時代の空気 初代トヨタ・セリカXX・・・懐かしの名車をプレイバック

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2代目「セリカ」の上位グレードとして登場した「セリカXX」。全長とホイールベースを大きく延長し、長く伸びたボンネットの下には直列6気筒エンジンが収められていた。現代であればコアなクルマ好きに向けた商品といえるだろうが、当時は若い女性がさしたる抵抗もなく選んでいた。そういう時代のクルマである。

マイナーブランド党のわが家

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遠い記憶のなかで、家にあったクルマの最古の思い出は「日野コンテッサ」である。1960年代の後半だから、2代目モデルだったはずだ。ミケロッティがデザインした優美で繊細なフォルムが好きだった。それから30年ほど後に「ダフ44」を衝動買いしてしまうのだが、ミケロッティが手がけていたことは知らなかった。幼いころの刷り込みで、好みが決まってしまったのかもしれない。

雨の日はワイパーが悲しげな音を立てるのを、うっとりと聞いていた。小さくてパワーのないクルマだったが、あのころは十分にファミリーカーの役割を果たしていたのだ。買い替えの時期がきて、次にやってきたのは「いすゞ・ベレット」である。コンテッサと比べると、ちょっと強そうで野生の匂いがした。

クルマにもいろいろあるのだと知ったわけだが、見た目以上に大きな違いがあることに驚いた。トランクが後部にあったのだ。コンテッサはRRだから、トランクは前にある。それが当然だと思っていて、大多数のクルマはエンジンが前でトランクが後ろだということに気づいていなかった。

そもそも、家のクルマが日野やいすゞばかりというのがどうかしている。どちらも今は乗用車を製造していないメーカーだ。当時だってマイナーなチョイスだったに違いない。しかも、住んでいたのは愛知県名古屋市だ。トヨタのお膝元である。今思えば、近所ではみんなトヨタのクルマに乗っていた。へそ曲がりの父は、まわりと同じが嫌だったのだろう。

異彩を放つリフトバックボディー

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ベレットが生産終了すると、「ジェミニ」が家にやってきた。すっかりいすゞ党である。大学生になって東京に出ると、実家に戻るのは長い休みの時期だけになった。何年生だったか、冬休みに帰るとガレージに黒いクルマが止められていた。リアにはなんと「TOYOTA」の文字が記されている! 宗旨変えしたのかと思ったが、ジェミニも残されていたから買い足したらしい。

事情を聞いてみたら、買ったのは姉だった。運転免許を取得したばかりなのに、自分のクルマが欲しくなったのだ。セリカXXという名で、ドアは2枚しかない。リフトバックというボディーだそうで、速そうに見える。黒のエクステリアカラーが力強さを発散しているようだ。びっくりしたのは、リアウィンドウまで真っ黒だったことである。これでは後ろが見えないではないか。

もちろん、黒く塗られていたわけではない。ブラックカラーのルーバーが装着されていたのだ。一見すると視界がふさがれているようだが、真横から見るとちゃんと隙間が確保されていた。純正かアフターパーツかはわからないが、そういうルックが好まれていた時代である。悪そうに見せることが大切だったのだ。

セリカXXは当時の人気モデルである。日本初のスペシャルティーカーとして登場したセリカが2代目になり、上級グレードとしてXXが追加された。6気筒エンジンを搭載し、ハイパワーと高級感を追求していた。スポーティーな走りがウリになっていたはずだが、威圧感のある見た目が好まれたのも確かである。オールブラックにすることで、コワモテ風味が増強されていた。

イージードライブの恩恵

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どちらかというと、ちょっとヤンチャなライフスタイルの若者が好むクルマだった。まだ不良文化は衰えを見せておらず、大きな音を立てて暴走することをカッコいいと感じるのがスタンダードだったように思う。姉はそういうグループに所属していたわけではないが、時代の空気と無関係であったはずがない。ごく普通の人々のなかに、ヤンキー的気質が潜んでいるのは今も同じである。

セリカXXには画期的な装備が付いていた。4段ATである。3段が当たり前だったころなので、かなりぜいたくな仕立てと感じられたようだ。姉のクルマはもちろんATである。MTだったら買わなかったに違いない。イージードライブでイキることができるようになったことは、ユーザーに計り知れない恩恵をもたらしたのだ。

納車された直後で、ボディーはピカピカである。姉は得意げに乗り込み、初ドライブに出かけていった。それから1時間たっても2時間たっても戻ってこない。3時間が過ぎようとしたころ、警察から電話がかかってきた。事故か、と色めき立ったが、そうではない。うっかり高速道路に入ってしまい、戻れなくなったという。かくして、警察の先導で帰宅するという珍しい体験をすることになった。

姉がセリカXXに乗っていた期間は短かったと思う。最初にケチがついたので、愛着が持てなかったのだろうか。理由はそれだけではないだろう。何年か後に姉が買ったのは「アウディ80」だった。ボロボロの中古だったが、オシャレ感だけは振りまいていた。これも、時代の空気である。今はSUVにあらずんばクルマにあらずという雰囲気だが、後になって苦笑交じりに振り返ることになるのかもしれない。

(文=鈴木真人)