32年間・50万キロをともに過ごした愛車、1990年式トヨタ スープラ ツインターボR(A70型)

  • トヨタ・スープラ(A70)

冒頭から唐突ではあるが、今回の取材を通じて「人生をともにする愛車」が欲しいと思うなら・・・できるだけ早い方がいいと確信した。

揺るぎない事実として、形あるものはいつか壊れる。白物家電のように屋内で使用することが前提である機械はいうに及ばず、屋外で、しかも過酷な状況で使用される「クルマ」という工業製品であればなおさらだ。

クルマも機械である以上、壊れないということはあり得ない。世界中の自動車メーカーが努力に努力を重ねた結果「壊れにくくなっているだけ」に過ぎない。この点において、日本車が特に優れていることは、日本人としてもっと誇っていいのではないかと個人的に思っている。

  • トヨタ・スープラ(A70)メーター

今回、取材させていただいたオーナーは、以前、マツダ オートザムAZ-1でもお世話になった方だ。所有歴でいうなら、AZ-1よりも今回のスープラの方が長い。つまり、30年という時間を2台の愛車ともに過ごした方でもあるのだ。

「このクルマは1990年式トヨタ スープラ ツインターボR(A70型/以下、70スープラ)です。新車で手に入れてから今年で32年と2ヶ月(取材時)になりました。30歳のときに手に入れて62歳になった現在まで所有していることになります。これまでの走行距離はトータルで50万キロを突破しました。(※BLITZ製のフルスケールメーターに交換されている)」

  • トヨタ・スープラ(A70)を上から撮影

スープラ(A70型)は、1986年2月にフルモデルチェンジした際、それまでの「セリカXX」から、海外向け仕様と同じ「スープラ」に車名を変更した。何度かの仕様変更やマイナーチェンジを行い、1990年に追加されたグレードが「2.5GTツインターボR」だ。
ボディサイズは全長×全幅×全高:4620×1745×1300mm。直列6気筒DOHCターボエンジンは、上級グレードに搭載されていた7M系から「1JZ-GTE」エンジンに変更された。そして、最高出力は当時最強の280馬力を叩き出すスペックを手に入れたのだった。

2.5GTツインターボRといえば、当時としては標準装備がまだ珍しかったレカロシートや、専用のボディカラーなど「70スープラを代表するグレードのひとつ」であったことは確かだ。ちなみに、スープラとはラテン語で『超えて』や『上に』という意味を持つ。

  • トヨタ・スープラ(A70)のリヤビュー

その後、オーナーとともに歩んでいくことになるスープラとの出会い、当時のことを思い出しながら懐かしそうに語っていただいた。

「自動車雑誌“ベストカー”に70スープラのスクープ記事が載っていたんです。スープラってカッコイイなぁと魅了されました。それこそ、記事を切り抜いて自宅の冷蔵庫に貼っていましたね(笑)」

当時、20代だったというオーナー。日本で70スープラが発売されたあと、ディーラーに赴いて現車確認をしたものの、しっくりとこなかったようだ。

  • トヨタ・スープラ(A70)のレカロシート

「実車を見てみたら、何だかイメージと違うなぁと感じたんです。その理由はワイドボディではなかったことが挙げられます。そこで、このときはソアラ(GZ20型)に乗ることにしたんですね。前期型の2リッター、GTツインターボ、5速MT、ボディカラーは黒でしたね。結局このクルマには5年間・20万キロ乗りました。

チューニングをした結果、ブーストアップしたR32 GT-Rと互角、Z32よりは速い!というところまでいきました。しかし、私の不手際でエンジンを壊してしまい、クルマにもガタがきていたところで、スープラがマイナーチェンジするという情報を耳にしたんですね。そのときに追加されたグレード"2.5GTツインターボR"が現在の愛車です」

当時の若者は、背伸びをしていいクルマを手に入れ、そこからさらにチューニングをしていたケースも珍しくない。とはいえ、新車の70スープラ、しかも花形モデルである2.5GTツインターボRを選んだとなれば注目されたのではないかと思うが・・・。

  • トヨタ・スープラ(A70)の整備ノート

「私の場合、いまでいう“残価設定ローン”の前身のような仕組みで手に入れたんです。とりあえず初期費用とランニングコストを抑え、その間にお金を貯めて時期が来たら一括返済してしまおうと考えたんですね。本来、残価設定ローンで購入したクルマにチューニングは御法度なんですが、もともと返却するつもりなんてないので(笑)、すぐに“いじって”ましたね。

70スープラを手に入れたときはバブルだったこともあり、懇意にしていたチューニングショップに出入りしている若い世代の人でもチューニングしている人が多かったです」

30年以上も前になる、納車された日のことを覚えているのだろうか?

