1997年式ホンダ・シビックタイプR(EK9型)と暮らす24歳のオーナーが、同世代のクルマ好きへ愛車を通して伝えたいこと
今、若者が手に入れられて楽しめるスポーツモデルは、どのくらい存在しているのだろうか。かつて、手頃な価格とコンパクトなボディにハイパワーエンジンを備えたモデルは「ボーイズレーサー」と称された。なかでもハッチバックボディを持つクルマたちは「ホットハッチ」と呼ばれ、熱く支持されていたことを記憶している人も多いだろう。
特に80~90年代には、魅力的な国産ホットハッチが続々と登場していた。今も根強いファンの多い、トヨタ・カローラレビン(トレノ)や「かっ飛び」でおなじみのスターレットターボ、ホンダ・シビックやCR-X、日産・パルサーGTI-Rなど、車名を挙げればキリがない。車名を耳にしただけで、胸がときめいてしまう人は少なくないはずだ。
今回登場するオーナーは、24歳の青年だ。愛車はホンダ・シビックタイプR(EK9型/以下、EK9)。昨年2018年に手に入れてから、半年が過ぎた。手に入れてからの走行距離は7000キロ、オドメーターは51200キロを刻んでいる。
まずはオーナーの愛車遍歴から尋ねてみたい。EK9の前は、日産・マーチ12SR(K12型)を所有していて、初の愛車でもあったという。このクルマがオーナーに与えた影響とは?
「マーチ12SRは、クルマは楽しい、見た目よりも乗って楽しいという『私の価値観を変えてくれた1台』なんです。このマーチは、私が小学生の頃に発売されていたクルマでした。当時は、見た目の可愛さが好みではなかったため、絶対買わないと思っていたのに、運転免許を取得して気がついたら乗っていました(笑)。モディファイもしましたし、学生時代の思い出にはいつも、このマーチ12SRがいます。そして、憧れのEK9を必ず手に入れようと、あらためて決意させてくれた存在でもあります」
若かりし頃、仲間の愛車に乗り合わせて出かけるのが本当に楽しかった。そういえば、オーナーには同世代のクルマ好きな友人はいるのだろうか?
「昔から地元で付き合いのある友人のなかで、クルマ好きは、ほとんどいないですね。私のクルマに乗ると『音がうるさい』っていわれます(笑)。でも一人だけ、このEK9に乗せたことがきっかけで、スポーツカーに興味を持っている高校時代の友人がいます。彼は『ピンゾロ』のトレノ(AE111型)が欲しいそうですよ」
オーナーは、EK9のどこに魅力を感じているのだろうか?
「高校1年生の頃から憧れていました。『頭文字D』のAE86が好きだったんですが、気がついたら『ホンダが持つ技術の塊』に魅力を感じていました。コンパクトなハッチバックボディと、ハイパワーで上まできっちり回るNAエンジンというパッケージングに、特別感を感じます。何より『回してナンボ』な高回転エンジンが大好きです。EK9のB16B型エンジンは、B18C(インテグラタイプR DC2型)がベースで、わざわざショートストロークにしたエンジンを載せているんですけど、こうしたこだわりの設計に強く惹かれます」
と、オーナー。彼の愛車は、1997年式の前期型だ。タイプR専用ボディカラーであるチャンピオンシップホワイトは、ホンダが1964年、F1に初参戦した際のマシン「RA271」のボディカラーがイメージされている。周囲が真紅に塗られた「H」マークのエンブレムは、ホンダのレーシングスピリットを受け継ぐ証だ。
ホンダ・シビックタイプRは、1997年の登場から今まで進化を続けてきた。ホンダ唯一の「タイプR」として現在もシリーズは継続されている。オーナーの個体、EK9型(初代モデル)は、1997年から2001年まで生産。「NSX タイプR」、「インテグラタイプR」に次いで3車種目となった。搭載される1.6リッター直列4気筒VTECエンジン「B16B」は、最高出力185馬力を誇り、レッドゾーンは8500回転を許容する。
オーナーがEK9と出会ったのは、意外にも「S2000専門店」だったそうだ。その馴れ初めとは?
「EK9は今、中古車相場が非常に値上がりしていて、希望している条件の個体がなかなか見つからなかったので、購入を見送っていました。でも、ホンダのスポーツモデルという条件は譲れなかったので、最初はDC5(インテグラタイプR)の購入を予定していました。しかし、探し始めた途端にどんどん売り物が減っていったんです。そこでS2000に変更しました。すると、程度が良く、価格のこなれた個体が中古車サイトで見つかったので、さっそくショップへと足を運んでみることにしました」
ところがショップへ到着すると、すでに商談中で、そのまま売れてしまったという。
「お目当てのS2000は売れてしまったのに、冷やかしで悪いと思いながらも、別のS2000を見に行こうという気持ちになり、再びそのショップへ足を運びました。するとそこに、このEK9が置いてあったんです。最初はスタッフのクルマだろうと思っていましたが、スタッフさんの話しによると、昨日入庫したばかりとのこと。そのため、車両の状態が未確認なうえ、価格も決まっていませんでした」
購入の決め手は?
