一世を風靡した赤いファミリア 1980年登場の5代目「マツダ・ファミリア」を振り返る・・・懐かしの名車をプレイバック
後輪駆動から前輪駆動に転身し、ときには日本を代表するベストセラーモデル「トヨタ・カローラ」をしのぐ台数を売り上げた5代目「マツダ・ファミリア」。若者からの圧倒的な支持により、一大ブームを築き上げるまでになったのはなぜか。人気の理由を探りながら、当時を振り返ってみたい。
先進技術にこだわる社風
マツダの歴史を語るとき、忘れることのできないのが1950年に登場した「CT型」というモデルである。ペットネームすら冠されていなかったこの車両は、実は三輪のトラックだ。
しかしトラックといえども、当時の乗用車がまだサイドバルブ(SV)方式のエンジンを搭載していた時代に、このモデルのV型2気筒エンジンは、より高出力化が図れるオーバーヘッドバルブ(OHV)方式やタペット音を低減する油圧ラッシュアジャスターなどの先進的でぜいたくな機構を採用。さらに、採用義務のなかった時代にもかかわらず、より安全という理由からウインドシールドには合わせガラスを用い、キック式スターターが当たり前だった時代にセルモーターを採用していた。その最先端をいくメカニズムは、日本の自動車業界をリードするものとして注目された。
かくして後に四輪トラック、そして軽乗用車へと事業を拡大していった、当時はまだ東洋工業が正式社名だったこのメーカーは、1961年に「マツダ700」という小型乗用のコンセプトカーを東京モーターショーに出展。いよいよ総合自動車メーカーへ名乗りを上げるかと思われたものの、「小型車は時期尚早」という社内外の声に押されて翌1962年に発売されたのは再度の軽乗用車である「キャロル」だった。
しかし、いよいよ機は熟したとしてさらにその翌年の1963年に登場したのが、左右各1枚のドアと上下2分割のテールゲートを備える小型バンのファミリアである。そこに搭載された800ccエンジンは水冷4気筒のOHVで、1964年に登場したセダンに搭載されたその拡大版となる1000ccユニットともども、後に「白いエンジン」と呼ばれる由来となったオールアルミ構造を採用していた。当時のマツダは、ダイキャストやシェルモールドといった時代を先取りする鋳造技術や加工技術の素地(そじ)をすでに有していたのである。
発売から2年3カ月で生産100万台を達成
”家族そろってドライブへと出かける”という思いが込められ、イタリア語の「家族」の意からファミリアとネーミングされたモデルのなかでも、1980年に発売された5代目は昭和のマツダを代表する名車として今も記憶されている。
当時をリアルタイムで知る人には「初めてFFレイアウトを採用し、空前のヒットを飛ばしたファミリア」と紹介したほうがわかりやすいかもしれない。デビュー直後にノッチバックセダンが追加され、よりパワフルなターボエンジン車が登場するなどバリエーションは拡大されていったが、多くの人の記憶に残るのは、やはりデビュー当初から設定されていた1.5リッター直列4気筒エンジン搭載の3ドアハッチバック「XG」である。このスポーティーなグレードに、「サンライズレッド」と呼ばれる赤いボディーを持つXGは一世を風靡(ふうび)した。
とにかく発売直後から、このファミリアXGは売れに売れた。実際、発売からわずか1年半で生産50万台、2年3カ月で生産100万台を達成。無敵と思われていた「トヨタ・カローラ」を販売台数でしのぐ月もあり、9代を数えたファミリアの歴代モデルのなかでも5代目の生産台数は圧倒的であった。
クリーンでシンプルな直線基調のエクステリアデザインはもちろんだが、フロントシートを前方にセットしヘッドレストを外して背もたれを倒せば、リアシートのクッション部分と段差なしでつながるフルフラットシートにアレンジできたことや、リアに当時の担当デザイナーが自宅のソファにヒント得て開発したという「ラウンジソファシート」が採用されたことなど、従来のモデルにはない多彩なアイデアが盛り込まれていたのも人気の秘密として挙げられる。
さらに、当時はまだ珍しかった電動スライドサンルーフがXGに標準装備されていたことも、このグレードに人気が集中した理由のひとつと考えていいだろう。ちなみに、その他一部の上級グレードには手動式のスライドサンルーフがオプション設定されていたというのも時代を感じさせてくれる。
