[S耐クルマ好きFile/ トレーシースポーツ]「クルマを作るのが楽しい!」というチームオーナーを中心に広がる『クルマ作りの輪』
11月21日~22日、ツインリンクもてぎにて「ピレリスーパー耐久シリーズ」(以下S耐)の第4戦が開催されました。第2戦、第3戦は8つのクラスを2つに分け別々の3時間のレースを行なってきましたが、今回から最終戦までは全てのクラスの混走で5時間を戦います。長くて賑やかな第4戦は予選、決勝ともにドライコンディションでの戦いとなりました。
S耐でクルマを楽しんでいる、クルマの楽しさを広めようとしている人を紹介するこの連載企画では、これまでレースに参加するのが楽しい、新たなチャレンジに挑むことを楽しんでいる方々などを取り上げてきました。
今回は、S耐の魅力でもある、さまざまな市販車ベースのマシンが走り、ワンメイクレースなどより幅広い範囲の改造、パーツの使用が許可されているということを存分に活かし、「クルマを作る」ことを楽しんでいるチームを取材しました。さらに、ヒトとヒトをつなぎ、ともに成長し、さらに成長の場を提供しているチームオーナーの熱い思いもうかがうことができました。
そのチームは、老舗チーム「TRACY SPORTS」(以下トレーシースポーツ)さんです。S耐をはじめ様々なカテゴリーのレースでマシン製作やメンテナンス、レースマネジメントを行なっており、その企業理念は「走る楽しみを最高の楽しみに」。
この企画のコンセプトにピッタリ!?
S耐は『参戦マシンを自分で作れる』から面白い!
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チーム代表 兵頭信一さん。これまで、シビック、S2000、NSX、レクサスIS、RCなど、さまざまなクルマを作りS耐に参戦し続けています。
まずは、独立して37年、S耐に初期から参戦するトレーシースポーツ代表の兵頭信一さんにお話をうかがいました。
「昔からクラブマンレースやシビックレース、アルテッツアレースとか色々とやってきたし、ポッカ1000など長いレースも色々と参加したけど、その中でもS耐が一番面白い!」とインタビュー冒頭からS耐推し。
「自分たちで作ったクルマを走らせるのが楽しい」と語る兵頭さんにとって、それが叶うS耐は数あるレースの中でも最も魅力的なレース。
過酷なサーキットでの走りを想定していない量産車を、レースで目一杯走らせるためには様々な工夫や改良が必要で、「熱と振動の対策がなかなかしんどい。耐久レースだから弱いところは補強しなければいけないし」と言いつつ、「走らせるたびに色々なことがわかってくるんです」と話す姿もちょっぴり嬉しそう。
とはいえ、マシンをどのように改造をしてもいいというわけではなく、ワンオフではなく認定パーツを使用しなければいけないのがS耐の基本的なルール。
トレーシースポーツは、他には参戦していないクルマでS耐に参戦することも多く、それゆえ、さまざまなパーツメーカーと共同で市販できるパーツを開発し、その都度特認申請を行いながらマシンに使用して戦闘力を高めていくことも多いそうです。
さらに、同じマシンで戦うチームは、コース上ではライバルですが、情報共有しながら、更なるパーツ開発を進めています。
「長く参戦しているし、勝って実績も残してきているので、パーツメーカーさんとは信頼関係をもって一緒にパーツの開発ができていると思います。実際いろいろなことを試していますし、小さなことの積み重ねがマシンを速くしていくと思います」
「同じマシンを使うチームとも情報共有し、パーツも同じものを使っているのは、レースはライバルがいるから面白いわけで、一人で戦っていてもしょうがないでしょ。それぞれがパーツを開発するといらんコストがかかるし、コストを下げるためにも声を掛け合っているというのもあります」
トレーシースポーツの「クルマ作り」とは、自チームの参戦マシンを作るということだけでなく、パーツメーカー、同じマシンを使うチームといった『仲間』と一緒に作り上げていくことであり、それが「クルマを作るのが楽しい」という本質なんだということを教えていただきました。
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TRACY SPORTS WINMAX RC350 TWSが参戦するST-3は、同じRC350やフェアレディZ、クラウンらが僅差のバトルを繰り広げます
さらに、兵頭さんは「クルマ作り」のみならず、「ヒト作り」にも力を入れています。
「すでに完成したクルマを買ってきてプロドライバーを雇って走らせればお金だけで済みますが、それじゃ面白くないんです。クルマも作るしドライバーの教育もする。そんなドライバーが速くなっていくのも面白い。実際にウチのクルマに乗った後、スーパーGTのドライバーになった選手は何人もいます。ウチで昔キャンギャルをやってた人がマネージャーになったりもします。これも楽しいんですよね」
「そして僕が引退しても後の者が続けていけるような体制は作っていかなきゃならない。もう終わりなき戦いですよ」と笑顔で語る兵頭さん。
ヒトを育てることも「クルマ作り」の楽しみの一つなのですね。
一方で、「足腰立つ限りは参加しなくちゃおもしろくないし、実は今でもドライバーとしても出場する気満々なんですよ。現在のレギュレーションではスポット参戦しにくいのですが、速い遅いではなく、ただただ乗りたいんです!」と兵頭さん。引退などまだまだ遠い先の話のようです(笑)。
メカたちの頭は、四六時中クルマでイッパイ!?