「予算よりも安い価格を提示してくれたことと、私にとって理想の『完成形』だったからです。ロールケージも組んでありましたし、車高調は戸田レーシング製、マフラーとエキマニはSPOON製、ラジエーターとブレーキパッドはホンダツインカム製など、手を加えたいところはほぼ完成していました。しかもちゃんと2名乗車公認車なんですよ。つくづくラッキーだと思いました」
こうして念願だったEK9オーナーとなったわけだが、カーライフに変化はあったのだろうか?
「駐車場にいる姿を見るだけで、幸せな気持ちで満たされますね。通勤は電車なのに、帰宅後、わざわざドライブに出かけることもしょっちゅうです。交差点やちょっとしたワインディングのコーナリングはもちろん、パワーもあるので高速道路も楽しいです。それに、EK9を通して知り合えた仲間も多く、いい意味で生活環境が変化しました」
愛車への満足度は100%に近いようだが、オーナーの強いこだわりで変更した部分もあるという。
「外観・内装とも、当時モノのアイテムで揃えたいというこだわりはありますね。このクルマが現役当時だった『2000年初頭の雰囲気』を出していきたいです。例えば、運転席に装着したBRIDEのフルバケ『アーティスⅡ』も、BRIDEのロゴが一新される前のモデルで年季が入っているんですけど、純正シートと色味を合わせたかったのであえて選んだことも密かなこだわりです。またサーキット走行のために、シートレールはスーパーローポジションにしています。ステアリングはATC製です。新品同様のコンディションのものが装着されていました。私の好みでもあったので、交換せずにそのまま使っています」
今まで、トラブルは経験しているのだろうか?
「実は、納車直後にバルブ落ちでエンジンブローをしてしまい、エンジンを載せ替えたことがあります。前オーナーがサーキットユーザーだったため、かなり酷使されていたようです。一生乗るつもりなので、本当はコンプリートエンジンにしたかったのですが、予算の関係で中古を探してきました。しかし、載せ換えの費用は、ショップのご厚意で『実質無料』でした」
エンジンの載せ換えをはじめ、純正部品の供給状況で感じていることは?
「部品の調達には苦労していますね。たった15㎝程度の水回りのホースが製廃になっていたり、細かいモノがなくなりつつあるようです。塗装済みの外装回りやタイプR用の内装は、ほぼないそうです。それから、エンジンブロックも欠品だと先日知りました。メーカーには、純正パーツの復活プロジェクトのような企画を期待しています。特に、走ることに必要なエンジンや足回りのパーツは作り続けてほしいですよね」
今後、このクルマとどう接していきたいかという意気込みを伺ってみた。
「『メーターが1周する=100万キロを目指して乗ること』が目標です!街乗りからサーキットまでこなせる愛車にしたいんです。そのためにも、ディーラーに入庫しても断られることなく整備してもらえるような、純正に近いシンプルスタイルをキープしていきたいですね。『一生モノ』のクルマだと思っているので、別のクルマを所有するなら増車にします。フロントマスクの顔つきも、前期モデルの方が好みですし、今後も、2000年代初頭の雰囲気を色濃く感じられつつ、1ケタナンバーや2ケタナンバー車のように『当時モノのナンバーを保持する個体』として、胸をはって乗れたら最高ですね」
最後に、これからクルマを手に入れたいという同世代のクルマ好きへのメッセージとしてコメントを伺った。
「6000回転からパワーが一気に出てくるホンダの傑作VTECエンジン、最高です。買って後悔することは絶対にないと断言できます。状態の良い個体を探したり、買った後に状態を維持するのは、年式も古いので大変かもしれません。ですが、手間とお金をかけてでも楽しめる人には最高の車です。『テンロクのホットハッチ』というジャンルは絶滅危惧種です。今後、このジャンルの新車が出てくることはおそらくないでしょうし、世の中にある中古車両も増えることはなく減る一方です。買うなら今が最後のチャンスかもしれません。金額以上の価値は、必ずあると思います」
「若者のクルマ離れ」と言われてすでに10年以上が経過しているが、次世代のクルマ好きは確実に育っている。なんとか、もっと増やせないものだろうか。
そして往年のテンロクホットハッチは、ボーイズレーサーを愛してきたクルマのベテランたちにはもちろん、次世代のクルマ好きたちも魅了し続けるはずだ。部品供給が途切れることなく、EK9をはじめ、1車種でも多く後世に残っていくようにと、願わずにはいられない。
(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
[ガズー編集部]
【愛車紹介】ホンダ・シビックタイプR
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