2リッター直6エンジンのセダンを6MTで操る贅沢。2001年式トヨタ アルテッツァ AS200 European Elegant EDITION(GXE10型)
少し前にはスタンダードに思えていたことが、気づけばレアケースとなっていることがしばしばある。
それはクルマの世界においても例外ではない。
さらには技術的には可能であっても、世の中のニーズや法規制という見えない壁が立ちはだかることもある。
今回、取材することができたオーナーとは1年振りの再会となった。大切にしていた愛車との別れを決意し、新たな相棒を迎え入れたことを知り、取材をお願いしたところ快諾していただいた。この場を借りてお礼を申し上げたい。
オーナーにとって「究極の選択」の末に手に入れた今回の愛車は、どんな魅力を秘めているのか。そして、苦渋の決断の末に手放した前愛車への想いとは?
「このクルマは2001年式トヨタ アルテッツァ AS200 European Elegant EDITION(GXE10型/以下、アルテッツァ)です。手に入れたのは昨年の12月。現在のオドメーターの走行距離は7.9万キロ、私が手に入れてからはおよそ3千キロ乗りました」
1998年、「速さを競い合うことよりドライビングそのものを楽しむこと」を念頭に置いて誕生したのが、FRスポーツセダン「アルテッツァ」だ。
プログレ用のプラットフォームをベースにホイールベースを110mm短縮し、トレッドをフロントが20mm、リアを25mm拡大。バッテリーや燃料タンクなどを車両の中心に配した設計など、メーカー自身が「FRスポーツセダン」を標榜するとおり、内外装ともにスポーティさを強調するデザインや演出が随所に施されている。
グレードは、そのスポーティさを前面に強調した「RS系」と、控えめに演出された「AS系」の2系統が設定された。
オーナーが所有する「AS200 European Elegant EDITION」は、2001年1月に発売された特別仕様車だ。カタログには「上質を静かに主張する、大人のFRスポーツ。」のコピーが踊る。
特別仕様車の主な装備は、専用ボディ色であるダークブルーマイカ、グリーン照明の専用クロノグラフメーター、ブラックフロントグリル&エンブレム、本革巻きシフトノブ(6MTのみ)などが挙げられる。ボディサイズは、全長×全幅×全高:4400×1720×1410mm。排気量1988cc、直列6気筒DOHC「1GFE型エンジン」の最高出力は160馬力を誇る。
FRスポーツセダンのアルテッツァでありながら「大人のFRスポーツ」という、ツウ好みな、つまりはマニアックな個体を手に入れたオーナー、このクルマとの馴れ初めから伺うことにした。
「もはやライフワークでもある、中古車検索サイトで何となくクルマを探していたら、偶然、このアルテッツァを見つけたんです。しかもクルマ仲間とBBQをしているときに(笑)。こんなアルテッツァが存在するとは私も知らなかったです。
前回の取材時にも触れましたが、私が幼いときに父親が乗っていた7代目カローラGT(AE92型)は、あのあともずっと探していたんです。でも、見つからない。そんなときに出会ったのがこの個体でした。私が運転免許取得時から求めていた理想形“トヨタのセダンでMTモデル”に合致する個体だったんです」
トヨタのセダンでMTモデルというと、他にもいくつかのモデルが存在するが、代表的なのはマークIIやチェイサー、そしてクレスタにも設定されていた「ツアラーVのMT」だろう。しかし、オーナーのスイートスポットはそれとは異なる。
「ツアラーVというと、スペックやボディサイズなど、自分の求めている世界とは少し違うのかな……という気がしています。それと、MT車ではありませんが、レクサスIS-Fにも惹かれます。でも、経済的にもっと余裕があって増車できたら嬉しいな……くらいの気持ちです。
セダンのMTモデルというと、輸入車という選択肢もありますが、故障が心配だし、維持費も掛かりそうです。私としてはあくまでも“実用的”であって欲しいんですね」