ファミリアのヒットで息を吹き返す
そんな5代目のファミリアを振り返ると、大学生時代に片道2時間ほどをかけて友人宅までドライブした思い出がよみがえる。ただ、残念ながらそれは前出のXGグレードではなかった。なぜそう言い切れるかといえば、そのとき乗ったモデルでは、天井の前端部分に付いていた手巻き式のハンドルをグルグルと回してサンルーフを開閉した記憶が鮮明に残っているからだ。XGではそれが電動式。すなわち、自身でドライブした経験があるのは同じ1.5リッターエンジンを搭載しながらも手動式サンルーフが設定されていた「XL」グレードということになるわけだ。
まだ学生時代ゆえ試乗時の様子を記録していたわけでもなく、正直、走りのフィーリングをしっかりと思い出すには至らない。ただ、すでにパワーステアリングが装備されていたこともあって、当時のクルマを語るときの常套句(じょうとうく)たる「前輪駆動の極端な重ステに辟易(へきえき)した」というような記憶や、フロントヘビーを意識させられたようなネガティブな印象もなく、大きなグラスエリアを持った軽快に走ってくれるクルマだな、と感じたことは覚えている。
いっぽうで、まだまだ珍しかったサンルーフを面白がって何度も開閉させながら、天井のハンドルをグルグルと回すためには取りあえずいったんクルマを止めてからでないと危ないな、と妙なところで冷静だったことは今でも鮮明に思い出せる。そう考えると、マツダ車に限らずサンルーフがいち早く電動化されていったことは当然の成り行きだったのだろう。
ちなみに、そんな5代目ファミリアが大ヒットしたことで、マツダは1973年の中東戦争を契機としたオイルショックによる瀕死(ひんし)の状態から、息を吹き返した。
こうして、マツダのヒストリーとともに40年ほどを歩んできたファミリアのブランドも2003年には「アクセラ」へと、さらにグローバルで用いられてきた「マツダ3」へと変更され現在に至っている。
(文=河村康彦)
5代目マツダ・ファミリア(1980年~1985年)解説
先代と同様の2ボックスのハッチバックスタイルを継承した5代目「ファミリア」は1980年に登場した。デザインは直線的なウエッジシェイプを基調とするスポーティーなもので、角型のヘッドランプや横長のリアコンビランプが新世代を印象づけた。
エンジンは最高出力74PSの1.3リッター直列4気筒SOHCと、同85PSの1.5リッター直列4気筒SOHCの2本立てとなり、4輪とも独立式のストラットサスペンションが採用されていた。フルフラットにまで倒すことのできる前席の背もたれや、左右2分割で前方へ折りたためる後席背もたれはリクライニングの角度調整もできる便利な機能を備えていた。
スポーティー仕様の「3ドア1500XG」は、後席背もたれと側面の内装が丸みを帯びて連続する「ラウンジソファシート」を採用し、後席の快適性が高められていた。電動サンルーフを標準装備とするなどした“赤いXG”は、とくに若者を中心に人気を呼んだ。1983年6月には、3ドアハッチバックと4ドアサルーンに、ファミリアで初めてとなるターボエンジン車を設定。1.5リッター直列4気筒SOHCターボエンジンは、最高出力115PSを発生。60偏平タイヤや前席に大型バケットシートを装備した「XG-R」も登場した。
5代目ファミリアは国内外で評価され、「1980-1981日本カー・オブ・ザ・イヤー」の栄誉に輝いたほか、同年度の「ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤー」で4位、米『CAR&DRIVER』誌による「最も意味深い新車賞」、豪州『ホイールズ』誌の「1980カー・オブ・ザ・イヤー」なども受賞した。
5代目マツダ・ファミリア諸元
5ドアハッチバック1500XE乗車定員:5人
重量:815kg
全長:3955mm
全幅:1630mm
全高:1,375mm
ホイールベース:2365mm
エンジン型式:E5
エンジン種類:直列4気筒
排気量:1490cc
最高出力:85PS/5500rpm
最大トルク:12.3kgf·m/3500rpm
サスペンション形式: (前)マクファーソンストラット、(後)ストラット
(GAZOO編集部)
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