ヤバい中古車は21世紀も健在か!? 自衛のための「1万時間」とは【伊達軍曹の『中古車こんにちはごきげんようさようなら』】

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筆者がまだ若者に属する年齢だった30年前ほど前の日本では「中古車業界=ヤバい業界」というのが定説で、実際、中古車専門誌の記者だった記者は、ヤバい販売店や販売物件にもしばしば出くわしたものだ。

だがその後、時代は変わった。業界全体は大いにクリーンになり、透明性も増した。さらには国内大手自動車メーカーや輸入車インポーターなども、自社ブランドの認定中古車事業を展開するようになった。そういったメーカー系販売店で買うようにすれば、中古車といえどもビビる必要などまったくなく、また町の一般的な中古車販売店で購入する場合でも、今や不安要素はほとんどない。

これは、考えてみれば当たり前の話でもある。

町の販売店で売られている中古車の年式と走行距離は、もちろんケース・バイ・ケースではあるものの、「3年落ちで3万km」「5年落ちで5万km」みたいな場合が多い。そしてそういった年式と走行距離は、そのへんの国道や駅前の道路などを、所用があって今も普通に走っている車とほとんど同じであり、何も変わるところがない。駅前の道を普通に快調に走っていたはずの車が、中古車販売店の展示場に移動した途端、エンジンと足回りの具合がおかしくなり、内装からは耐え難い異臭が発生しはじめる――などというオカルト的な話は絶対にないのだ。

そして中古車販売店の店頭に並んでいる中古車とは、「そのへんの道を普通に元気に走っている数年落ちの車」と、実はまったくのイコールコンディションではない。中古車とは、もともとそんなに悪くはない状態の車両に、さらに「内外装のクリーニング」と「必要なメンテナンス」を加えたものなのだ(※より正確に言うのであれば、「必要なメンテナンス」は売買契約締結後に行われることも多いのだが)。

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それゆえ、業界がクリーン化された以降の昨今の中古車については「過剰にビビる必要などいっさいない」と、筆者は申し上げているわけだ。

だが――以上のことは「基本的には」という条件付きの話である。

昨今の中古車における基本は前述のとおりなのだが、何事も、例外は必ず存在する。治安が非常に良い、いい人丸出しな人間が多い我が日本国であっても、やはり一部には極悪な犯罪者もいるのと同じで、中古車業界の一部にも、いまだ「ヤバい店」や「ヤバい販売スタッフ」は生息しているのだ。

そして、そんなヤバい中古車販売店が「極悪モータース株式会社」などという社名を掲げながら、チンピラまがいの格好をした店員を雇っていてくれればわかりやすくて良いのだが、実際は、残念ながらそうではない。ごく普通の社名を掲げ、こぎれいなスーツ姿のスタッフを雇いながら、そこそこおしゃれなショールームにて、ホメられたものではないビジネスをしている中古車販売店が(ごく一部にだが)存在しているため、話はややこしくなるのである。

ごく一部のヤバい系中古車販売店を避けるには、「とにかくメーカー系販売店で買うようにする」と決めるのもひとつの手段ではある。だがメーカー系販売店では扱われていない車種や年式が欲しい場合には、この手法は無効になる。また中古車というのはメーカー系販売店の店頭以外にも、ステキな物件は星の数ほど存在している。そのため、わざわざ自分の世界を狭めてしまうことにもなるこの手法は、個人的にはあまりおすすめできない。

であるならば我々は、ごく一部に存在する「ヤバい販売店」や「イマイチな販売店」から、どうすれば身を守ることができるのだろうか?

身を守るための手法のひとつは、「中古車および中古車販売店の見きわめ術を会得するため、1万時間を投じてみる」というものだ。

どんなジャンルのことでも約1万時間を投じれば、おおむねプロレベルに達する場合が多い。筆者の場合は20代から30代にかけての1万時間以上を「中古車専門誌の記者」という職業に投じたため、今となってはヤバい中古車販売店の入り口から半径50mほどの地点に近づいただけで、そのヤバさを知覚できるという特殊能力を持つにいたった。

とはいえこの手法は、一般的にはきわめて非現実的である。1万時間を達成するは、1日3時間の活動を毎日休みなく続けたとして約9年間、そして1日8時間、休むことなく中古車のことばかり考えていたとしても、3年以上かかる。さすがにそれは無理であり、またほとんどの人が中古車を買いたいと思うのは「今」であって、3年先や9年先のことではない。そのため、どうしたって無理があるのだ。

ならばどうすれば良いかといえば――1万時間以上を中古車および中古車販売店の取材活動に投じた筆者が得た、とりあえず一般の人でも実行しやすい手法は「押しが強すぎる販売店や販売スタッフはパスする」というものだ。

ヤバい販売店やイマイチな販売店は、とにかく押しが強すぎる場合が多い。もちろんどんな中古車販売店であっても押してはくるものだが、ダメな店は、押しが過剰なのだ。

  • 自車とキー

自分の車で店に行くと、とにかくその車の買い取り査定を受けろと強く押してくる。査定をすれば(※実際に査定作業をするかどうかは別として)、見込み客を30分から1時間ほどとりあえず店内にとどめ置き、その時間を活用(?)して徹底的な売り込みをかけることができるからだ。

そしてヤバい販売店やイマイチな販売店は、とにかく「オプション」を押してくる。30年前と違い、昨今はSNSなどを通じてさまざまな情報がユーザーの間で共有されているため、車両本体や諸費用の部分で過剰な利益を得る行為は難しい。そのため、ヤバい販売店やイマイチな販売店はやたらといろいろなオプションを、それも、詳しい人が自分でやれば数百円か数千円のコストで済んでしまうような作業を、数万円レベルの価格でぶつけてくる場合が多い。

もちろんこれも、本当に「付けたほうが絶対にいいオプション」を、プロとして適切に勧めてくる場合もあるため、「オプションを勧めてくる=ヤバい店」という話では決してない。だがとにかく、「この販売員……なんだか妙に圧が強いというか何というか……」というニュアンスを感じた場合は、その販売店はパスするのが賢明となるだろう。

とはいえ本稿の前半で申し上げたとおり、昨今の中古車業界では、このような無体をはたらく販売店は少数派となっており、大半のショップでは、ごく普通に気持ちよく買い物をすることができる。それゆえ過剰にビビることなく、筆者が挙げたいくつかのポイントだけをなんとなく確認しながら、中古車の購入を楽しんでほしい――というのが本稿の趣旨である。

(文:伊達軍曹 写真:Adobe Stock)