AS200 European Elegant EDITIONは、直6エンジン+6MT(ATの設定もある)のセダンながら、実はレギュラーガソリン仕様であり、スポーティさを声高には強調していない。さらに、ダークブルーマイカという専用のボディカラーにベージュの内装という組み合わせ。この上品かつ奥ゆかしさこそが魅力的な、まさに「大人のFRスポーツ」といえる。
「私にとって6気筒エンジンというと、贅沢さと憧れを兼ねた存在でした。アルテッツァというと4気筒エンジンのイメージが強いですし、事実、RS系の方が売れ筋だったようです。ただ、私自身、マニアックなところがあり、ちょっと"ひねり"があるモノに惹かれるんですね。その点、今回のクルマは私自身が求めていたあらゆる条件、しかも合致することはないであろうと思っていた仕様を持つ個体だったんです」
ハマる人にはこれ以上ないくらいフィットするが、そのスイートスポットが狭いモデルはたしかに存在する。AS200 European Elegant EDITIONも、そんな1台だったのかもしれない。そんな理想を叶える1台、そしてオーナーに巡り会えれば、必然的に「相思相愛」な関係となれるだろう。
ただ、問題もあった。オーナーが手に入れた個体は「あるハンデ」を抱えていたのだ。
「ワンオーナー車で、おそらく前オーナーさんは屋内保管だったみたいなんです。本来であればコンディション良好な個体だったのに、お店に置いてあるときに雹害に遭ってしまったそうです。車体の屋根や右側面を中心に雹が当たり、凹んでしまった箇所がいくつかありました。この雹害のお陰で、1度は売れたものの、キャンセルになってしまったと聞いています。
その結果、長期在庫車だったみたいで……。そこへ私が見初めたようです。思いがけず、カローラFXをいい値段で下取っていただけることになったんです。さらに自分が希望していた仕様で、かつレアなアルテッツァだったので、思い切って乗り替えることにしました」
アルテッツァを迎える。それは同時に、カローラFX 1600GTとの別れを意味していた。27歳になったオーナーにとって初の愛車であり、10代から20代に掛けて過ごした愛車との別れは辛いものがあったようだ。
「複数所有ができればいいのですが、駐車場代を含めて維持費が捻出できず……。2014年末に手に入れてから8年、6万キロをともに過ごしたカローラFXと別れるのは、まさしく“断腸の思い”でした。さらに、雹害の板金塗装を含めた納車整備に時間が掛かり、別れは決まっているけれど、アルテッツァの納車日が決まるまでカローラFXが手元にある状態が数ヶ月続きました。これはこれで辛かったですね。
アルテッツァの納車日であり、カローラFXとの別れの日は職場の友人に同行してもらい、要所要所で撮影をして最後のドライブを楽しみました。でも、振り返ると、あまり感傷に浸らないように努めていた気がします。ここまできたらもう後戻りはできませんから」
ようやく訪れた納車日、それは同時にこれまでともに歩んできた愛車との別れを意味する。嬉しさと寂しさが交錯するオーナーの複雑な心境を、クルマ好きであれば1度は経験したことがあるはずだ。こうしてオーナーはカローラFXとの別れを済ませ、アルテッツァを迎えた。
そして、カローラFXをモディファイしていったときと同様の手法で、オーナーのところに嫁いだアルテッツァは時を遡るかのように本来のコンディションを取り戻していく。
「納車後は、クルマの感覚に慣れるために暇をみつけて走り回りつつ、内外装ともにリフレッシュしました。まず外装に関しては、コツコツとポリッシャーで磨いて少しずつ塗装の艶が甦ってきましたね。板金塗装の仕上げが粗いので、お金を貯めてからきちんとリフレッシュしたいですね。
それと内装に関しては前オーナーさんの使用感を消したかったので、パネルやコンソールなど、あらゆる部品を外してプラスチックの部分をお風呂で洗いました(笑)。ヤレていた革の部分もすべて新品に交換しています。納得がいく仕上がりになるまで3ヶ月くらい掛かりましたね」
クルマの運命は嫁ぎ先で決まるとつくづく思う。販売から20年以上経過したとは思えないほどのコンディションを誇るアルテッツァが、眼前にある。クルマに詳しくない人であれば、このアルテッツァが新車から1~2年落ちの状態だと伝えても信じてしまうほどだ。