「覚えていますよ!自宅に届けてもらったんですが“わー!来た”っていう感覚でした。でも、いままでのソアラのイメージが強かったらしく・・・。周囲からは『似合わない』といわれましたけれど(苦笑)」

  • トヨタ・スープラ(A70)のリトラクタブルヘッドライト

念願だった70スープラを手に入れたことで、劇的な出会いもあったようだ。

「スープラを通じて友だちが増えましたね。ネットなんてない時代でしたから、自動車雑誌にオーナーズクラブの募集をハガキで送って・・・では何月何日の何時に○○でお会いしましょうといった返事が届くといった時代でした。いまでも加入している“STARTINGPOINT”メンバーとも付き合いがありますよ!

あと、何といっても妻と出会えたことが大きいですね。参加していたクラブに当時独身だった妻が加入して、その後、付き合うことになったんです。妻の愛車は、左ハンドル仕様の80スープラです。アメリカで乗っていたクルマを日本に持ってきたんですが、このスープラはいまも所有しています。いまは車検が切れているので、いつか復活させて乗れるようにしてあげたいと思っています」

  • トヨタ・スープラ(A70)の右サイドビュー

2人でそれぞれのスープラを所有していたわけだが、デートするときはどちらのクルマだったのか?ちょっと野暮な質問をぶつけてみた。

「何しろ“ツーリングクラブ”だったので、2人とも自分のクルマを運転したいわけです(笑)。なので、それぞれのクルマで出掛けていました。移動中はパーソナル無線を使って会話して、現地で合流とか(笑)。そんなデートをしていましたね」

憧れのスープラと、そして人生の伴侶との出会いに結びついたスープラ、今までにあったトラブルのなかで大変だったことは?

  • トヨタ・スープラ(A70)のエンジンルーム

「エンジンが止まり、掛からなくなったときですね。原因はメインコンピューターの故障だったんですが、つきとめるまで苦労しました。その甲斐あって、以後、他のスープラでトラブルが起こったときの原因をつきとめる時間が短縮されたみたいです」

いくら大事にしてきた70スープラとはいえ、これだけ長きにわたって所有していると「もういいや」と思うことはなかったのだろうか?

「“もういいや”と思ったことは1度もありません。でも“勘弁してくれよ”はしょっちゅうありますよ(笑)。クルマを擬人化するつもりはないのですが、おそらくクルマとの相性がいいんでしょうね。人生を変える出会いだったのかも・・・。そんな気がするんです」

  • トヨタ・スープラ(A70)のエキゾースト

これまでにモディファイしてきた箇所を挙げていただいた。

「これまでの各部品の交換履歴を調べてみたのですが、分かる範囲でマフラーが8回、クラッチが4回、ミッションは2回、ブレーキローターが3回、センタープーリーが2回、ショックアブソーバーが6回、タービンが5回です。でも、エンジンは(タペットカバーガスケットは交換しているとはいえ)1度もオーバーホールしないまま今日に至ります。1JZ系のエンジンは丈夫ですよね。

現在の仕様はエンジン本体とクラッチはノーマルのまま、タービンはHKS製のT300Sスペシャルタービンキット、インタークーラーおよびブローオフバルブ、EVCやF-CON IV、ハイパーMAXIII(80スープラ用のブラケットを70用に交換)など、HKS製が多いですね。アルミホイールはドイツの自動車メーカー、RUF製のデザインに近いものを探し、ASSOを装着しています」

  • トヨタ・スープラ(A70)のオリジナルスポイラー

さりげなくも、手間が掛かるモディファイも行っている。

「これはあまり気づいてもらえないのですが、自作でリアスポイラー左右の先端を延長しているんですね。発砲ウレタンを削り、板金屋さんにFRPを貼り付けてもらいました。さりげなく存在を主張させるため、先端の部分は敢えてBピラーの中間あたりにしてあります」

