新車で手に入れてから19年、22万キロをともに歩んできたトヨタ カローラランクス(ZZE123型)
人はなぜ、1台を長く乗り続けることができるのだろう。
本当に好きなクルマと出逢えているから?
あるいは理想のカスタムが完成しているからだろうか?
結果的に長く乗っているだけで、そもそも理由なんてない、というオーナーもいるはずだ。
今回は新車から19年間、1台に乗り続けるオーナーが主人公だ。愛車はオーナーこだわりのカスタムがちりばめられた美しい個体。愛車の魅力とともに、長年乗り続けるための秘訣をじっくりと伺ったストーリーをご紹介したい。
「このクルマは2004年式のトヨタ カローラランクス Z"エアロツアラー"(ZZE123型/以下、ランクス)です。新車から乗り始めて今年で19年目です。現在のオドメーターの走行距離は約22万キロになりました」
現在40代のオーナー。長らく青空駐車だったそうだが、汚れが溜まりやすいドアの内側など、屋外にあったとは思えないほどだ。
たとえ取材前に念入りに洗車していたとしても、エンジンルームやドアの狭いすき間など細部の汚れまでは落とせない。すみずみまで手入れが行き届いているのは、日頃のメンテナンスの賜物だろう。現在はビルトインガレージに収まっており、良いコンディションを維持しているという。
ランクスのボディサイズは、全長×全幅×全高:4175×1695×1460(X,Sは1470)mm。搭載される排気量1795ccの直列4気筒エンジン「2ZZ-GE型」は、同社セリカやロータス エリーゼやエキシージにも搭載された高回転型スポーツエンジンで最高出力は190馬力を誇る。駆動方式はFFだ。
ランクスは、カローラのシリーズ9代目のハッチバックモデルとして2001年から2006年まで生産された。車名の「ランクス」は、英語の「RUN」と「X」と組み合わせることで「究極の走り」を意味する造語である。
ボディカラーは鮮やかなブルーメタリック。この色をオーナーに尋ねた際に「8P1」というカラーコードを教えていただいた。仲間内では「青いクルマの人」で通っており、このクルマのアイデンティティといえる色だろう。
グレードはX、S、Z“エアロツアラー”の3グレードで構成されている。オーナーが所有するランクスは、6MTが設定されたスポーティなモデルで、レーシーな内外装を備えた「Z“エアロツアラー”」だ。モデルは2004年にマイナーチェンジされた後期モデルにあたる。
まずはオーナーのクルマ好きを醸成した原体験を振り返ってもらった。
「幼稚園か小学校低学年くらいの頃だったと思いますが、当時スカイラインジャパンに乗っていた叔父に、専門的な自動車雑誌を読ませてもらったことが始まりだと思います。
それ以降は、高校生の頃に『頭文字D』や『グランツーリスモ』がブームとなり、自分も熱中したことで、本格的にクルマ好きになりましたね」
ここでランクスを手に入れるまでの愛車遍歴を伺ってみた。
「最初はAE91型スプリンターシエロに家族で乗っていました。その後、自分用としてAE92型のスプリンターシエロGT、その次にランクスです。AE92型のカローラレビンGT-Z、スズキ カプチーノを並行して所有していた時期もありましたが、このランクスがもっとも長く所有しています」
ランクスの購入に至るまでの経緯は?