オーナーは謙遜するが、ドアやトランクの内側、ホイールハウス……。本来であれば特に汚れやすく、落としにくい箇所に至るまですみずみと手入れが行き届いていることに驚かされる。しかも、ケミカル剤を駆使してきれいにしたというより「新車で手に入れて丁寧に乗っている状態」に映るのは気のせいではないだろう。あくまでも自然な仕上がりなのだ。しかも、まだ完成形ではない。ここからさらにコンディションが良くなっていくようだ。
そしてリフレッシュだけでなく、モディファイもオーナーの流儀と美学に則ったものとなっている。
「ステアリングはウレタンから革巻きのものに。ウインカーとワイパーのレバーも新品に交換しました。トヨタ純正オーディオはカローラFXから移設。ETCは時代考証を意識して、ダッシュボードに設置する当時モノに。
ヘッドライトはコンディション良好なブラックベゼルの仕様をネットオークションで入手して交換。LEDは当時の雰囲気を崩さぬように、電球色にこだわって交換しました。これはドレスアップではなく、バッテリー消費を抑えることが目的です。今後、ゆくゆくはトヨタ純正のアルミホイールに交換したいですね。いまのところ、候補は初代レクサスGSのアルミホイールです」
雹害という不遇なアクシデントに見舞われたアルテッツァを“レスキュー”した形となるオーナー、このクルマのもっとも気に入っているところは?
「“6気筒エンジン&6MTのセダンであるところ”ですね。新古品のTRD製のショートシフトを中古パーツ専門店で見つけたんですが、すでに廃盤でプレミア価格だったんです。定価の倍以上の価格でしたが、ようやく好みの感触が得られるようになりました。もともとのシフトチェンジの感触がいまひとつだったので、妥協せずに購入してよかったと思います」
こだわりを声高に主張しないオーナーに対して、野暮な質問で申し訳ないと思いつつ、こだわりを伺ってみた。
「カローラFXのときと同様に、アルテッツァが新車で販売されていた頃の時代考証をきちんと行い、純正部品を流用しつつモディファイしていくところですね。カローラFXは1990年代半ばだったけれど、アルテッツァは2000年代前半ということになります。敢えて一体型のETC(当時モノ)をダッシュボード上に配置したのもそこが理由です(笑)」
カローラFXのときに磨かれたモディファイのセンスとオーナーの美学は、アルテッツァになってもまったくブレていないことが分かった。声高に主張するのではなく「分かる人には分かる」というポリシーも一貫している。そんなオーナーのクルマ熱の原点ともいえるお父様の反応も気になるところだ。
「父もクルマ好きですが、私ほど細部にまでこだわるタイプではないんです(笑)。これまで6気筒エンジンのクルマを所有したことがなかったこともあり、エンジンの回転フィールのなめらかさや上質感が気に入ったようで、『オレも買っちゃおうかな』と、本気でアルテッツァを買おうとしていた時期がありましたね(苦笑)」
親子で「クルマ」という共通の話題があり、それが「トヨタのセダン」というキーワードまで共通している。父子の会話も自然と盛りあがるのだろう。人生初の愛車との別れ、そして新たな出会い。新たなステージに入ったオーナーが、このクルマと今後どう接していく予定なのだろうか?
「理想の条件を満たすクルマが手に入ったわけですし、少なくともガソリン仕様のクルマではこれでアガリなんだと思います。いずれ本格的にEVの時代が到来したら、そのときにまた考えます」
「2リッター直6エンジン&6MT&FRセダン」という、このアルテッツァのように、現代において奇跡のようなパッケージを持つモデルは2度と造られないかもしれない。
雹害を受け、1度は契約がキャンセルとなり、中古車販売店で次の主が現れるのを待っていたであろうアルテッツァ。絶対的にレアな存在であり、貴重な個体をレスキューし、現代に甦らせたオーナー。偶然であり、必然ともいえる双方の出会いが、この先、EVが主流になるとしても変わることなく続いていくことを願うばかりだ。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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