夢中にさせてくれるエンジンを積んだ理想の相棒。3台目のセリカは家族と共に末長く
「自分でも、なんでこんなにセリカに執着してるんやろ?って思います。理由は分からへんけど、一緒に時を過ごしたいんですよね。なんか、ちょっとカッコエエこと言うてしまいましたけども(笑)」
そう話すのは、これまで3台のセリカを乗り継いできたという森川さん。現在所有しているセリカは、走行距離を伸ばしたくないということもあり“限られた時”にのみ走らせるという。
「2台目のセリカが、18万キロを越えたあたりから故障が目立つようになったんです。それもあって、少しでも長く維持するために普段使いは極力しないようにしているんです」とのことだ。
「プリウスやシルビアなど、様々なジャンルのクルマに乗ってきましたが、1番しっくりきたのが3Sエンジンやったんです。音とか振動が心地良くて、運転していて落ち着くというか。これまでもそういうクルマを直感で選んできたんですけど、セリカがまさにそれなんです。どんなエンジンなんやろ?と調べていくと産まれ年も一緒やということがわかって、これは運命かもしれんぞってさらに好きになりました」
森川さんの愛車である1999年式のセリカSS-II(ST202) に搭載される3S-GEは、トヨタ製S型エンジンをベースに、ヤマハが開発したDOHCヘッドの採用などによって高出力化を図ったガソリンエンジンだ。
市販車のみならず、ル・マンや全日本GT選手権などのモータースポーツで活躍した車両に搭載されるエンジンのベースにもなったほど、汎用性が高く“名機”と呼ばれている。
「僕の大好きなレース車両に使われていたというのもグッとくるポイントなんです。3Sのレース用エンジンが展示されているお台場の『メガウェブ』に、関西からわざわざ見に行ったこともあったなぁ」と懐かしそうに話してくれた。
そんな森川さんがエンジンに拘るようになったのは、レガシィRSに乗っていた父親の影響が大きいという。
「小さい頃から、ボクサーサウンドを聞きながら育ってきましたからね。父が色んな場所に連れて行ってくれたから、嬉しかったこととエンジンサウンドがワンセットになって素敵な思い出としてインプットされているのかもしれません。祖父からもミニカーを買い与えられてクルマ好きになるように英才教育されていましたから(笑)。
あとは、隣で父の運転を見てきたから“クルマ=マニュアル車”になっちゃいましたね。ずっと見てきた光景だからマニュアル車だと妙な安心感があるし、最終的に人がコントロールしてクルマとの対話が成り立つというのも好きです。それが、クルマの楽しさだとも思いますしね。すべてのクルマが自動運転になってしまったら、僕は免許を返納しよかなと思っているくらいマニュアル車に惚れ込んでいるんです」
「もちろんセリカもマニュアル車です。セカンドで7000~8000回転まで引っ張って80km/hくらいまで加速するのは最高ですよ。古いクルマといえども200馬力の鋭い加速を見せつけられると、やっぱりスポーツカーやわぁと感じます。
空気抵抗が少ないので横風に吹かれても振られにくく、運転もしやすいんですよ。しかも、大人しく走ると燃費も15km/Lくらいで走ってくれるので、意外と経済的でもあります。兵庫から愛知にある豊橋まで行ったんですけど、ノー給油でしたから。高速の話ばかりしてきましたが、一般道もいいですよ。道路状況に合わせてシフトチェンジするのは、操っている感がありますからね」
と、弁舌さわやかだった森川さんだったが、助手席に同乗してきた奥様の「今日、来る時にエンストしたけどね(笑)」という一言に苦笑い。
「隣で奥さんがキリンがおるって言うたんです。キリンですよキリン!えっ?てなるやないですか(笑)。で、クラッチを踏むのを忘れてエンストしてしまったんです。もう一個言わせてもらうと、家族が乗るクルマとして普段はプリウスに乗ることが多いんですが、そっちはオートマやから、セリカとの切り替えに時間がかかるんですよ」と目をくるくるさせながら話す森川さん。
すかさず奥様が放った「プリウスも乗ることはありますけど、保育園のお迎えとかには主にRX-8で行ってますよ」という言葉に「えっ、RX-8に乗っているんですか!?」と取材陣の興味が奥様の方に向き、ホットした表情を見せる森川さん。
「僕は、このセリカを自分の最後の愛車にしたいんです。だから、大事な時にだけ、無茶をせずに乗ると決めています。僕はあと、何年乗れるだろうと、ふと考えることがあります。その何年後かも一緒にいられるように、メンテナンスはこまめに自分で出来るところはしています」
セリカを最後の愛車にすると決めていた森川さんは、長く維持出来るように購入前から余念が無かったという。
「1番怖いのは、修理しようにも部品がないという状態なんですよ。修理できるっていうことは、長く乗れる可能性が上がるということですから」と目を細めた。
「セリカってね、僕にとってクルマっていう存在じゃないんですよね。家族なんです。誰でも良い訳じゃないから、とにかく長生きして欲しいんです。ほんと、そんな感じかなぁ」
旧車の宿命ともいえる“維持する難しさ”を知っていた森川さんは、購入することを悩んだ時期があったと教えてくれた。
「結婚して子供も産まれて、それなりにお金も手間もかかるからなぁと思ってた時期があるんです。それこそ、2台目のセリカは修理すれば故障で大変やったから。でも、奥さんが背中を押してくれたんです。好きなクルマに乗った方がええでって。ほんまに、奥さんあってのセリカです」
冒頭で“限られた時”にのみセリカを走らせると話していた森川さんだが、それは家族でドライブに行くなど『奥様と過ごす時』だという。そして、森川さんは「自分がセリカに執着している理由が分からない」と言っていると記したが、インタビューを進めていくうちにその理由もだんだんわかってきた気がする。
世間的には、奥様がクルマにお金を使うのを嫌がるという風潮があるが森川家は例外らしい。取材中も、旦那さんを見つめながら「めっちゃ嬉しそうにセリカのこと話すでしょ?私はそれを見るのが好きなんです。それに、私もエイトに乗ってるから気持ちは分かるしな」と微笑んでいた。
確かに、ワクワクした表情を満面に輝かせている所を見ると、森川さんのセリカ愛を邪魔したくなくなる。目線の先には、カメラマンに自分が好きな角度を必死に説明している姿が見える。
「ローアングルからのリアフェンダーのラインが気に入ってるんです。レーシングカーって、空気の抜けを良くするためにテールランプの下をカットするんですよ。だから、後ろがダックテールになってるんです。羽根の下がプリっとアヒルみたいになってて、ええでしょ~。あとは、走るための装備以外付いていないコックピット感。シンプルでスパルタンな感じがして、ええでしょ~」
自分がセリカに乗れなくなってしまったら、ゆくゆくは現在2才のお子様にセリカを託すのが夢だという。
「娘は嫌がるかもしれませんよ。やけど万が一乗りたいって言った場合、あと何十年も維持せなあかんのです。大事に乗らなあかんわ」とグッと唇を噛み締めていた。
18年後、お子様は神戸の街をセリカとRX-8で駆け回っていることだろう。両親の楽しそうなカーライフを見て、きっと「私も乗りたい」と思ってくれるはずだから。
そして同時に、森川さんがお子様のために必死にセリカをメンテナンスしている姿も想像できる。そして、その姿を見て微笑む奥様も。
取材協力:大蔵海岸公園
(⽂: 矢田部明子/ 撮影: 平野 陽)
[GAZOO編集部]
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