鉄道模型作家がアウトランダーPHEVの荷室に「ジオラマ」を積んで走る想い
一般的に車とは、「乗ってナンボ」あるいは「載せてナンボ」と言える機械製品だ。しかしプラグインハイブリッド車またはEVは、走る・載せるという以外に「給電してナンボ」という特性も持ち合わせている。
人々はそういったプラグインハイブリッド車またはEVの給電性能を、アウトドア趣味や家庭用電力、あるいは非常用電源などに活用しているわけだが、ここに三菱 アウトランダーPHEVというプラグインハイブリッド車を、思いもよらぬ形で活用している人物がいる。
鉄道模型作家の中川三郎さん。彼は今、アウトランダーPHEVのラゲッジルームに600mm×900mmサイズのジオラマというかレイアウトを積み込み、ある種の「出張紙芝居」とも言える活動を行っている。
「もともとは店舗を借りて、鉄道模型のレンタルレイアウトを提供していました。でもあるとき気づいたんです。『せっかく給電可能なアウトランダーPHEVを持っているんだから、その荷室にレイアウトを丸ごと積み込んで、鉄道模型を動かしてみたい人の元へ――まるで昔の紙芝居屋さんが原っぱに現れたように――自分から出向いて行ってもいいんじゃないか?』って」
いくつかの補足説明が必要だろう。「ジオラマ」とは情景模型のことで、展示物とその周辺環境、背景を立体的に表現する、博物館などでおなじみのアレである。そして鉄道模型の世界では、ジオラマの中に模型車両が走るための線路をつなげ、運転を可能にしているものを「レイアウト」と呼んでいる。
しかし日本の一般的な家屋では大きなレイアウトを置けるスペースはない場合が多いため、自身が所有する鉄道模型をジオラマ(レイアウト)の中で存分に走らせたいと願う者は「レンタルレイアウト(=時間貸しのレイアウト)」を利用することで、その願いを叶えている。
補足説明が長くなってしまったが、中川さんは作家として制作活動を行なうかたわら、「レンタルレイアウト業」も営んでいた――という話だ。
「……という具合でレンタルレイアウト業もやっていたのですが、あるとき、たまたま“紙芝居”を見る機会があったんですね。当然ながら何十年かぶりに見たわけですが、紙芝居というもののアナログ性というか、見る人と直に触れ合う“直接性”のような部分って本当にいいなぁと、改めて思いまして」
そして中川さんは思いついた。せっかく鉄道模型にも給電できる車に乗っているのだから、それにレイアウトを積み込んで、まるで昔の紙芝居屋さんのような形で機動的に見せていけば、きっと面白いことが起きるのでは――と。
そうして出来上がったのが2016年式三菱 アウトランダーPHEVの、現在の姿である。
三菱 アウトランダーPHEVは、もともとは「出張型電動紙芝居」を行なうために購入したものではなかった。何車種かの車を乗り継いだ中川さんが、2011年の東日本大震災で「電源喪失」という事態を経験した結果、「自然災害が多い日本で暮らすなら、いざというとき電源車にもなるEVまたはプラグインハイブリッド車がいいのでは?」と考え、まずは2014年に購入したものだ。
鉄道模型と同時にキャンプもたしなむ中川さんは、それを「便利で快適なプラグインハイブリッドSUV」として存分に使い倒し、そのうえで一昨年、現在乗っている2016年式の中古車に乗り替えた。そして相変わらず「いざというときのための非常電源車」として、また同時に普通の荷物を運んだり、あるいはキャンプなどを楽しむための車として活用してきた。
だが「PHEVに自作のレイアウトを載せ、自ら各地へ赴く」というアイデアが浮かび、そしてそれを実践し始めて以来、中川さんとアウトランダーの付き合い方は変わった。
「地方にお住まいの模型作家さんや愛好家さんと直接会って情報交換を行なうため、私はロングドライブをする機会がけっこう多いんです。でも長距離を走っていると、そのうちどうしても『……鉄道関係のモノに触れたい!』という欲求が湧き上がってくるのですが(笑)、これまではそんなときもサービスエリアなどで鉄道雑誌を読んだり、あるいは鉄道関係のサイトを見たりすることでしか、自らの欲求を満たすことができませんでした。
でも今はコレがありますので(笑)、ロングドライブの際には必ずコレを荷室に積んで、セッティングしておきます。で、途中で休憩を取った際にガッとリアゲートを開けて電源を入れ、鉄道模型に触れるんです。すると……めちゃめちゃリフレッシュできるんですよね。そして周囲の人が『それ、何ですか?』みたいな形で興味を持ってくださることで、鉄道模型の啓蒙にもつながりますので(笑)、私にとってはいいことずくめなんです」
そして「ロングドライブ中の自分をリフレッシュさせるため」だけではなく、各地で開催される展示会やイベントなどへもジオラマ(レイアウト)を積載したアウトランダーPHEVで駆けつけ、来場者たちにはなるべく気軽に模型を触ってもらい、そして運転してもらうようにしている。
なぜならば、この600mm×900mmサイズの“世界”が、「街づくり」や「今後の社会」「社会を構成している物々」といった事柄について、各自がちょっと考えてみるきっかけになり得ると、中川さんは考えているからだ。
「鉄道模型作家というとものすごい鉄道マニアで、上モノ(鉄道車両)にもかなり詳しいと思われがちですが、私はそうでもないんです。もともとは幼少期に『線路』への強い興味を覚えたのが、鉄道好きになったきっかけでした。だから今でも上モノにはさほど詳しくないですし、車両自体よりも線路のほうが好きなんですよね」
そして線路に興味を持つと、それに付随するさまざまなことへの興味が膨らんでくると、中川さんは言う。
「線路が作られることで発生する“街”とはどういったもので、現在の街はどういう状況であるのか? また今後の街づくりはどうあるべきなのか? そしてそこで暮らす人々の生活は今後、どうなっていくべきなのか――みたいなことが、線路を中心とする模型を俯瞰で見ていると、どんどん頭に浮かんでくるんです。そして私がアウトランダーPHEVにコレを積んで各地へ行き、多くの人に見てもらい、触ってもらうことで――微力かもしれませんが、より良い街づくりや生活様式などについて、人々が興味を持つきっかけになったらいいなと思っています」
そして中川さんは続けて言う。
「それもこれも、アウトランダーPHEVという車が手元にあったからこそできたことです。もしもこの車がなかったら、模型作家としての今の動き方はできなかったですし、そもそも考えもしなかったでしょうね」
これまで、実演中に三菱 アウトランダーPHEVのバッテリー残量がなくなってしまったことは一度もないという。
それゆえ、もしもこれをお読みのあなたがどこかの街で実演中の中川さんおよび三菱 アウトランダーPHEVに遭遇したならば、ぜひ躊躇せず「自分も見せてもらっていいですか?」と、そして「ちょっと運転させてもらってもいいですか?」と聞いてみてほしい。きっと中川さんは「どうぞどうぞ!」と快諾するだろうし、模型の世界を俯瞰で見ているうちに、あなたの胸中あるいは脳裏にも、何らかのアイデアや意思のようなものが湧き上がってくる可能性は高い。
そして思うだろう。「車には、本当にいろいろな使い道があるものだ」と。
(文=伊達軍曹/撮影=阿部昌也/編集=vehiclenaviMAGAZINE編集部)
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