通勤にも利用、15年かけてオンリーワンに仕上げた日産 スカイラインGT-R
愛車に “他人のクルマとは違う自分だけの1台”という特別感を求める気持ちは、クルマ好きなら共感できるのではないだろうか。
街でおなじ車種を見かけたとき、自分の愛車がそれらとは違ったオンリーワンの存在であるということは重要で、その違いがたとえステッカー1枚だったとしてもオーナーが満足感を得ることができれば十分なのだ。
そして、その欲求がさらに高まった時には、パーツ交換などによって変化を楽しんだり新鮮さをキープしたりすることで、また長く乗り続けようという気持ちも強くなるだろう。
そんな“オンリーワン”の存在を目指して、1996年式日産・スカイラインGT-R (BCNR33)を14年にわたって育て続けてきたのがデブパンパンさんだ。
スカイラインGT-Rといえば、今や世界中で人気を集める国産スポーツの最高峰。中でも“第二世代”と呼ばれるBNR32、BCNR33、BNR34の3モデルに関しては、当時日本国内でのみの販売で海外では流通していなかったこともあり、世界的にプレミア価格で取引されているほどだ。
そんな第二世代GT-RのなかでもBCNR33は、ボディサイズが大きくなったことによる走行安定性向上など走りに関しては3モデル随一の仕上がりとも言われる。販売当時こそほかのモデルと比べて人気はイマイチだったものの、最近では評価が高まり中古車相場も値上がり傾向が続いている。
「ずっとスカイラインが好きで、DR30やHCR32、ER33といったスカイラインを乗り継いできました。その集大成としてGT-R購入を考えたんですが、当初はBNR32かBNR34を狙っていたんです。14年前くらいだったので価格はまだ安定してましたが、予算的に収まる中古車を探すとBNR32はボロばかりでBNR34はギリギリ頑張れば…という感じだったんです。どうせノーマルでは乗らないだろうなって考えると予算いっぱいのBNR34は自然に除外され、コンディションと価格のバランスを考慮した結果BCNR33を選びました」
もともと日産ディーラーでメカニックとして働いていた経験から、BNR32を購入すると修理コストが嵩んでしまうことはあらかじめ予想できたという。また、第二世代と大きく括られているもののBNR32は車体の設計や内容が少々古く、BCNR33からは大きく進化していることも知っていた。もちろんBNR34はさらに進化していることもわかってはいたが、BNR34を手に入れてしまうとカスタムにかける予算がなくなってしまう…ということで、予算内でGT-Rに乗るという夢を叶え、さらに自分好みのクルマへと仕上げる楽しみも実現できるBCNR33は最善の選択だったというわけだ。
メカニックとして働いていた経験を活かし、オイル交換や点火系の整備といった日常的なメンテナンスはもちろん、BNR34純正タービンへの交換、吸排気系のアップデートなども自らの手で行っているというデブパンパンさん。
エンジン周りで使用するパーツはGT-Rらしく走りの性能に関わるアイテムを厳選。レーシングカーのような飛び抜けた仕様を目指すのではなく、あくまでも普段乗りで楽しめる範囲で、なおかつ合法にこだわっているという。
また、クラウンのリア用パフォーマンスダンパーを流用してフロントストラットに装着したり、GT-Rエンブレムを使ってワンポイントのアクセントを加えたりと、自由な発想も取り入れながら愛車を作り上げている。
インテリアについてもGT-Rらしさをテーマにカスタム。BCNR33純正ステアリングは標準スカイラインとデザインがおなじでGT-Rとしての特別感が感じられないため、ホーンボタンにGT-Rのエンブレムが備わるBNR34純正ステアリングに交換。さらに市販のハンドルカバーをプラスすることで、レザーの劣化を抑えつつグリップを太くして握りやすさを改善しているという。
シートも運転席、助手席ともにBNR34純正へ交換したことで、BCNR33純正と比べるとホールド感が格段にアップしたという
追加メーターを装着してエンジンのコンディションチェックを欠かさないのも、パフォーマンスカーを長く乗り続けるための安全策のひとつ。ダッシュボード上にはBNR34純正マルチファンクションディスプレイも流用して装着することで、機能も見た目もBNR34に近づけているのもこだわりのポイントだ。
