生まれる時期は選べない 初代トヨタ・スープラ・・・懐かしの名車をプレイバック
「セリカ」ファミリーから独立し、国内でも「スープラ」を名乗った3代目だが、当時の評価はスポーツ性能を突き詰めた最新の5代目(2019年発売)のようなものではなかった。日本車のまさに黄金期であり、何よりも身内のトヨタに魅力的なスポーツカーがあまりにそろいすぎていた。そういう時代だったのだ。
スポーツカー、だったっけ?
思い出は往々にして美化されがちだが、後になってちょっと“盛る”ほどの記憶もスープラにはないというのが正直な気持ちだ。3代目A70型が大好き、という方には本当に申し訳ないが、当時の雰囲気を伝えよ……という再三の依頼なので、やぼを承知であのころを振り返ってみよう。もともと「フェアレディZ」に対抗するためにセリカの上級グレードとして投入されたのが「XX(ダブルエックス)」であり、その名称が成人向けレーティングを意味するとして使えなかった北米ではスープラと名づけられた。1986年から1993年まで生産された3代目スープラは、セリカから独立して国内でもスープラとして販売された最初のモデルで、ハッチバッククーペスタイルの大型GT、あるいは当時のバブル時代を象徴するスペシャルティーカーと見なされていた。当時スープラをスポーツカーとしてとらえている人はいなかったと思う。
なにしろ1980年代末は日本車が躍進した疾風怒濤(どとう)の時代で、まだ若造の自動車雑誌編集部員にとっては次から次へと発売される内外のニューモデルをフォローするだけでとにかく忙しかった。景気が良かったんですな。今は昔の物語です。1989年から1990年にかけてはとりわけヴィンテージイヤーであり、ご存じR32型「スカイラインGT-R」に「ホンダNSX」「ユーノス(マツダ)・ロードスター」、そしてトヨタからは「セルシオ」と、それぞれジャンルは異なるものの、実に力のこもった、世界を驚愕(きょうがく)させたエポックメイキングな日本車が続々と登場していた。
強力すぎた身内のライバル
スープラ発売の翌年の1987年には鈴鹿サーキットでF1日本グランプリが復活開催され、中嶋 悟のフル参戦とフジテレビのプロモーションによって日本中がブームに沸いた。さらに1988年にはトヨタがグループAの「セリカGT-FOUR」によってWRCへの本格参戦を開始。1991年にはマツダが悲願のルマン初制覇を成し遂げている。世界最高峰のモータースポーツへ挑戦する日本メーカーと、その血統をダイレクトに伝える高性能スポーツモデルの百花繚乱(りょうらん)のなかで(ホットハッチも花盛りだった)、どうしてもスープラはちょっと、いやだいぶ影が薄い存在だったのである。誰が見てもトヨタ本体はモータースポーツやスポーツカーに熱心ではなく、「MR2」などのユニークなクルマも結局長続きしなかった。
もちろん、すべてのメーカーが同じことを目指す必要はない。トヨタにはトヨタのビジネスがある。ただし、コンサバなイメージは拭いようがなかった。今とは大違いである。パワフルな“ハイソカー”ということでは「クラウン」や「マークII」三兄弟など、月販3万台も当たり前という飛ぶ鳥を落とす勢いの身内のライバルも数多く、スープラも売れていないわけではなかったが、桁がひとつ違うのではやはり当時は人気モデルとは見なされなかった。
ゆったり流すなら
「ソアラ」譲りの車台(4輪ダブルウイッシュボーン)に2リッターあるいは3リッター6気筒のDOHC 4バルブエンジン、さらにそのターボ版を搭載するなどかなりのハイスペックではあったが、大柄なボディーと長いオーバーハングなどのせいで飛び抜けて高性能というほどでもなかった。スープラは1990年のマイナーチェンジで、最強力版「GTツインターボ」は当時の自主規制いっぱいの最高出力280PSと最大トルク37.0kgf・mを生み出す2.5リッター6気筒ツインターボ(1JZ-GTE型)に換装されたが、昔の『カーグラフィック』を引っ張り出してみると、当時谷田部にあったJARIテストコースで私たちが実際に計測したデータ(2人乗車)は0-100km/h加速6.4秒、0-400mは14.5秒というもの。当時としては俊足ながら(最高速は180km/でリミッターの時代だ)、同じレベルの日本車は何台もあったし、GT-Rにはまったく及ばなかった(同じく5.6秒と13.8秒)。それよりもボディーの建て付けが甘く、足まわりもドタバタした大味でピリッとしないクルマだったことだけが記憶に残っている(ビルシュタインダンパーを装備した「ツインターボR」だけはそうでもなかった)。
細かいことには頓着せず、ゆったりクルージングするならまだしも、俊敏なハンドリングなどはそもそも専攻科目ではなかったのである。それゆえ、この時代のスープラを「伝説」とか「神」とか持ち上げている若者の投稿を見ると、そうだったっけ? と戸惑ってしまう。自分なりの感想にとやかく言うつもりはありませんが。
チューニングカーのベース車としてマニアックな注目を集めるようになるのは次のA80型になってからのことである。
(文=高平高輝)
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