「仕事にも使うので5ドアか4ドアが条件だったんです。ハッチバックでコンパクトなスポーツモデルということで、最初はデュエットの1.3Sを候補にしましたが、ちょうど生産終了となり、同じようなスポーツモデルのランクスにしました。
同じ職場の先輩が色違いのランクスに乗っていたことも影響していますね。休日に一緒にドライブしたり、いろいろと話を聞かせてもらったおかげで、ランクスの良さを知ることができました」
ランクスのどんな点に魅かれたのか、率直に語ってもらった。
「スポーティかつ乗り手が自由に楽しめる…“余白があるところ”でしょうか。6MTの設定が選べて車体価格がリーズナブルなのに故障が少なく、自分好みに仕上げられるベース車としてすごく魅力的だと感じました。
カローラには歴代スポーツグレードがあり、その歴史を感じられるところが好きです。カローラのスポーツグレードに乗る方の多くがそう感じているんじゃないかと思います。
そういえばGRカローラが発売されたときに、当時の豊田章男社長がカローラGTに乗っていたことを知って“ああ、同じなんだな”と(笑)」
オーナーは、ランクスを含むカローラというクルマの懐の深さに魅せられているようだ。そんなオーナーに、愛車との過ごし方を尋ねてみよう。
「ドライブから買い物・サーキット・オフ会までなんでもこなしてくれています。荷物もかなり載るので、新居への引越しにも活躍してくれました。
特にオフ会では、ランクスをきっかけに多様な繋がりで仲間ができるのが楽しいですね。車種は違っても同じエンジン同士で仲良くなれますし、別のオフ会にも顔を出しています。何年経っても参加できるのはうれしいです。さまざまな方の話が聞けて視野も広がりました」
最近ではオフ会の集まり方も変わってきたという。
「かつて販売されていたトヨタ系パーツメーカー『C-ONE』のパーツを愛用しているのですが、そのC-ONEのパーツを装着した車両のオーナー同士での交流を楽しんでいます。同じパーツメーカーが好きな者同士で集まる機会は貴重ですね」
オーナーのランクスを改めて眺める。
ブルーメタリックのボディに真っ白なホイールが映え、精悍なスタイルが目を引く。続いて、手を加えている部分も教えていただいた。
「カスタムは純正パーツの流用と、C-ONEの全日本ラリー車両のイメージをコンセプトにしています。エアロを装着しても主張せず、どちらかといえば引き算を重視した仕様かもしれません。C-ONEのエアロはボンネット・グリル・フロントハーフスポイラーのフロント周り一式です。グリルのロゴは塗装で再現しています。
また、中期型のデザインが好きなので、ヘッドライトと前後のバンパーを中期型に交換しています。ホイールはプロドライブのGC-06Dで、実際のラリー車両で使用されたホイールと同じモデルを選びました。サイドの『TWIN CAM 16』のデカールはAE82型のカローラFXのロゴをベースにしています」
内装で存在感を放っているのは、ディープコーンのステアリングだ。オーナーにとって思い入れのあるアイテムだという。
「純正の本革巻きのステアリングが劣化して表面がボロボロになり、交換するか悩んでいました。そんなとき、妻がこのステアリングを誕生日にプレゼントしてくれたんです。
見た目の良さもですが、ステアリングを換えてからは自分好みのポジションで運転できています。このMOMOのMOD.07は、素材も含め最終的に妻が選んでくれました。こうして古いクルマに乗らせてもらっていることも含め、妻にはとても感謝しています」
手を入れた部分で特に気に入っている点はどこだろう。
「クラッチです。ORC(小倉クラッチ)の309Dというメタルクラッチに換えているのですが、NSRの乾式クラッチのようなシャラシャラという音がとても好きですね。ミートポイントは通常より狭く、日常使いは決して快適とはいえませんが、フィーリングとこの音で選びました」
年数を経て20万キロを超える距離を走行していれば、不具合の可能性も出てくるかもしれない。失礼ながらトラブルの経験を振り返っていただいた。
「一度、外出先でクラッチが切れなくなって困ったことがあります。マスターシリンダーの劣化が原因でした。
それ以外は大きな故障はありませんが、走行距離が20万キロを超えたこともあり、2023年の年明けにエンジンのオーバーホールをしてもらいました」
