人がいたら最強ですが、いない場合によく利用したのは貸別荘。人目を気にしなくていいので、スキーを楽しんだら夜は合コン気分で騒いでいましたね。レガシィツーリングワゴンは森の中にあるコテージにもよく似合うクルマでした。
そして冬だけでなく夏はテニスやキャンプ、バーベキューなどを仲間と楽しむ。もちろんセダンベースな上にライトバンっぽさもないので都市のオシャレな街を走らせても違和感がない。レガシィツーリングワゴンはそんな“万能感”が魅力でした。
「打倒!レガシィ」としてホンダが投入したアコードワゴンとオルティア
スバルがレガシィツーリングワゴンを大ヒットさせてステーションワゴンブームが沸き起こると、他のメーカーも相次いでワゴンを市場に投入します。中でもレガシィツーリングワゴンのライバルとして人気があったのが、1991年4月にデビューしたホンダ アコードワゴンでした。
レガシィツーリングワゴンが5ナンバーだったのに対し、アメリカで生産される初代アコードワゴンは全幅が1725mmで2.2L直4を積む3ナンバー車でした。テールゲートに大きく傾斜がつけられたスタイルはクーペのようなイメージがありとてもスタイリッシュでしたが、その分積載性はやや劣っていました。
また、駆動方式はFFのみだったので、春から秋はいいけれど、冬になるとやや機動力が落ちるのが難点でもありました。
1996年にはアコードよりも一回り小さな、シビックベースのステーションワゴンであるオルティアが投入されます。
エンジンは1.8Lと2Lの2種類が用意され、FF以外にデュアルポンプ式の4WDも設定。上級グレードのGX-Sにはアウトドアテイストを盛り込んだバンパーが付けられました。バックドアにはガラスハッチを採用するなど、レガシィにはない利便性が盛り込まれたのも特徴です。
トヨタはカルディナでスポーティさを押し出す
<引用>
トヨタ自動車75年史
トヨタは1992年11月にコロナベースのカルディナを投入。カルディナはスポーティさを前面に押し出していたのが特徴。大型ガラスルーフを搭載したスカイキャノピー仕様が用意されたのもユニークな部分でした。1995年には175psを発生する2L直4DOHCエンジンを搭載したTZ-Gが追加設定され、スポーツ色が一層強調されました。
ただ、初代はワゴンだけでなくバンも同時発売されたこともあり、ライトバンのイメージを払拭したとはいえませんでした。1997年9月のフルモデルチェンジ以降は初代モデルが2002年まで継続して販売されましたが、それでもライトバンのイメージが払拭されていきます。
日産はアベニールとステージアでレガシィに対抗
日産はレガシィの対抗馬として、アベニールを投入します。欧州仕込みの乗り味と5ナンバー車とは思えない広い空間を実現した名車・初代プリメーラのワゴン版であり、使いやすい荷室とスポーティな走りが売りのワゴンでした。4WDシステムはアテーサが搭載されました。
1995年のマイナーチェンジではワゴンモデルに“サリュー”というサブネームが付けられ、リアにガラスハッチが採用されるなど、商品力が強化されています。
1996年10月には、アベニールやレガシィより一回り大きなスポーツワゴン・日産 ステージアを市場に投入します。プラットフォームはR33スカイラインと共有。“プレミアム・ツーリングワゴン”というキャッチコピーからもわかるように、5ナンバーサイズのワゴンにはない高級感が盛り込まれたモデルです。
ルーフ後端を後ろまで延ばしてテールゲートをほぼ垂直に立たせることで、ラゲッジスペースを最大限広く使っているのはボルボのエステートなどにも見られる手法でした。
1997年にはR33スカイラインGT-Rと同じRB26DETT型エンジンや電動SUPER HICAS、ブレンボ製ブレーキなどを搭載したオーテックバージョン260RSも登場。独自の世界観を築き上げました。
三菱はギャランのステーションワゴン「レグナム」を投入
1996年にフルモデルチェンジした8代目ギャランのステーションワゴン「レグナム」。ランサーエボリューションが登場するまではギャランVR-4が世界ラリー選手権(WRC)に参戦。8代目ギャランとレグナムのVR-4も最高出力280psを発揮する2.5L V6ターボを搭載。威圧感のあるガンダム顔も相まって、コアなファンを獲得しました。
レガシィのワゴンスタイルは3代目が完成形。4代目からは異なる路線に
レガシィツーリングワゴンの大ヒットにより各社が“打倒レガシィ”という目標を掲げたステーションワゴンを次々に投入しますが、レガシィの牙城を崩すことはできませんでした。
そんな中、日本では1990年代中盤以降にミニバンブームが到来。大人数で移動できて荷物もたくさん積めるミニバンはファミリー層を中心に広がっていきます。しかし、ミニバンにはない走りの良さなどが支持されて、ステーションワゴン(特にレガシィツーリングワゴン)はアウトドアレジャーを楽しみたい人たちにとっての定番でありつづけました。
そんな流れに変化があったのは2003年だったように思います。レガシィが4代目(BL/BP系)へとフルモデルチェンジし、ボディサイズが3ナンバー化されました。エクステリアデザインもスマートでボクシーな雰囲気からエレガント感のあるイメージに変わります。
これはあくまでBF(初代)とBH(3代目)と2台のレガシィツーリングワゴンを乗り継いだ筆者の個人的な感想ですが、BP(4代目)にフルモデルチェンジしたときに、「だいぶ変わったな」と思いました。そしてその変化がツーリングワゴンよりもレガシィのSUVであるアウトバックに似合っていると感じたのです。
レガシィシリーズには2代目からグランドワゴンという最低地上高を高めたSUVも設定されていました。その後グランドワゴンはランカスターという名称になり3代目(BE/BH系)にも設定されます。そして4代目で北米と名称を揃えたアウトバックに変更されました。
実際、販売台数はツーリングワゴンがもっとも多かったものの、BPからアウトバックの注目度が高くなったと記憶しています。これにはクロスオーバーSUVへの注目度の高まりもありましたが、レガシィ自体の世界観がそちらにシフトしていったのでしょうね。そして日本でステーションワゴンの注目度は徐々に下がっていきました。
現在はSUVがアウトドアレジャーを楽しむ人たちに好まれているのはご承知の通り。レガシィツーリングワゴンはレガシィシリーズが6代目へとフルモデルチェンジする2014年10月で廃止され、代わりに2014年6月からレガシィシリーズから独立した日本市場向けのレヴォーグを生産しています。
90年代にレガシィツーリングワゴンが湧き起こした一大ムーヴメントは、日本国内に限って言えば現在のSUVブームに匹敵するものでした。しかもそれがRVブームやミニバンブームと並行して起こっていたことから、当時の人々のレジャーに対する関心の高さと(バブルが弾けたとはいえ)今より景気がよかったのだなということが伝わってきます。
(文:高橋 満<BRIDGE MAN> 写真:SUBARU、本田技研工業、日産自動車、三菱自動車工業、トヨタ自動車)
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