「旅するサラリーマン」は、トヨタ ハイラックスにピックアップキャビンを載せる
「富士山のふもと」と言える場所の一角に、ピックアップキャビンを載せたトヨタ ハイラックスを置き、その傍らで焚き火をしている宮本陵太朗さん。彼が何者であるかをもしも端的に説明するなら、「某金融機関に勤務するクルマ好きの宮本さん」ということになるのだろう。
だがすべての人がそうであるように、宮本さんも24時間・365日にわたって「金融機関の従業員」をやっているわけではない。彼の中にもさまざまな“顔”がある。
そういった部分も含めて「宮本陵太朗さんとは何者か?」ということを改めてご説明するなら――最適な言葉はそう簡単には見つからないが、例えば「アウトドアマン」という表現が、比較的適切であるようには思う。
「アウトドアマン」というフレーズには、どこか軽いニュアンスも含まれてしまうわけだが、宮本さんの場合は完全に“ガチ”である。
まぁガチと言っても「6000m級の高山に単独登頂する」的な方向ではないのだが、「写真に写っている土地は自らユンボを動かして開墾した場所であり、後ろに写る小屋も、いただき物の建材を使って自ら作ったものである」と言えば、宮本さんのガチっぷりと、その方向性がなんとなくおわかりいただけるのではないかと思う。
ついでに言えばハイラックスに載っているピックアップキャビンも、ネットオークションにて格安購入したものであるせいか若干の雨漏りが発生しており、それも、自分でリペアしている真っ最中だ。
「お金を節約したいとかではなく、何でもまずは『これ、自分でもできるかな?』って考えちゃうんです。そしてよく考えてみると、私は溶接なども含めてなぜかいろいろなことができるので(笑)、たいていのことは『じゃあ自分でやるか。完成品を買うより、自分でやったほうが楽しいし』となってしまうんですよねぇ……」
北海道で生まれ育ったことが、この気質を生んだのでしょう――と宮本さんは言う。
札幌市にある宮本さんの生家はなぜか「遠出はほとんどしない」というタイプのご家庭で、年に1回、父の実家がある小樽まで行くのが、少年時代の宮本さんにとっては“大旅行”だった。「小学校5年生のときに函館まで行ったときは、まるで海外旅行にでも行ったような気分になりましたよ(笑)」と笑う。
「とはいえ子どもの頃は不満に思うこともなかったのですが、さすがに高校生ぐらいになると『札幌から小樽まではクルマで1時間程度の距離でしかない』ということがわかってきます(笑)。そうなると抑えられていたものが逆に爆発して、猛烈に『外に行きたい!』と思うようになったんですよね」
そのため――と言ってしまって良いと思うが、大学は札幌市内および近郊ではなく、「キャンプをすれば単位がもらえる」と聞いた釧路の国立大学を選択した。
「もちろん『キャンプで単位がもらえる』といっても、遊びのキャンプをすればいいわけではありません。学芸員さんと一緒でないと絶対に入れない釧路湿原(国立公園)内に、夏はカヌーで、冬はクロスカントリースキーで入っていき、けっこうハードなフィールド実習を行う――というものなんですが」
だが釧路湿原でのサバイバル生活(?)は宮本さんの性に合ったようで、「とりあえずあるモノでやる。なければ、必要な道具を自分で作る」というスタイルの野外活動に傾倒していった。大学で学んでいる最中も。そしてその後就職し、結婚し、子宝に恵まれて以降も。
「転勤の多い仕事をしているのですが、熊本県に赴任していた頃は、連休には日産 エクストレイルのディーゼル車(MT)に家族を乗せてフェリーで屋久島に渡り、テント生活をしながら島を1周したりとか……仕事の傍ら、本当にいろいろなことをやってましたね」
だが今から約3年前。新型コロナウイルスに関連して非常事態宣言が発令されたことで、宮本さんは「気ままに移動し、大自然の中に身を置く自由」を半ば失った。
「ビルや家の中にこもって仕事をすることも決して嫌いではなく、むしろ好きなんですが、やはり“それだけ”だと、私のようなタイプは息が詰まってしまうんです。それで『どこかに好き勝手できる土地はないものか?』と思って探していたところ、出会ったんですね。富士山のふもとの、この土地に」
50万円で売りに出されていた土地は「40年間手付かずで、草木は生え放題でした」という状況だったそうだが、交渉して15万円(!)にマケてもらったうえで入手した。とはいえ「そのまま使える」という状態ではなかったため、教習所に通って油圧ショベルの操作資格を取得し、中古のユンボを購入。自らのショベル操作によって“開墾”した。
さらには前述したとおり、いただき物の建材を使って2棟の小屋も自作したわけだが、これらと前後して、かねてからの念願だった「ピックアップトラック」、すなわちトヨタ ハイラックスの購入にも踏みきった。
「私みたいな生活をしている人間にとって、『後ろが荷台の四輪駆動車』って本当に便利なんですよ。後ろが“荷室”ではなく“荷台”だと、かなりの高さがある荷物も載せることができますし、荷物による汚れも気になりません。
まぁ軽トラや小型トラックでもいいっちゃあいいのですが、それらって後輪駆動じゃないですか? 後輪駆動では走れない山道って、実はけっこうあるんです。でも『四輪駆動のピックアップ』なら、荷物を載せたうえで、どこへでも行くことができる。まぁその代わり『天気が悪いと荷物が全部濡れる』というデメリットもあるわけですが(笑)」
2017年9月に現行型トヨタ ハイラックスが発表されると同時に購入を決意し、「はぁ? ピックアップトラック?」と言う妻を2年がかりで説得して2019年、ディーラーの展示車だった前期型を購入。
「はぁ?」と言っていた妻も結果的にはハイラックスの魅力にハマり、2022年9月、現在乗っているアティチュードブラックマイカの後期型ハイラックスに買い替えた。
そして2020年の9月に「この土地よりも高い値段で買っておいた(笑)」というピックアップキャビンを、リモートワークのためのオフィスあるいは“旅のお供”として使用し、さらにはそのリペアにも励んでいる――というのが、現在の宮本さんだ。
「先ほど申し上げた『高さのある荷物も載せられる』『荷台が汚れても気にならない』というのは確かにそうなんですが――それと同時にハイラックスが素晴らしいのは『信頼性が高い』ということなんですよね」
どんな辺鄙な場所であっても「ハイラックスであれば、安心して行くことができる」と宮本さんは言う。
「古い車に乗っていたときは何度も止まってしまったことがありますし、若い頃、冬の北海道の山中でクルマが止まってしまったときは、ハッキリ言って死ぬかと思いました(笑)。でもハイラックスであれば――絶対とは言いきれないのかもしれませんが、でもほぼ絶対に、そういったことにはならない。……私、クルマをピックアップに替えてから毎日が本当に楽しいのですが、その“楽しさ”って、このクルマの“信頼性”があって初めて成り立ってるんですよね。そこは、実は痛切に自覚しています」
移動や行動の自由が戻りつつあり、ワークスタイルの多様化も加速している今。宮本さんはピックアップキャビンの修繕をそれこそ加速させ、「さまざまな場所で働き、そして楽な呼吸とともに生きる」というスタイルを、さらに追求していきたいと言う。
そんな宮本さんの傍らにはトヨタ ハイラックスという、世界規模で考えても有数と言える“頼れる相棒”がいるのだから――その試みは、おそらくは成功裏に終わるのだろう。
(文=伊達軍曹/撮影=阿部昌也/編集=vehiclenaviMAGAZINE編集部)
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