先述のとおり、エンジンルームも美しい状態を保つ。ヘッドカバーは80スープラ用のボディカラーである“ダークブラウニッシュグレーマイカメタリック”に塗装しているそうだ。続いて、オーバーホール当時のエンジンの状態を教えていただいた。
「いつもお願いしているメカニックから、オイル交換を怠らなかったせいかブロックが綺麗といわれました。ピストンリング・バルブステムシール・チェーン・ホース類など、新品が出るパーツは可能な限り交換してもらいました。整備の度にいつも的確なアドバイスをしてくれて安心しています」
このエンジンならではのウィークポイントに対しても対策を行ったそうだ。
「2ZZエンジンには油圧低下を起こしやすいという問題があります。オイルパンの中にバッフルプレートのようなオイルの偏りを防止するものが付いていないので、Gが掛かってオイルが吸えなくなったときに油圧低下を起こしてしまいます。
そこで、オーバーホールの際に対策の施された1ZZエンジンのオイルパンに交換してもらっています。普通に走る分にはまず問題ないのですが、長く乗ることを考えたら念のため対策はしておいたほうが良いですね」
エンジンのオーバーホールという重整備は、今後も長く乗り続けていくという意思表明ともいえる。
ここで少し意地悪な質問を投げかけてみた。ランクスから乗り替えても良いくらい好きなクルマはあるのだろうか。
「GRカローラですね。久々のカローラのスポーツグレードですので気になります。似たようなジャンルですが、最終的にはやっぱりランクスのほうが好きだなと思ってしまうんですけど(笑)。
元々、後継車種が出れば乗り替えたいという考えは持っていたんですが、ある方と知り合ってクルマ観が変わりました。
会社の先輩の知人で、TE27型のカローラ レビンに40年以上乗っている方を紹介してもらったんです。その方と話をするうちに“気に入っているクルマだったら長く乗ろう”というマインドに変わってきました。
私の目標とする方ですね。
それから、トヨタは86がデビューするまでスポーツモデルに恵まれない時期があったので、なおさら“大切に乗らなきゃな”という気持ちが強くなったと思います。まずは30年乗り続けたいですね」
この取材をしていると「結果的に長く乗ってしまった」という方が多いのだが、オーナーのように長く乗ろうと決めてから長期間維持をしているケースは珍しい。決して自分を縛っているのではない。あくまで自然体なのだ。
現在の愛車の「完成度」と、今後予定しているカスタムのプランについて尋ねてみた。
「現在の完成度は8割くらいです。廃番となっているC-ONEのサイドステップとウイングが装着できれば完成形ではありますが、オークションでの競争も熾烈でなかなか手に入らないんです。理想形はイメージにあるんですけど、じれったいですね(笑)」
そう入手の苦労を語るオーナーだが、こうした楽しみの「余白」を残しておくこともカーライフのモチベーションに必要なことかもしれない。
最後に、愛車と今後どう接していきたいかを伺った。
「10年後も同じように乗っているんだろうなと思います。まず“降りる“という発想がないので、パーツが本当に出なくなるか、自分の体に問題が起こらなければ手放すことはないと思います。
ただ、パーツの供給に関しては先々心配です。エンジンのオーバーホールで感じたことですが、2ZZは1世代しかないので、4世代ある4AGなどと違い、パーツ流用の選択肢が少ないです。とはいうものの、なんだかんだで乗り続けていると思うんですけどね(笑)」
オーナーはそう話しながら笑顔を見せた。
愛車の長期維持の秘訣を挙げるとすれば、
「詰め込みすぎないこと」、
「クルマの状態をきちんと把握できていること」、
そして「家族に感謝できること」かもしれない。
不思議なことに、1台と長く付き合えるオーナーに共通していることだ。愛車との距離感がちょうど良く、寛容さがある。
愛車との距離感や、他人のカスタムと比較して悩むことは、クルマ好きなら誰しもあると思う。悩んでいる方がこの記事を読んでくださり、心の力を抜いていただけたなら幸いだ。
(取材・文: 松村透<株式会社キズナノート> / 編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)
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