その他、ボディを全塗装したことも大きな仕様変更といえるだろう。

「数ヶ月間、スープラに乗れない時期があったんです。以前からボディカラーを変えたいという思いがあったので、純正カラーのダークグリーンマイカからブルーメタリックに塗り替えました。カラーコードは“8J3”です。実は板金塗装したショップによると、純正よりも銀の色味が強いそうです」

  • トヨタ・スープラ(A70)の運転席

32年を超える付き合いのなかで、自分好みに仕上げてきた70スープラ。気に入っている点を挙げていただいた。

「乗っているだけで気持ちがいいというか・・・ホッとできることですね。あと、内外装のデザインが気に入っているクルマってあまりないのですが、70スープラはその両方を満たしてくれる数少ない存在です」

スープラのオーナーである以上、現行モデルである「90スープラ」の印象を聞かないわけにはいかないだろう。

「経緯はどうあれ、スープラというクルマを再びトヨタが発売してくれたことに感謝ですよね。メーカーがスープラというクルマを大切にしてくれていることが伝わってきます」

  • トヨタ・スープラ(A70)のターボAグリル

70・80スープラオーナーには朗報といえる「ヘリテージパーツ」の感想も伺ってみた。

「70スープラに関していえば、ゴム系のパイプに関連する部品をたくさん復刻してくれましたよね。あとはアームのブッシュ類。ヘタってしまい、今回の車検に通らなかったのですが、ヘリテージパーツのお陰でこの問題はクリアできました。オーナーとしてメーカーに感謝しています。

いろいろなご苦労があると思うのですが、ダッシュボードやガラス類は復刻してくれるとうれしいなと・・・(限定モデル『ターボA』グリルも大切に保管しているそうだ)」

  • トヨタ・スープラ(A70)のフロントビュー

AZ-1とともに、事実上、家族の一員ともいえる70スープラ。2人の息子さんの反応も気になるところだ。

「息子たちを隣に乗せて加速すると『やめてー!』といわれますね(笑)。一応、MT免許を保持しているのですが『運転したい』とはいわないです」

そして、スープラが縁で結ばれた奥さまにもメッセージがあるという。

「スープラがなければ妻と出会えなかったでしょうし、妻でなければこのスープラを維持できなかったと思うんです。妻、そしてこのスープラに対しても“本当にありがとう”のひと言に尽きますね」

最後に、このスープラと今後どう接していこうと思っているのか、伺ってみた。

「他の人が乗ったら壊れてしまう気がしますし、手放したら確実に廃車にされてしまうと思うので、できる限り乗りつづけたいです。息子たちには“乗りたければ乗っていいよ”と伝えてあるのですが、維持費がそれなりに掛かるので、本音では乗って欲しいけれど、強制はしません」

  • トヨタ・スープラ(A70)のフロントバンパー

フロントバンパーには「走り屋の勲章」ともいえる飛び石の傷があるし、内外装のいたるところに生活傷が刻まれている。そして、2冊のノートに記されたこのスープラの記録が、「32年」という時の流れを感じさせる。これらはすべて、この70スープラと1人のオーナーがとともに歩んできた歴史そのものだ。

Excelファイルで管理すれば平均燃費やこれまで掛かった費用の計算も容易だ。スマートフォン用アプリを使えば愛車の記録を一元管理できる。インターネットに接続が可能な環境であれば、買い物や旅行の予約などが簡単にできるようになった。オーナーは両方の利点を活かし、手書きのノート(アナログ)とスマートフォンのアプリ(デジタル)などを用途に応じて使い分けている。そのバランスが実に絶妙だ。

  • トヨタ・スープラ(A70)の整備メモに使っているノート

しかし、敢えて言いたい。使用環境に左右されず、愛車の履歴を形に残したいなら・・・手書きで記録するが理想的であるように思う。そのときの心境やできごとが鮮やかに甦ってくることもあるだろう。余談だが、プラスティックは劣化してしまうので、表紙が厚い紙のリングノートがもっとも頑丈で長持ちするという。オーナーの実体験に基づくエピソードだけに参考になる人も多いはずだ。

近い将来、奥さまの80スープラが復活し、ご夫婦それぞれのスープラでドライブに行く日が訪れることを願っている。オーナーと奥さま、そしてスープラにまつわるエピソードを伺っているだけに、その模様を取材できたら望外の喜びだ。

(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

  • トヨタ・スープラ(A70)のホイール
  • トヨタ・スープラ(A70)のミニカー
  • スープラ70保存委員会を着るトヨタ・スープラ(A70)のオーナー

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