また、カーボンスカッフプレートやシートアジャスターなど、随所にGT-Rロゴが刻まれたアイテムを装着するなど、第二世代GT-Rに対するこだわりの強さを表している。
エクステリアも他のBCNR33と差別化をはかってアイデンティティを主張している部分。
バンパーやスポイラーはNISMO製を選択し、ボンネットなどのボディパーツは社外品をふんだんに取り入れている。
ヘッドライトは、プロジェクターが採用される純正キセノン仕様では暗くて視認性が悪かったため、タイプM純正のマルチリフレクターを移植すると同時にHIDに変更。これによって光量をアップして実用性を高めるとともに、顔まわりの印象にも変化を与えている。
既製品に頼るだけでなく、こうしたアイデアを自ら作業して形にすることで、自分だけの1台を作り上げているのもデブパンパンさん流のGT-Rメイクというわけだ。
そして、人気車種に長く乗り続けていると、愛用しているパーツがいつの間にか世間ではレアアイテムとして扱われるようになってしまうなんてこともある。
たとえばエアロミラーは絶版になって久しく、マニアの間では争奪戦も繰り広げられることもある人気アイテム。装着しているだけで注目されること間違いなしだ。
ホイールは定番のニスモLMGT4をチョイスし、センターキャップにはR35のフェンダー用エンブレムを流用して貼り付けているという。
足まわりはBNR34純正Aアームに変更するなど、年式の新しいモデルからパーツ流用することで性能を向上させているとのこと。こういったカスタムのために、GT-Rオーナーズクラブに所属するなど情報を常にアップデートする努力も欠かしていないのだ。
「購入当初の走行距離は7万5000キロ程度だったんですが、長らくクルマ通勤していたので23万キロをオーバーしちゃっています。今は転職してクルマ通勤じゃなくなったので走行距離は以前ほど伸びませんが、そろそろエンジンをオーバーホールしたいんですよね。ただ、最近の純正部品を見るとビックリするくらいの値段になっているんです。たぶんもっと値段が上がっていくんじゃないかな。そう考えるとオーバーホールのタイミングも悩んじゃうんですよね」
走行距離を重ねているものの、しっかりと整備されたエンジンは現在のところ特に問題は発生していない。しかし、これからも長く乗り続けていくと考えるなら、早い段階でリフレッシュしたいというのはメカニックとしての本音。しかもおなじオーバーホールメニューでも今後コストが跳ね上がる可能性があるため、早めに手を打ちたいという気持ちも理解できるだろう。
「エンジンのオーバーホールはもちろんですが、同時にボディやハーネスもリフレッシュして、できることならフルレストアしたいなって思っているんですよ。はっきりとした原因はわからないんですが、セキュリティがイタズラをしてエンジンがかからなくなってしまったことがあって…。オーディオ用の高効率なヒューズに全交換したら今のところトラブルは解消したんですが、ゆくゆくはまたトラブルを抱える心配もあるんですよね」
共に歩んだ14年間のあいだに、愛車が少しずつ、でも確実に劣化してきたことは間違いない。その事実を受け入れつつ、なお乗り続けたいと思えるほど大切だからこそ、レストアという言葉も浮かんでくるというもの。壊れたら乗り換えるのではなく、乗り続けるための方法を模索するのは愛情の表れだろう。
「最近は劣化や盗難といったネガティブな方向に気が向いちゃって。普段は月極め駐車場で青空駐車なので、バンパーのクリア剥げなども目立つようになっちゃったんです。だから今後は保存方向に力を注いでいかなければならないかな」
オンリーワンの1台へと作り上げてきたこのBCNR33は、替えの効かない唯一無二の存在。だからこそ、今までカスタマイズによって変化を楽しんできたように、これからはリフレッシュによって愛車がキレイになっていく過程も楽しめるはずだ。むしろ、このプロセスもまた自分だけの1台として愛情が深まる思い出のひとつになるに違いない。
取材協力:トヨタ東京自動車大学校(東京都八王子市館町2193)
(⽂: 渡辺大輔 撮影: 平野 陽)
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