理詰めのスポーツカー 2代目トヨタ・スープラ・・・懐かしの名車をプレイバック

  • 80スープラ

トヨタが初めて300km/hの世界に挑むべく開発された2代目「スープラ」。当時の自主規制値である最高出力280PSのエンジンを積みながら、その走りはあくまで安定志向。いかにもトヨタらしさあふれるスーパースポーツカーだった。

インパクト大のリアスポイラー

  • 80スープラ

「THE SPORTS OF TOYOTA」のフレーズとともに1993年5月に発売されたのが、日本では当初2代が「セリカXX(ダブルエックス)」を名乗っていたトヨタ・スープラの、“80系”と呼ばれるモデル。

主人公がそれを駆る映画『ワイルド・スピード』のヒットや全日本GT選手権(JGTC)での長年の活躍などから、昨今は歴代モデルのなかでも特に人気が急上昇。中古車相場での高騰も話題になっているが、冒頭の理由から日本ではこれが2世代目のスープラだ。

アメリカなど、当初からスープラ名で導入されていたマーケットでは「4代目」と紹介できるそんな80系のルックスでなんといっても特徴的だったのは、デビューから30年を経た今のタイミングで目にしてもかなりのインパクトを放つ大型のリアスポイラー。

「SZ」「RZ」「GZ」と3種類が用意されたいずれのグレードに対しても、実はそれはオプションの扱い。ドイツでのテスト走行の結果、「絶対に必要!」と判断されて設定に至ったというこのアイテムの印象的なデザインは、本来はテールゲートから150mmの高さがあれば十分な効果が得られるものの、それではルームミラー越しの後方視界の妨げになるということから決まったものであったという。

実際、あれほど派手なスポイラーなのに、後方視界の妨げになることは全くなかった……というのがわかるのは、実は自身でビルシュタイン製のダンパーやトルセンLSDを標準採用したシリーズで最も硬派(?)なRZグレードを購入し、所有していたため。

大排気量ゆえの余裕

  • 80スープラ

ちなみに、MTとATが用意されるなかから選んだのは“もちろん”前者。それがゲトラグ製の6段仕様というのが話題になった一方で、ATはなんと4段仕様だったのも時代を感じさせられるところだ。先に書いたリアスポイラーは当然として、90km/hを超えると前方にせり出しつつ下降し、70km/hを下回ると再度格納される「フロントアクティブスポイラー」もオプションで選択。さらに、右ドアとコンソールに装着して「スポーツ走行時に膝を押しつけることで姿勢を安定させる」という触れ込みの「ニーサポートセット」も選んだものの、乗降性の悪化を懸念したためか張り出し量がまるで足らず、実際には何の役にも立たない単なる不細工な突起物と化してしまったことは今でも忘れられない。

当時はまだ、最高出力280PSの理不尽な自主規制があった時代で、このモデルが積むシーケンシャルツインターボ付きの「2JZ-GTE」型直列6気筒エンジンもそれにのっとっていたものの、44.0kgf・m(昨今の表示法では約432N・m)という最大トルク値はやはり自主規制のため最高出力値が同じだったR32型「スカイラインGT-R」の心臓が放つ36.0kgf・m(約353N・m)を大きくしのぎ、さすがは排気量が400ccも大きいことを教えられた。

さらに4WDのGT-Rに対して軽量という利点も生かし、全力加速時にはより強力な加速感を味わえた。FRレイアウトの持ち主でありながらスタビリティーもすこぶる高く、「トヨタが初めて挑戦した300km/hカー」という開発陣から耳にしたフレーズにも、なるほどと納得できたものだった。

ニュルで鍛えられた足まわり

  • 80スープラ

一方、かくも際立つ動力性能を備え、安定性も高くて乗り心地にも優れたこのモデルの走りに対してちょっと不満を覚えたのが、“刺激が足りない”という印象だったのも事実。低回転域では低く野太く高回転では金属的な音色が混じるGT-Rに比べるとそのサウンドはちょっと魅力に欠けたし、切り始めの挙動が今ひとつシャープに感じられなかったハンドリング感覚もそう思えた理由のひとつだ。全長4520×全幅1810mmという下手をすると昨今では「コンパクト」とも紹介されかねないサイズも、特に街乗りシーンでは実際以上に大きく感じられた。端的に言って、そうした乗り味は「スポーツカーらしいテイスト」とは一線を画すむしろラグジュアリー感の強いもので、このあたりは3代目の「ソアラ」と基本骨格を共有することによる制約だったのかもしれない。

ところが、そんなスープラに対して「やっぱり一級のスポーツカーだ!」と認識を新たにしたのは、自身の所有車を手放してから数年がたち、縁あってかのニュルブルクリンクの旧コースでドライブをする機会に恵まれた時のことだ。

飛んだり跳ねたり滑ったりと、生半可なモデルであればたちまち馬脚を露す、かの地のコースで、ステアリング操作に対する過敏さが抑えられ、リアがしっかり踏ん張ってくれるこのモデルはとても乗りやすかったのだ! 同時に生意気にも、その時にそうしたこのモデルのセッティングが「ちょっとニュルにフォーカスしすぎていないかな……」とも感じてしまったことを告白しておきたい。

トヨタが初めて300km/hの世界を手中に収めるべく挑んだのが、この80系のスープラ。それが、乗る人にスポーツカーらしいエンターテインメント性を提供するというよりも、まずは理詰めで正攻法のクルマづくりに挑んだという点が、いかにもこのブランド発の作品だったともいえるのかもしれない。

(文=河村康彦)