【東京オートサロン2019】稀代のエアロデザイナーが作り上げた、懐かしくも新しい働くクルマの進化版
世界3大カーショーに数えられる東京オートサロンの会場には、例年スポーツカーからミニバン、SUVなどの国産車をはじめ、エキゾチックカーやコンパクトといった輸入車など、所狭しと並べられている。今年も過去最高となる900台オーバーの出展車数を数え、まさに百花繚乱の賑わいを見せていた。
そんな会場内でひと際異彩を放っていたのが、このダットサントラック521。世界各国で人気を集める『ロケットバニー』や『パンデム』ブランドでおなじみ、TRA京都の三浦代表の愛車だ。
ダットサントラックは戦後から高度成長期の中小企業を支えた『働くクルマ』の代名詞的存在。中でも521は1968年から1972年まで製造され、は510ブルーバードを模した旧車然としたフォルムが人気のモデルだ。
当時は日本市場だけでなくアメリカからアジア、ヨーロッパまで幅広い地域に販売され、モータースポーツ以外の面でダットサンブランドの訴求にひと役買ったエポックメイキングなモデルである。
そんな521をパンデムブランドのオーバーフェンダーやフロントリップ、サイドスカートといったアイテムでフルコーディネイトしたのがこの1台。
正直、日本に限ってみると521というベース車はアフターマーケットで人気が高いとは言えず、90年代から2000年初頭にかけて盛り上がりを見せたミニトラックカスタムも今やコアなファンが残っている程度。
というのも、NOx/PM法の改正によって大都市圏では旧式のミニトラックはナンバー取得が不可能になってしまい、その数は急激に減りつつあるのだ。そんなマイノリティの極みとも言えるミニトラックを、東京オートサロンという場に持ち込んだのは一体なぜか?
「ぶっちゃけこの521のパーツが売れるとか売れないとか、あんまり考えてないんだよね。むしろ売れるなんて微塵も思ってないし(笑)。でもこの521の前にダットサントラック620を同じような仕様で作っているし、その流れもあって今度は自分が好きな521でも作ってみようかなって思ったのがキッカケかな。あくまでもウチはエアロパーツメーカーなんで、エアロくらい付けなきゃなって、ただそれだけだよ」と答えてくれたのは代表の三浦さん。
ちなみにオートサロン会場を見回してみると、ピックアップトラック自体は一昨年発売を開始したハイラックスピックアップを筆頭に、数モデルがエントリーされていた。しかしそのほとんどは美しく磨きこまれたボディに各社オリジナルパーツを取り付けるといったカスタマイズが施され、一般のユーザーに対するパーツの披露が主な目的とされている。
対してこの521はというと、使い込まれたヤレたボディに、ペイントも全身ツヤが引けたラット仕上げ。ベッド(荷台)にいたっては溶接面からサビて腐ってしまっている状態と、失礼ながら会場イチのボロさと言っても過言ではない。
そもそも510ブルーバードをはじめ数々の旧車を所有する好モノの三浦さん。今回の521もカリフォルニアで見つけた車体に一目惚れしたことが東京オートサロンへの出展のキッカケになったという。
ピカピカにレストアをおこなうのではなく、ピックアップトラックらしい使い込まれた雰囲気をそのままに、エンジンは非力なJ13からL20Bに換装。それに合わせて点火系はMSDのハイパワーなコイルを組み合わせつつ、キャブレターもソレックスのパイ44に変更しパワーアップ。ボディではなく実際に走らせるために必要なパワートレインを中心に手を加えているという。
さらに東京オートサロン明けにはナンバー取得も予定しているため、軽自動車から流用した電動パワステの装着や、モンロー・マックスエアダンパーによる車高調整機能といった現代の装備を備えているのもポイント。
また荷物の積載スペースが全開放のベッド部のみのため、鍵付きのツールボックスをベッドに据えるなど実用性も向上させていた。
装着するエアロパーツもボディカラーにあわせてペイントするのではなく、あえての黒ゲル仕上げというワイルドさ。さらにミラーもビタローニ・トルネードを組み合わせながら4連エアホーンなど懐かしのアレンジもプラスされている。
これらのカスタムは、東京オートサロンで目立つための奇抜さを狙った車種選定や演出ではなく、三浦さんの趣味が高じてのもの。稀代のエアロデザイナーが目指す理想の愛車は、根っからのクルマ好きや旧車マニアが思わずニヤリとする仕様なのだ。
最新モデルや定番旧車に見慣れたファンにとっては、逆に斬新すぎるアプローチとして、その目に焼きついたのではないだろうか。
(テキスト:渡辺大輔 写真:平野 陽)
[ガズー編集部]
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