さて、走っても楽しい、作っても楽しいと語る究極のクルマ好きの兵頭さん率いるトレーシースポーツですが、メカニックも負けず劣らずのクルマ好きでした。
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エンジン担当メカニックの馬場亮平さん
「仕事は自分のパートをきちんとこなし、他のチームに負けないように努力あるのみ!」と超前向きかつ真面目なコメントをくれたのは、入社12年目のエンジン担当メカニック馬場亮平さん。
チームに対しては、「トップを争うこと、1ポイントでも多く獲得することへの意識がまとまっていて、勝つためにいろいろ意見を出し合えますし、楽しくやらせてもらっています」と風通しの良さを感じさせてくれます。
特に今年はやりがいを感じる出来事があるそう。
「ドライバーの石井宏尚選手がトヨタ自動車の社員ということで、GAZOO Racingの佐藤さん(佐藤恒治プレジデントのこと)に見に来ていただいたり、開発の方と話をして新しいレクサスにフィードバックしてもらえそうな話を何点かできました」と、レース以外に自分たちが開発してきたノウハウが活用されることに期待しているようです。
ちなみに石井選手はトヨタ自動車のGRブランドマネジメント部に所属しながら、このS耐以外にも全日本ラリーに大柄なレクサスRC Fで参戦するなど、ジャンルを問わずモータースポーツが大好きなドライバーです。
その全日本ラリーでコ・ドライバーを務めるのは寺田昌弘さんで、先日のコラムにも石井選手が登場しています。
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車体担当メカニックの蔵下一穂さん
入社4年目の蔵下一穂さんは車体担当メカニック。最年少ながら色々とやらせてもらえるチームとても感謝しているとのことです。
現在製作中のクルマにも、「自分でクルマに合わせながらロールバーを曲げて取り付けたり、アルミの溶接もしますし、スポット増しもしています。一から作る初めてのクルマなので、デビューが本当に楽しみです!」と満面の笑顔。
兵頭さんの思いに応え、若手のメカニックも難しい仕事をどんどんこなしていけるようになっているようです。
プライベートでも自分のクルマを会社とは別の工場をかりて製作中だそうで、仕事でクルマを作って、仕事が終われば今度は自分のクルマ作り。おまけに自分で走るのも大好きということでクルマ三昧の日々を送っているそうです。
ちなみに、トレーシースポーツのメカニックの方はお酒を飲まない人が多いそうで、仕事が終わってから夜みんなで集まっても、ロガーデータをチェックしながら、あーだこーだとクルマの話ばかりで盛り上がるそうです。
こんな頼もしいスタッフたちがいるからこそ、兵頭さんも自分流の「クルマ作り」を実践できるのではないでしょうか。
ドライバーにはeスポーツ世界王者も!
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大島和也選手(左)と冨林勇佑選手(右)
今回は2人のドライバーにも話をうかがえたのですが、その経歴を聞いてビックリ。冨林勇佑選手はなんと『2016年FIA GTチャンピオンシップ マニュファクチャラーシリーズ』の優勝者。つまりグランツーリスモの世界チャンピオンです。
両親がレース好きだったせいか物心ついた時からすでにクルマもレースも大好きだったという冨林選手は、自動車免許をとった頃にゲームの世界でチャンピオンを獲得。
その流れで自分のクルマでもサーキットを走らせてみたら案外ゲームと変わらない部分も多く感じ、リアルなレースの世界にも挑戦したくなったとのこと。
86/BRZレースにも出場している冨林選手ですが、今年からフル参戦するS耐を、「(86/BRZレースより)緊張感はありますが、レーシングカーである分、運転するのは楽に感じます。しっかり止まるし曲がる、シーケンシャルシフトですし、チームも実績がありマシンの信頼性も高いので、いい環境で走らせてもらってます」と、24歳のルーキーながら自然体で語ってくれます。
気になるゲームとリアルのレースについては、「速く走らせるための基礎的な部分は変わらないですし、ゲームは動きがハチャメチャなクルマもいて、ゲームで培った対応力みたいなものは活きているかもしれません」と言いますが、これは冨林選手レベルのなせる業なのかもしれません。
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クラス3位でレースを終えましたが、表彰台ではご覧の笑顔
いっぽう、普段は不動産関係の仕事をしている大島和也選手はレーシングカートからスーパーFJと王道路線を歩んできたドライバー。
今シーズンは86/BRZレースのプロクラスにも参戦している本格派ですが、トレーシースポーツのことを、「アットホームなチームですが、経験豊かなスタッフのバックアップもしっかりしているので安心してレースに臨めています」と、全幅の信頼を寄せます。
この20代中頃の二人のドライバー、今後の目標として「やっぱりスーパーGTに乗りたいですね」と目を輝かせながら、きっぱり答えてくれました。
実力があるのはもちろん、それだけではなかなか手に入れることが難しいスーパーGTのシートですが、この二人にはその道筋が見えているように感じられました。
それは、実力のある若手を起用し成長の機会を提供していくという兵頭さんの思いと、このチームで成長できているという実感も大きく関係していることでしょう。
取材を通じて、兵頭さんが中心となり、「クルマ作り」、「仲間作り」、「ヒト作り」と、レースに必要となる全ての要素が繋がった「輪」がトレーシースポーツというチームなのではないかと感じられました。
長く続け実績を積み重ねているからこそ、パーツメーカー、同じ車両を使うチームからの信頼も厚く、多くの人材も輩出する。
兵頭さんがS耐のパドックで『おやっさん』と呼ばれ、慕われている理由が分かった気がします。
インタビューした蔵下さんもデビューを楽しみにしているというニューマシンですが、最終戦鈴鹿に向けて鋭意製作中です。
そのマシンは「GRスープラ」です。
トレーシースポーツがGRスープラをどのようなレーシングカーに仕上げてくるのか楽しみですし、今後もいろいろなクルマをレーシングカーとしてS耐で走らせていくことを、観ているこちら側も楽しみにしたいと思います。
執筆 / 撮影: 高橋 学 編集: 山崎リク(編集部)
[ガズー編集部]
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